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書籍化記念SS デート④

前菜から始まりー-スープ、新鮮な魚料理、ジューシーな肉料理、それに焼き立てのパン。 味もさることながら見た目も美しい料理を食べながら過ごす時間はあっという間で、気が付けば残りはデザートのみとなっていた。 「桔梗さん、ほっぺが落っこちそうなくらいどれも美味しかったです! もうお腹いっぱい……」 「え、本当? まだデザートあるけど食べられない?」 「あっ! デザートは別腹ですよ!」 「だと思った。デザート楽しみにしてて」 桔梗はそう言うと「待ってて」と言いながら席を立った。 楓は不思議そうに、そして寂しそうに首を傾げている。 ー-あぁ、そんな顔をしないでくれ……! 本当はすぐに抱きしめてあげたい。 そう思ったが唇を噛みしめ堪えた。 桔梗はこれから「サプライズその一」を決行しなければならないのだ。 ぐっと拳に力をいれ精一杯の笑顔で楓の方を向いた。 「すぐ帰ってくるから」 「あの、どこに? お手洗いなら僕も一緒に……」 「や、違うんだ! すぐ、すぐ帰ってくるから待ってて!」 楓の返答も待たず部屋を飛び出す桔梗。 そのまま廊下でスタンバイしていた乗務員に案内され辿り着いたのは船内にあるキッチン。 扉を開けると料理長の男性が待っていたかのように満面の笑みで「おめでとうございます」と桔梗に声を掛けた。 「無理なお願いを聞いてくださりありがとうございます」 「いえ、いいんですよ。それより喜んでくださるといいですね」 料理長はそう言うと厨房内にある冷蔵庫から一台のケーキを取り出した。 生クリームとスポンジで出来た小ぶりのホールケーキ。 上にはラスベリー味のバタークリームで作られたバラの花がブーケのようにデコレーションされている。 桔梗は落とさないよう慎重にケーキの皿を手にした。 「きっと、いや、絶対に喜びます」 これを見た楓の顔を想像すると、桔梗までにやけてしまう。 早く渡したい。きっと驚くだろう、どんな表情で喜んでくれるだろうかー- 桔梗は焦る気持ちを何とか抑えつつ深くお辞儀をすると再び楓のいる部屋まで戻った。 ー--ー ドアの前まで来ると一度大きく深呼吸し、声をかけた。 「楓、入ってもいいかい?」 「は、はい! どうぞ!」 楓の返事が聞こえると桔梗の後ろで待っていた乗務員が部屋の扉を開けた。 背筋を伸ばし楓が待つ席まで歩く。 「桔梗さん! 一体どこに……って、え?」 「楓、遅くなっちゃったけど……結婚記念日おめでとう」 すっかり片付けられているテーブルにケーキを置くと桔梗は自分の席に座った。 皿に書かれた「Happy wedding Anniversary」の文字は楓に向けられている。 「え! あ、あの……」 「あれ? もしかして結婚記念日忘れてた?」 「ちがっ! えっと……びっくり、して……」 言葉に詰まりながら話す楓の目には大粒の涙が浮かんでいる。 焦った桔梗はズボンのポケットからハンカチを取り出すと楓の傍に寄るとそっと涙を拭き取った。 「楓、どうした? ケーキ、ダメだったかな?」 「違う!違うんです! 嬉しくて……結婚記念日、小梅のことで必死で僕たいしたことしてあげれてないのにっ。桔梗さん、忘れずにいてくれた……!」 「忘れるはずないよ。待ちに待って、待ち焦がれて入籍した日なんだ。……もう泣かないで?君の笑顔が見たい……」 「うん……。桔梗さん、ありがとう」 やっと顔を上げた楓はもう泣いていなかった。 にっこりと笑う楓に桔梗も微笑みを返す。 「一つ目のサプライズ成功だ」 「一つ目……?」 「楓。目を瞑ってて」 「は、はい……」 楓がぎゅっと目を瞑ったのを合図に桔梗はもう一度ドアに向かって歩き出す。 そしてドアの外で待っていた乗務員から花束を受け取ると楓の待つ場所まで歩いた。 「目を開けて」 「はい……」 目を開けた楓の前に片膝をつくと花束を差し出した。 「わぁ……! バラの、花束……」 「受け取ってくれますか?」 「も、もちろん……! ありがとうございます!」 桔梗が渡したのは真紅のバラの花束。 楓は抱えきれないほどの大きさのバラを落とさないように両腕で抱きしめている。 「すごい大きさ……! 僕の卒業式の日……あの時もバラの花束でしたね」 「あの時は百八本。……今日は何本だと思う?」 「え、っと……、百本?」 「正解! じゃあ百本のバラの花言葉って知ってる?」 「なんだろう? 桔梗さん、教えてください」 桔梗から答えを知りたいのだろう、楓はいたずらっ子のように笑っている。 その意図を汲み取った桔梗は、楓の腕を取ると唇と唇があたりそうなほどまでに顔を寄せた。 「正解は『百パーセントの愛』だよ。……楓、愛してる」 「僕も。僕も桔梗さんのこと百パーセント愛してます」 どちらともなく近づくと、柔らかい唇がちゅっ、と音を立てながら触れ合う。 「桔梗さん、今日はありがとう。幸せな一日だった……。また、デートしましょうね?」 「もちろん! 毎日でもデートしたいくらいだ!」 お互い顔を見合わせるとくすくすと笑いあう。 なんて幸せな時間なんだろう。 楓と過ごす時間は十年前から変わらない、甘くて穏やかな陽だまりに包まれているようだ。 こんな日々が永遠に続くようにー- そう願いながら楓の薬指に光る指輪にそっと口づけた。 end

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