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第1話 見つけてくれた
偽りの自分を作って気の合わない他人と過ごすくらいなら、独りでのんびり過ごした方が心地いいのかも。
教室の窓際の席で頬杖を付き、空を見上げながらため息を吐いた。
時間は有限だ。人生なんてあっという間に終わる。だから楽しく、幸せに暮らしたい。
この間、一番仲良くしていた友達が家の都合で転校してしまった。クラスですでに出来上がっていたグループに混ぜてもらおうとするのは、簡単なようで結構難しかった。
いじめられてるわけじゃないけど、居心地は良くない。
もっと自分が、天真爛漫で人懐っこい性格だったら良かったのに。
(高校は、離れた所にしよう)
いっそ、寮にでも入ろうか。
けれど寮生活する為の理由がない。
特段飛び抜けて得意分野がある訳ではないので、それは無理だ。ならせめて、ここにいる人が誰も志望しないような、通うのが大変そうな高校だったら。
担任の先生には、再三にわたる勧告をされた。
近くにも似たような学校があるし、わざわざこんな遠い高校を選ばなくても。
いえ、どうしてもここがいいんです。ここの制服が着たいんですと頑固一徹になると、最終的には折れてくれた。
高校デビューは、可もなく不可もなくといったところで。
今度はもう少しうまくやれるかと思ってたのに、たまに失敗してしまう。
例えば、クラスのグループメールでのこと。返事をすぐに返していたら「創 っていつも暇なの?」と草を付けられた。
悪意を持って言った訳ではないと思うけど、ほんのり、傷付いた。
机の中からロリコンキャラがエッチな顔をしている表紙のエロ本が出てきたこともあった。もちろん自分のじゃない。
え、と固まっている自分を囲んだ数名の男子は、大はしゃぎして女子の目線を気にしながらその本を高く上げた。
みんなに笑われて恥ずかしい思いをしたけれど、笑って返した。
バカ騒ぎに興じるだけのノリの良さなんて、自分にはないのに。
親しみと馴れ馴れしさの境界線って、難しい。
人付き合いって、難しい。
人といるのは楽しいけれど、疲れるな。
胸にしこりが常にあるような状態で、二年に上がった。
一年の時みたいに、子供みたいな悪戯を仕掛ける男子はいなくなったので、少しだけ気が楽になった。仲の良い友達もできて、毎日が楽しかったけれど、メールのやり取りはやっぱり気を遣った。
ネットで調べると、同じように悩んでいる人が結構いることに気づけてほっとした。
メールをわざと開かないようにする、あえてすぐには返信しないようにするなど、裏技がたくさん載っていたのでその通りにした。
──はぁぁ。俺は一体、いつになったらこんな無意味な気遣いから開放されるのだろう。
でもうまくやらなくちゃ、また一人きりになってしまう。
そう考えると、お腹の奥がズキズキと痛くなってくる。
学校のトイレの洗面台に両手を付いて顔をうつむけて、針を刺すような痛みに耐えた。
しばらくこうしていればいつもは波がさっと引いてくれるのに、今日は調子が悪いようだ。
(あれ……どうしたんだろ)
昨日の夕飯に油っこいものを食べたからだろうか。
痛みが引くどころか、どんどん鋭くなっている気がする。額に汗が滲み、掴んでいる手にも力がこもる。
90度に腰をおり、賞状を受け取るみたいな体勢になりながら、ううーと唸った。
「大丈夫?」
声を掛けてきたのは、クラスメイトの紺野くんだった。
──うわ、変なところ見られた。
体を起こして、大丈夫と咄嗟に言うと、いやいや、と瞳の奥をのぞき込まれた。
「顔色良くないし。気持ち悪いの?」
「……ちょっと」
「保健室行くか」
「いや、そこまでじゃないし」
「連れてってやるよ。俺も授業サボれるし」
あぁそういうことか。
そう納得した時、目の前に手を差し出された。
まさか、手を繋いで俺を連れていくつもり?
「自分で、歩けるから」
照れながら言うと、紺野くんは「そうか」と返事をして歩き出した。
おおきなその背中についていく。
紺野くんとは、あまり会話をしたことがない。
中学からほとんど成長していない細い体の自分とは違い、紺野くんは体がおおきくてかっこいい。クラスのムードメーカーで、いつも活発なイメージ。
その反面、苦手かもと思う瞬間も多少はあった。
一年の時に悪戯をしてきた、よく悪ノリをしてきたあの人に醸し出す雰囲気が似ているし、その低い声が怒っているようにみえるのだ。
けれどそうみえるだけで、怒ってはいないのだろう。
俺の手を握ろうとした彼は、きっとやさしい人だ。
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