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トドメを刺してと君は言う【中編】 2

お水と、タオルと、体温計を持って急いで爽の部屋に戻る。 一応ノックをしてドアを開けると、薄目を開けた爽がこちらを見た。汗で前髪が額にくっついている。いつも爽やかで完璧なルックスの爽からは考えられないくらいクタっとしていて…正直めちゃくちゃ新鮮だ。 「………あ…き?」 「爽…大丈夫?」 ベッドの横には脱ぎ捨てられたスラックスがグチャッと放置されていて、余裕のなさが見て取れた。キッチリした性格の爽は普段ならどんなに忙しくてもこんな風に衣服を放置したりしない。 つまり、相当苦しいってことだろう。 「お水…持ってきたよ?飲めそう?」 「………た、ぶん……、あの……あき…?」 「ん…?なぁに?」 「迷惑かけて……ごめん、な?」 水をコクリコクリと飲み下しながら、眉を下げて俺を見る爽に…なぜかきゅんとしてしまう。 そんなの、全然気にしなくていいのに…… …むしろ、 「なんで?全然迷惑じゃないよ?」 「………けど、」 「ふふっ……看病してる間、ずっと爽といれるの…俺嬉しい」 「……え?」 「…最近爽、お仕事すっごく忙しそうだったから…一緒に過ごす時間減っちゃってたし……だから、嬉しいよ?俺…今日は付きっきりで頑張るから!」 「………お前って……ほんとに…」 「…ん?」 「……いや、なんでも…ない……というか、風邪、移る…ぞ?」 「あははっ!大丈夫!俺案外身体強いから!」 なーんて、この見た目じゃ説得力ないか。けど、あんまり風邪ひかないのはほんとだもんね。 俺がニコッと笑うと、爽は目を細めて俺を見た。そのままギュッと手を握られて、ちょっとドキドキする。 あれ…やばい……なんか顔が熱い。 俺、赤くなってないかな…? 弱ってる爽には悪いけど、一緒にいれるの…ほんとに嬉しい。爽と一緒にいると、俺……いつも幸せな気持ちになれるから。 一緒に住み始めて約2ヶ月…… いつの間にか爽は、俺にとってとても大切な人になっていた。そりゃ、小さい頃から知ってるし昔から大好きなお兄ちゃんではあったけど、こんな関係になれるなんて思ってもいなかった。普通、距離が近くなればなるほど人って嫌なところがたくさん見えていくものだし、それこそ実家にいたときだって…家族相手ですら腹を立てることはあった。みんなそうでしょ?100%嫌なところが無い相手なんて存在しない。そう思って生きてきたし、それが当たり前だと諦めてた。 なのに、爽は違った。 どこまで踏み込んでも、嫌なところなんてカケラもない。ちょっと意地悪だったり、俺をからかって遊ぶことはあっても、そこにはいつだって俺への愛があって……むしろ、心地よかった。 俺は爽と、もっと仲良くなりたい。 初めてこの家に来た時、爽も俺と仲良くなりたいって言ってくれたけど…こういうことだったのかと、やっと理解した。 俺は…爽の、そばにいたい。 もっと……この人の、 特別になりたい。 「……?あ、き…?どした…?」 「…ううんっなんでもない!じゃあ…体温、測ろっか?」 「……ん」 「ハイ……ジッとしててね?」 爽の脇に体温計を挟んで、ポンと頭を撫でる。普段凛々しい爽の虚ろな瞳に、ギャップを感じてまたきゅんきゅんしてしまう。 イケメンは弱っててもイケメンだ。 持ってきたタオルを取り出して、額の汗を拭く。弟以外の看病なんて初めてで、上手くやれている自信はあんまりないけど…、精一杯やろう。 「あ……き、俺…はな…し……、」 「ん?ああ…お話?…元気になってからでいいよ?」 「……でも、」 「なにか、大事な話なんでしょ?なら…元気になったらゆっくり教えて?」 「………わかっ、た」 ゆっくり目を閉じた爽の脇から、そっと体温計を抜く。 39.4℃ こんな高熱…滅多に出るもんじゃない。辛いに決まってる。苦しい顔の爽に、不安が募る。 俺、どうしたらいいの? 爽のために何ができる? 何もできない自分に腹が立つ。 爽が苦しむ姿を見るくらいなら、自分が苦しい方が何倍もマシだ。 あれ………? この感情って……… ピンポーンッ 遠くから鳴るインターホンの音に、俺は慌ててリビングに向かう。 インターホンの画面を見ると、コンシェルジュの山川さんが白衣の男性と一緒に映っていた。白衣……ってことはお医者様? てっきりお義母さんがくると思い込んでいた俺は、予想外の光景に目を見開いた。 ガチャッ 「あっあれ!?あの……山川さん?」 『日下部様!お医者様がいらっしゃってますが…お通ししてよろしいですか?』 「あ!はい!」 お義母さんの言ってた"任せて"ってこういうことだったのか…! しばらくして、玄関の方のインターホンも鳴ったのでドアを開ける。扉を開けた先には、初老のお医者様と看護師さん、そしてコンシェルジュの山川さんがいた。 「あの、わざわざありがとうございます…!」 「いえ、奥様から御子息が体調を崩されたとお聞きして参りました…お部屋はどちらでしょうか…?」 「あ、えっと左奥です…」 「…お邪魔しても?」 「もちろんです!どうぞ!」 お医者様と看護師さんは、すぐに部屋の中に入っていく。 お金持ちってすごい……お医者様…呼びつけちゃうんだ…!! 「あの、日下部様…大丈夫ですか?」 「あ…はい…!山川さんもわざわざここまで来ていただいてすみません…!」 「いえいえ、私も心配でしたので」 「山川さんが爽の体調のことすぐに教えてくれたんで助かりました…!ありがとうございました!」 「……いえ、当たり前のことでございます」 そう言うと、山川さんは俺の顔に手を添えそのままスリッと頬を撫でた。何故か身体中からゾワっと鳥肌が立って思わず後退る。 なんだろ…、爽以外にこれされるの……ちょっと嫌かも。 「あ、…あの…?」 「……では、また何かありましたら何なりとお申し付けくださいませ」 「あ……はいっ!ありがとうございました」 扉を閉めて、爽の部屋に向かう。 さっきの、何だったんだろう…? 山川さん、なんだかいつもと違う感じがした。

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