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書籍化記念SS デート②
山上公園の中には大きなバラ園があり、カップルや家族連れに人気のスポットだ。
この時期、ちょうどバラが見ごろということもありバラ園には色とりどりのバラが咲いている。
「うわぁ、こんなにたくさんのバラ! 望月のお屋敷も立派だったけど……ここは種類もたくさん……」
「ここは約160種2,600株のバラがあるらしいからな。それに比べたら望月のバラ園なんて小さいものだよ」
「そ、そんなに……!」
迷路のようになっているバラ園をゆっくりと歩く。
考えればこんな風に二人でゆっくり歩くなんていつぶりだろうー-
三人で出かけることはあっても楓か桔梗どちらかはベビーカーを押していて、時には泣く小梅を抱っこしなくてはいけなくて風景をゆっくり見る余裕なとなかった。
ー-連れてきてよかった……。
花の香りを堪能したり、写真を撮ったりしながら微笑む楓の姿を桔梗は慈しみながら眺めていた。
「楓」
「はい! 桔梗さん、見てください。上手に撮れましたよ!」
名前を呼ぶと楓は目じりを下げながら柔らかく微笑む。
それは母親の微笑みではなく桔梗のただ一人の恋人の微笑みだ。
ー-いつも可愛いけど、今日は特別に可愛い。
桔梗は楓の肩に手を回すと楓の携帯を覗き込んだ。
「本当だ、上手に撮れてる」
「でしょう? 桔梗さんにもあとで送りますね!」
「ありがとう。でも私は一緒の写真も撮りたいんだけどね?」
「え……?」
そう言い楓の手から携帯を取るとインカメラの設定にし腕を伸ばした。
「はい、楓笑って!」
「え、は、はい!」
楓の「はい」を合図に何度もシャッターボタンを押す。
カメラに映るのは幸せそうな桔梗と照れたり笑ったりころころ表情が変わる楓の姿。
桔梗はそれを確認すると満足そうに楓に携帯を返した。
「桔梗さんっ……!いきなりだとびっくりしますよ」
「ごめんごめん。だって楓が可愛いから。……この笑顔は今日は私だけのものだと思うと写真に撮っておきたくて」
真っ赤になった楓の頬を指先でするりと撫でる。
番への独占欲なのだろうか、いつもは小梅にむける笑顔が今日は自分だけのものだと考えるだけで胸が高鳴る。
桔梗は楓の頬に優しくキスをするとまるでお姫様をエスコートするように腕を差し出した。
「さ、バラ園を見たら今度は船に行こう。見たいって言っていただろう?」
「はい!行きたいです!」
楓もその腕にそっと手をかけると二人はバラ園の中を歩き出した。
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