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第15話 甘くてせつない*

 大きな手でそれをゆっくりと上下され、甘美な刺激に背中がゾクゾクとしてくる。  かわいがる、という表現がピッタリくるような、優しい触り方だった。大事にされているのだと思うと余計に感じて涙も滲む。浴室の湿った空気の中に、時折俺の嬌声が響いた。 「ん、ん……や……ぁ」  声が反響すると恥ずかしくて耐えられない。  声を少しでも抑えられるように、自分の親指の付け根を噛んで快感に酔いしれた。 「そんなに噛んでると、血が出るぞ」  噛んでいた手を外されて、目を開いてしまう。  欲情している千歳が、くちゅくちゅと俺のを上下させているのを間近で見てしまうと、頭が沸騰した。 「あ……あ、あ……っ」  しっかりと天を向いているその先端から先走りがとぷとぷとあふれ出て、千歳の指を汚している。  出てきた蜜をからめとられて、指先で先端をくるくるとなぞられると気持ち良くて、腰がびくんと跳ね上がった。   「や……待っ……!」  いやいやと首を振りながら、震える手でシャワーカーテンを掴んで握りしめた。どこかに力を入れないと、あっという間に吐き出しそうになってしまう。  恋人の目の前で、しかも風呂場で出すだなんて恥ずかしすぎるし、絶対に避けたい。なのにもっと快感の隅まで追い込んで欲しい願望もあって、いろいろとパニックで頭が白んでくる。 「す、ストップ……! 出ちゃうから……ッ」 「いいよ。イッて」 「だめだめ……っ、汚すから……ぇ? あ、あ……!」  訴えかけた時、千歳は信じられないことに、そこを躊躇なく口に含んだ。  先走りでいっぱいにしているのに、先端を舌先で割ってそこに押し入ってくる。かと思えば根元近くまで咥えて、全体を舌で愛撫したりもして。  ほんの少しの動きにも敏感になって、はしたない声が漏れてしまう。こんなに恥ずかしいこと、やめて欲しいのに。でも本当の自分は、千歳のあたたかな口の中にずっと包まれていたいと思っている。  くびれの部分を舐めると一段と腰がビクビクと跳ねるのに気付いたのか、千歳は執拗にそこをいじめてくるので、太腿の震えが止まらなくなった。 「ん──……だ、め……ほんと……あ、あ……っ」  カーテンを思い切り下に引っ張ったせいで、金具が高い音をたてて二つほど外れてしまった。  やめるようにお願いしても、千歳は全然やめない。  限界の限界まで耐えていたけど、俺はついに一際高い声を上げて達してしまう。 「ん、あ、あぁ……っ!」  千歳の口の中に全部、欲望を放った。  それをなんの躊躇いもなく、千歳は飲み込む。  快感に浸っていた時よりも、カーッと顔に熱がいくのを感じる。 「なっ……なっ、なん……」  なんでそんなこと、と言いたいのに、動揺して全く言葉にできない。  千歳はふふっと笑って、俺の頭を撫でた。 「入居したてなのに、早速壊すなよ」 「だって千歳が……っ!」 「気持ち良かった?」 「……うん」 「この先もベッドでしたいんだけど、大丈夫?」 「……今度は俺が、たくさんしてあげる」 「それはたぶん、無理だと思うけど」  千歳にそう鼻で笑われてムッとする。  どうして無理だと言われたのか、答えは数十分後のベッドの上で分かった。  風呂上がりにせっかく着た衣類を、包み紙を剥がすように丁寧に脱がされていく俺は、さっそく千歳のキスの雨を受け止めただけで体がトロトロになり、自分から何かしてあげる余裕が無くなった。 「ん、ん、」 「創は可愛いなぁ」  耳元でそう囁く千歳は、一つも衣類を脱いでいない。  俺だけがどんどん素肌をあらわにしていく。  耳の中に舌を入れられ、首筋を甘噛みされて。  さっきは一瞬だけ触れた乳首も、今度はしっかりと親指と人差し指できゅっと摘まれ、緩く上下にこすられた。  放ったばかりなのに、俺のそれはもうすでに昂りを取り戻していた。 「ん……あっ、ん──……」 「だから、そんな噛むなって。ほら、歯型付いてんぞ」  噛んでいた手を、またゆっくり外される。  だってこうでもしないと、変な声が勝手に出てしまう。  このお部屋は防音バッチリです、とは聞いたけど、万が一にでも聞こえていたら恥ずかしい。  千歳はまた、胸の突起をいじり始めた。  予め濡らしておいた指で優しく触れてくる。  ビリビリと背筋に電流が走って高く声を上げそうになったが、両唇をギュッと噛むことでなんとか耐えた。  押し潰したり爪の先で引っ掻いたり、いろんなやり方を試して俺の表情を観察し、どれが一番お気に入りなのかを見極めている。 「……こうなったとき、創はどんな顔するんだろうなって何回も頭ん中で考えてたんだけどさ」  火照った顔を冷ますように、千歳は俺の頬に手を添えた。 「予想してたよりも何倍も可愛い。お前が愛しくてしょうがない」  自分も千歳へ愛しさを証明したいのに、熟されたバターのように全てがこの人に溶かされてしまう。その瞳も、たくましい身体も、大きくてあったかい手も、全部好きだ。

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