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トドメを刺してと君は言う【中編】 3

爽の部屋に戻ると、本人はいまだに眠っているようで、看護師さんが点滴の用意をしている。 お医者様はベッドの横の椅子に腰掛けて、何やらカルテを記入しているようだ。俺が来たのに気付いて、チラリとこちらを見た。 「あなたは……爽くんの……」 「あっ…あの、なんていうか…一緒に住んでる…と、友達です」 名目上は許嫁です。 …なんて、そんなこと言っていいのかどうかもわからないので、適当に返事してしまったけど…お義母さんのことだからお医者様にも伝えているのかもしれない。 まぁ、それならそれでいっか。 もういまさら…恥ずかしいもクソも無い。 「……そうでしたか……爽くんは、栄養をたくさん取って安静にしていればすぐ良くなりますよ」 「ほんとですか…?」 「はい」 「凄い熱なんですけど…これもすぐ下がりますか?」 「点滴に解熱剤も入っているのですぐ下がると思います…ですが、薬が切れたらまた熱が上がる可能性がありますのでその時は今からお渡しするお薬を飲ませてください」 「わかりました…!」 よかった…!! じゃあ今日は栄養満点のお粥でも作ろうかな。 「日下部さん…でしたよね?」 「あ、はい!日下部です!」 「日下部さんは……爽くんが……小さい頃、とても身体が弱かった事をご存知ですか?」 「えっ……そうなんですか?」 「はい…今はだいぶ身体もお強くなられましたけど、昔はよく倒れていらっしゃって…高熱もしょっちゅうでした…」 「……そんな…」 お義母さんも言ってたけど……やっぱり、本当にそうなんだ。 俺と爽の年齢差は9つ。俺が物心ついた時、すでに爽は今のイメージだったし…小さい頃身体が弱かったなんて想像する余地もないほど、今の爽は…逞しい男だ。 それでも、こうやって高熱を出しているんだから…見た目ほど、屈強になれた訳じゃ無いのかも。 「爽くん……最近、忙しかったんじゃないですか?」 「あ…、はい…仕事で…連勤とか徹夜とか多かったみたいで…」 「……やはりそうですか…おそらく、ストレスと過労で免疫力が落ちたんだと思います」 「……」 「ゆっくり、休ませてあげてくださいね」 「………はいっ…」 お医者様は優しい瞳で爽を見る。 きっとこの人も…爽を小さい頃から大切にしてきてくれたんだろうな。なんだか心がほっこりして、俺も一緒に爽を見つめる。 「あなたのような方が爽くんの近くにいてくださって……よかった」 「…え?」 「爽くんは小さい頃から頑張りすぎてしまう方だったので……それを止めてくださる方がいたらなと常々思っておりました…日下部さんがいてくだされば私も安心です」 「……そんな!俺なんて…」 「いいえ…、一目で素敵な方だと感じました……爽くんは幸せですね」 「……え?」 「日下部さん、これからも爽くんをお願いしますね」 「……はい」 お医者様は褒めてくれたけど、本当は俺なんて…何の役にも立ってない。褒めてもらう資格なんて…俺には無いんだ。 点滴を終えると、お薬を俺に渡してお医者様と看護師さんは帰っていった。 お医者様が来てくれて良かった。俺1人じゃどうしようも出来なかったから。後でお義母さんに連絡入れてお礼しておこう。 爽の部屋に戻り、いまだ眠り続ける王子様の顔を見下ろしてゆっくり頭を撫でる。 「爽………無理、してたんだね」 点滴のおかげか、少し顔色が回復したようで安心した。 一緒に住んでるのに…情けないな。爽の変化にも、辛さにも全く気が付かなかった。爽はどんなときでも、俺のことばかり考えてくれてたのに。 こんなの、許嫁どころか……友達失格だね。 ごめんね………爽。 考えてみたら、爽にとって俺と暮らすことってメリットあるのかな……? そもそも爽は親に家をあてがわれなくったって自分の稼ぎだけでいい家に住めただろうし、ハウスキーパーさんを雇えば家事だってやらなくていい。 俺がいなきゃ……きっともっと快適に仕事に打ち込めたはずだ。 どうして爽は……俺と同居したんだろう。 俺…… 爽にとって… 重荷になってたり…するのかな。 モヤモヤと悪い考えばかり頭に浮かんできて、首をブンブンと横に振る。 今は、爽にお粥を作ろう。 せめて、早く元気になるための手助けをしてあげなきゃ。 キッチンに移動して冷蔵庫を開け、中をガサガサと漁る。今日は元々、海鮮の炊き込みご飯を作ろうと思っていたから…その材料を使って、豪華なお粥を作ることにした。 早速材料を取り出して、調理を開始する。 お昼に会社まで会いに行った時は、こんな事になるなんて思いもしなかったな。なんだか今日は、目まぐるしく色んなことが起きる日だ。 ……そう言えば、爽が話したかったことって…結局、なんだったんだろう?あんな苦しそうだったのに…言おうとしたってことは……よっぽど大事な話だったはずだ。 元気になったらキッチリ聞き出さなきゃな。 ついつい考え込んでボーッとしながらも、手際よく調理を進めて、新鮮な帆立と焼き鮭のお粥が完成した。 最後に刻んだ生姜と、長ネギを上に乗せて出来上がり。うん、すっごくいい香り。 木製のトレーに鍋敷きを敷いて、その上にお粥の入った1人用の鍋を置いた。 爽……、食べる元気あればいいけど…

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