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トドメを刺してと君は言う【中編】 5
『爽お兄ちゃんっ』
『あき…』
これは、夢………?
あれは多分………、
小さい頃の…俺と、爽………
『約束だよ…あき』
『約束…?』
『そう……、俺…あ………す…か…』
聞こえない……、
なんて、言ったの……?
聞こえないよ……!
爽………!
「……爽っ!!!!」
ガバッと勢いよく起き上がると、自分の部屋ではないことがすぐにわかった。だって、布団の色が違う。
俺………
あのまま爽と一緒に寝ちゃってたんだ……
なんだか、すごく懐かしい夢を見たな……
「えっ……熱っ!」
自分の右手を見ると、爽とガッチリ繋いだままになっていて…熱さの原因が爽の体温だとすぐに理解した。
バッと爽の顔を見ると、汗びっしょりで苦しそうに歪んでいる。どうやら、解熱剤が切れてしまったようだ。ハァハァと苦しそうな息を吐く爽に、俺は盛大に焦る。
一緒になって寝てる場合じゃないだろっ…!
何やってんだ俺っ!!!
すぐに貰った薬の袋から解熱剤を出して、爽の口の中に押し込む。幸い解熱剤は錠剤だったから助かった。
溢れないように水を口に流し込んで、飲んで!飲んで!と叫び、なんとか爽に飲み込ませる。
爽の目線はふわふわと彷徨っていて、意思の疎通を図ることは出来そうにない。
「爽、大丈夫?暑い…?すごい汗……もう1回着替え」
爽の虚ろな視線と俺の目線が交わった瞬間、
すごい強さでベッドに引きずり込まれ、
気付いた時には完全に組み敷かれていた。
両手をガッチリと拘束されて、身動きが取れない。
焦点の合わない瞳に見下ろされて、俺は硬直してますます動けなくなる。恐怖を感じたっていい状況なのに、それより焦りが勝っていて、俺は必死に爽に呼びかける。
「…爽っ!!ねぇっ!?どうしたの…?動けないってば…!!」
「………はぁっ、……スッゲェ………リアル……」
「………は?」
「………クソいい匂い……」
爽は俺の首筋に顔を埋めて、スーッと大きく息を吸い込む。
その感覚が、なんだか妙に気持ちよくて…思わず声が出てしまう。
「……ッ…や、ぁ…っ」
「………!やっば……声までリアルじゃん……」
「アッ……なん、でっ…!」
「あーーーっくそっ…ムラムラするっ…!!」
これ、完全に寝ぼけてる……?
いや、熱のせい…?
どっちにしても、やばい!!!
爽は俺の腕を頭上でひとまとめにすると、耳から首筋にかけてをゆっくり舐め始めて…そのあまりのエロい感触に…完全に下半身が反応してしまう。
自身に向かって身体中からドクドクと血が集まってきているのがわかって、目眩がした。
「……ッ!アッ…!んっ…ひゃぁんっ!だ、めっ!!爽っ…!あっ……!」
「ハァッ…はっ…なんだよこの、夢っ…!エロすぎだろっ…たまんねぇっ…!」
「アッ…あっ!ンッンッ、なめ、ないれっ…!」
「はっ……ッ…くっそ、……入れてぇ…!」
爽の呟きが、ダイレクトに耳に入る。
入れたいって……ど、どこに…!!!?
ちゅ、ちゅ、と丁寧に首筋と耳の裏にキスされ、舐められる。爽の舌の感触が生々しすぎて、身体中がピクピクと反応した。
こんなの、知らない。
こんなところが気持ちいいなんて……俺、知らない!!!
「……あっ…や、だッ…っ!離し…てっ!!アッ」
「ンッ……ハァ…ハッ……かわいい…っマジで…夢じゃなきゃ、いいのにっ…」
「…ひゃあっ…!夢じゃ、ないってばぁっ!アッ…やぁん…!爽っ!おき、てっ…!」
「………っ…ハッ……クソっ………なんで、」
「…っ……え?」
「なんで俺の……、ものじゃ…ねーんだよっ…」
熱い息を吐きながら爽がモゾッと動いた瞬間、
爽の下半身と俺の下半身が布越しに思いっきり擦れ合って、俺はその硬さと刺激の強さで我に返り……とうとう本気の抵抗を試みる。
バンっと火事場の馬鹿力で爽を押し除け、
凄い勢いで部屋を飛び出した。
バタバタと音を立てて自室まで走り抜け、勢いよくドアを開け中に入り鍵を閉める。
ドアに背を向けてズリズリと座り込み、一度深呼吸して………やっと事態を把握しようと思考を巡らせる。
俺、
爽に舐められたんだけど!!!!!
首筋が妙にスースーして、さっきのことが現実だったのだと…嫌でも思い知らされる。
改めて考えてみたところで、何1つ理解なんてできない。だって、俺は童貞だし…性的な経験が一切ないんだ。理解しようもない。
それどころか、オナニーだってほとんどしたことがない。18歳の健全な男子大学生の癖に、あまりにも性に興味がなさすぎて…もしかしたら一生興味がないまま終わるのかも…なんて思っていたのが嘘みたい。
恐る恐る足を左右に開いて自分の下半身に目を向けると、パンパンに勃起してズボンを押し上げている性器に苦笑いしてしまう。元気すぎ。
ねぇ、嘘でしょ…?
首舐められただけなのに……??
そのまま足を抱き抱えて、おさまれおさまれ…と念じる。
こんなに興奮したのは、人生で初めてかもしれない。人に身体を舐められるのって……あんなに気持ちいいんだ……。
完全にオスの顔をした爽を思い返して、俺は髪をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。身体が熱い。
「ヤバいっ!!!忘れろって!!!!」
だって、あんなの…寝ぼけてただけなんだからっ……!
それなのにこんなに動揺して、俺馬鹿みたいじゃん!!!
くちゃくちゃになった頭から手を離して、何度も何度も深呼吸を繰り返す。冷静になれ。
っていうか……、
爽は相手が俺だって認識してたのかな…?いや、多分してない。
完全に目の焦点がズレてた。
………さっき爽が言ってた…俺の……ものじゃないって……どういう意味……?
俺は……名目上、爽の許嫁なんだから…爽の……もの、だよね?ってことは……爽がい…"入れたい"って言ってたのって……誰…?
………爽は、一体……
俺を誰と勘違いしたんだろう………
「好きな女の子…………だったりして………」
自分で呟いた言葉に、何故かジクジクと胸が痛む。
もしかして爽……、
好きな子が……出来た?
爽に彼女がいないことはわかってる。直接聞いてはいないものの、この2ヶ月ずっと爽の近くにいた俺にはそこに関して確信があった。というか、忙しすぎて交際に費やす時間なんてなかったろうし、たまの休みも必ず俺と過ごしてたから。
だからやっぱり……
爽の夢の中の相手は……新しく出来た好きな子なんだろう。
あれ……?
なんで俺……傷ついてるんだろ……?
もう頭がパンクしそうで……俺は自分のベッドまで歩き、そのまま思い切りダイブする。
寝よう。
もう、寝ちゃおう。
寝て忘れよう。
今日はとても疲れた。疲れていて良かった。じゃなきゃ……きっと眠れなかった。
俺はゆっくり目を閉じ、脳内で羊を数え始める。
寝落ちする最後の瞬間…
頭によぎったのは、
眩しいほどの爽の笑顔だった。
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