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書籍化記念SS デート③

しばらくバラ園を堪能したあと、二人は船乗り場に向かっていた。 十五分程歩くと有名な赤いレンガの建物と船乗り場が見えてきた。 「僕、船乗るなんて初めて!楽しみです……!」 楓は目をきらきらと輝かせながら胸の前で両手を組んでいる。 初めての船はよほど嬉しいらしく、喜ぶ様子はまるで幼い子供のようだ。 「喜んでくれて嬉しいよ。実は秘密にしてたんだけど……。船の上でランチするのはどうですか?」 「えっ……!?」 楓は目をまん丸にして驚いた。 それもそうだろう、楓には「ランチは行ってから決めよう」としか伝えていなかったからだ。 ー-何年たっても、どんな表情していても楓は可愛い。 桔梗は体を屈めるとぽかんと口を開けたままの楓の頬にちゅっとキスをした。 人前だというのに、愛しい気持ちが溢れてどうしても我慢ができなかった。 楓は桔梗からのキスに目を見開いたままだったが次第に顔がりんごのように真っ赤になっていった。 「さぁ、行こうか。船が出てしまうよ?」 「き、桔梗さんってば!」 照れているのだろう、握った楓の手のひらが熱い。 隣で「もう!」と怒る楓の姿も可愛くてたまらない。 「どうか、サプライズが成功しますように」そう願いながら桔梗は優しく微笑んだ。 ー--- 乗り場に着くとそこには白いクルーズ船。 桔梗は楓の手を優しく握りながらそのまま船の入り口に向かう。 入り口すぐの受付にネイビーの制服を着た若い女性の乗務員が立っていた。 「ご予約のお客様でしょうか?」 「望月です。二名で予約しているのだが……」 乗務員の女性は持っていた予約客の名簿をチェックすると桔梗と楓にむかってニコリと笑い丁寧にお辞儀をした。 「ようこそいらっしゃいました。艦内をご案内いたしますね」 「よろしく頼む」 「あっ、よ、よろしくお願いします……」 まだ楓は緊張しているのか、落ち着かない様子で視線をキョロキョロさせている。 そんな楓を安心させるように柔らかい手をぎゅっと握りしめた。 ー--- 艦内は一階、二階、二階から出入りできるオープンデッキ。そして三階のスカイデッキと分かれている。 一階、二階ともに豪華なイスとテーブルが置かれていてまるで高級レストランのようだ。 桔梗と楓が案内されたのは二階席のメインダイニングではなくその奥にある個室だった。 メインダイニングよりは小さいものの二人席には十分すぎるほどの広さに楓は思わず目を瞠った。 「個室って……なんだか緊張しちゃいます……」 椅子に座った楓は向かいの席に座る桔梗に聞こえるか聞こえないかほどの声で呟く。 「たまたま取れてね。どうせだったたら周りを気にせず楓とゆっくりしたいと思って」 その言葉に楓は「嬉しい」と頬を赤く染め微笑んだ。 「たまたま取れた」なんて本当は嘘だ。 この日桔梗は個室を取っただけではなく、この船を貸し切りにしていたのだ。 船を短時間でも貸し切りにするのは難しい。 本来、船を貸し切りにできるのは企業のパーティーに使う目的で大人数の場合のみだ。 個人的なー-ましてや二人だけのために貸してくれるはずがない。 それでも貸し切りに出来たのは桔梗の社会的信頼と金銭面の力が大きい。 「もうすぐ料理がくるよ。……フレンチ料理は滅多に食べないから楽しみだね」 「はい! もうお腹ぺこぺこです!」 そうして二人は心地よいBGMと窓から見える輝く海を眺めながらフレンチ料理を堪能したのであった。

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