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錦に選ばれたのは、この世に僕しかいない。

「そういや、昔送迎会と新人歓迎会の時に席争奪戦あったでしょ。あれも中々地獄でしたが今回は彼女の座がかかってるので凄まじそうですよね」 「君の所為で思い出したじゃ無いか。恐ろしい! 本当肉食獣かと思ったわ。甘ったれて可愛いく振る舞って見せてもあの獣臭は隠せないね。ちなみに僕はあんなふうに媚びる女は好みじゃない」 「え? あれ、席争奪戦で優勝した人って人気ナンバーワンの柏木さんですよね。清楚で凄い美人ですよね。芸能界に普通にいそうじゃ無いですか?」 「美人? 僕の事か。当然だな」 何故なら錦の恋人だから僕が美人なのは当たり前なのだ。 美しくて、逞しくて、強い男。 つまり僕だ。 しかし、同じ共通点を持っていれば錦の恋人になれる資格がある訳ではない。 錦が頭を差し出して、撫でろと偉そうに強請る程度には愛されていないと駄目だ。 つまり僕だ。 錦に選ばれたのは、この世に僕しかいない。 無言になったじゃが芋を放置し、もうこれ断るならドタキャンだなと考え直す。今田のメンツも潰れるし一石二鳥だ。 忘年会、忘年会、忘年会ね。 部署の皆で集まってアルコールに食事を楽しみ、慰労し親睦を深め、あまり会話の無いメンバーとのコミュニケーションを測る。 成程、意義はあると認めよう。 しかし、コミュニケーション能力が無いとまずこの仕事は出来ない。 仕事での付き合いなのだから、腹を割り話す必要も無い。 忘年会の場でなくても、親睦を深めるのも慰労も個人の意思さえあれば容易だ。

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