2 / 31
第2話バレてはいけないこの気持ち
「そうだ!桔梗様、新しい刺繍が出来上がりそうなんです。また、みてもらえますか……」
「もちろんだよ。でも、もう私より楓の方が上手なんだけどね」
「そ、そんな……桔梗様の教え方がとても丁寧なおかげです」
ここに来たばかりの頃、何もせずぼーっとする楓を見かねて桔梗が刺繍を教えたのだった。刺繍は今は亡き桔梗の母親が得意で桔梗はよく母親と一緒に居たいために母親から刺繍を習っていたそうだ。
「ところで楓、なんだか熱っぽい気がするんだが……。体調が悪いのか?」
優しく撫でていた桔梗の手が楓の頬に触れた後、その熱さを確かめるように両手で楓の頬を包み込んだ。
「やっぱり熱い……。今日はもう休んだ方がいい」
「だ、大丈夫です!これも捨ててこないといけないですし……」
ーー桔梗様が僕に触れている!
そう思っただけで熱が上がるようだった。楓は自分の気持ちがバレないようにゴミ袋を持ち直すと一度深く頭を下げてゴミ置き場まで走った。
ーーバレてないよね?僕なんかが桔梗様を好きってこと知られてしまったらここにはいられないのに……。
この世界には男女の他に三つの性がある。世の中の2割いるとされている『α』、大多数を占める『β』そして一番少ないとされている『Ω』。αは能力値が高く社会的地位の高い人間がほとんどだ。それこそ有名なスポーツ選手や政治家、企業の経営者などがほとんどだ。βは大多数の一般人でもちろん優秀な人間もいるがαを超えるのは難しい。そしてΩ。男女共に妊娠・出産が可能で、約三か月に一度、一週間程度の『ヒート』という発情期がある。この発情期は薬である程度抑えられることも出来るがほとんどのΩが部屋に引きこもりこの期間が過ぎるのを待つしかない。このせいでΩは社会的地位が低く学業や仕事の面で差別されることも多い。
楓は施設で受けた検査で『β』と診断された。両親もβだったし、特別何かに秀でていない自分もβなんだろうと思っていたからまぁそうだろうなぁって感想しかなかった。
でも、もし自分がαだったらもっと桔梗様のお役に立てたかもしれない、Ωだったら一度くらいは抱いてもらえたかもしれない。そう思ってしまう気持ちもをぐっと胸にしまい込んで楓は仕事に勤しんだ。
この日は落ち葉をゴミ置き場に持って行ったあと、皿洗いを手伝い、自分の分の夕飯をお盆に乗せ割り与えられている自室に向かった。
「えっと、英語と数学の課題を終わらせて……そろそろ期末試験の勉強もしないとなぁ」
教科書とノートを取り出しいざ始めようとするも、ペンが進まない。
ーー体、怠いなぁ……。お腹の下もチクチク痛むし……。
桔梗が言っていたように、ここ何日か体調がすぐれなかった。
寝込むほどではないが体が重く、微熱があって栄養ドリンクを飲みながらやり過ごしていたがそれも効いていなかった。
ーー風邪かなぁ……明日も怠かったら病院に行こう。
はぁ、と大きいため息を一つ漏らすと教科書のページをペラペラとめくり出した。
とその時、コンコンと部屋のドアを叩く音がした。
ともだちにシェアしよう!