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僕、錦君の犬になりたい

――いけない。 こんなことで苛ついて居てはいけない。 錦に再会するとき、敏い彼なら荒んだ状態を一瞬で見抜く。 錦は海輝を心底愛してるので、とても心配するだろう。 錦の心労を考え、静かに深呼吸を繰り返す。 深呼吸すると、生温い空気が入り込む。 まるで、人肌の様に温い。 人肌か。人肌と言えば錦の体温は大体平均的に三十五.四度。 偶に三十六度に達する。 日本人の平均体温を考えても少し低い。 体温の高い海輝が抱きしめると、錦の温度はどこか頼りなくて繊細な柔らかさが際立つ。 錦は海輝に抱きしめられると目を細め、頬をシャツに埋める。 温かいと少しだけ笑う。 錦君も温かいよと上から見下ろすと、錦の睫が蝶の羽の様に揺れる。 それを見るのが好きだ。 何時ぶりだろう。 この角度で彼を見つめるのは。 そして、ゆっくりとこちらを見上げる黒い瞳――。 「――っうっ!胸が」 これが上目遣い四十五度の魔力か。 ドキドキして胸が痛い。 堪らない。 ――錦君!! 抱っこして尻を両手で揉みしだきながら、ハスハスしたい。 抱きしめれば、ベビーパウダーかミルクビスケットの香りが仄かに鼻孔を擽るのだ。その香りを楽しみながら髪の毛に鼻先を埋めて、耳朶、首筋へと唇を滑らせたい。 柔らかな頬と唇を食んで、恥ずかしそうな顔をした錦を厭らしい言葉で揶揄って辱めて、機嫌を損ねそうになったところで甘やかす。 すると拗ねた顔で彼は許してくれる。 可愛い。 抱っこして犬の様にペロペロ舐めまわしたい。 顔面に跨らせて、股間をハフハフしたい。 堪らない! 大好き錦君!! 僕、錦君の犬になりたい。

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