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終わった恋を咲かせましょう

 あの日を思い出していた俺は、ハタと首を傾げた。 ――オレはずっと、お前の側に。  胸をざわつかせるその言葉を反芻させ、パッと顔を上げ先程の男の子の姿を探す。  あれから数時間が経っている。もうすっかり空は暗く、遠くにある人の気配までは探れない。 「澄音?」  それでも、俺は待ち人の名を呟いた。 「澄音!」  いない、そうだ、こんな近くにいるわけがない。  澄音はあの日からずっと病院のベッドの上、怪我が治っても目覚める事はなく、ただベッドの住人と化している。 ――がさっ。  その時、物音がした。  振り返ると、スーツを着たサラリーマンらしき男が立っていた。いつものように手にはお菓子を持っていて、俺が「澄音?」と呟くとその場から逃げようとする。 「待てって!」  逃げる彼の腕を取り、俺は「澄音なのか?」と尋ねてみた。 「すおん、って……誰だ?」 「……人違い、か?」 「いや、待て。分からないんだ。自分が誰なのかも、どうしてこんな事になっているのかも。ただ気付けば誰かの体を借りていて、気付けば君を探していて、少しでも視界に入ろうとしてる……君はオレを、知っているのか?」  澄音、だ。  姿かたちは違う、だがそれは紛れもなく待ち望んでいた人だった。 「好きだ!」  そうと気づくと俺は叫んでいた。  あの日伝えきれなかった俺の想いを、言葉を。今度こそ伝えられるようにと。 「ずっと、ずっと好きだった、お前に好きになってもらいたいと思っていた! だからリセットなんてしないでくれ、俺の側にずっと居てくれ!」  切実な想いが涙へと変わる。  ギュッと力強く抱きしめた、いつもより大きな体から腕が伸ばされたのは、それから少ししての事だった。 「よく分からない、が……漸く、帰る場所を見つけた気がする」  ホッと落ち着いたような声音に、一気に体から力が抜けた。 「大丈夫ですか?」  少しボーっとした後、サラリーマンの男が俺に気付き手を伸ばしてきた。だが俺はその手を取らず、溢れてくる涙を止められず、戸惑うその人を無視し子供のように泣きじゃくる。  大丈夫、だ。  きっともう、大丈夫だ。  彷徨っていた澄音の魂を、やっと俺は見つけられた。  ずっと側にいてくれたんだ。  次に病院に行った時、彼は一年越しに自分の体を動かしている事だろう。  その体を抱きしめて、もう一度『好き』と言おう。  もうすれ違いが起きないように、何度も何度も声に出そう。 ――初めて同士の、恋の花を咲かせよう。  そう考えながら、俺は涙を拭い歩き出した。

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