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トドメを刺してと君は言う【中編】 7

風が心地いい。 今日は天気もいいし…なんか、眠くなっちゃいそうだな。2限の終わり、いつもお弁当を食べている中庭に出てひとりぼっちでランチタイムを開始する。大きな木のおかげで直射日光を避けられるから、案外涼しい。 入学して2ヶ月以上経ったけど…俺は相変わらず友達が出来ていない。 俺、昔っから友達作るのめちゃくちゃ下手くそなんだよな。自意識過剰と言われればそれまでだけど、ジロジロ見られることはあっても絶対に話しかけては貰えない。例え頑張って自分から話しかけても、みんななんだかよそよそしくて、仲良くなるなんて…夢のまた夢。それでも何人かそこそこ仲良くなったことはあったけど…結局、告白されてしまって…断って疎遠になるパターンばかりだった。 よく考えたら、俺にとってハッキリ"男友達"と呼べる相手は爽だけだったのかもしれない。その爽も、今は許嫁(仮)な訳で……俺はとことん"友達"というものに縁がないようだ。 ベンチに腰掛けてグッと身体を伸ばす。 大学の講義って、ずーっと座ってるだけなのにどうしてこんなに疲れるのかな。椅子が固いせい?…あ、もしかして…学生を寝かさないためにわざとあの固さなのかな…?だとしたら理にかなってるのかも。あの椅子じゃ寝たくても寝られない。 ……爽……、連絡ないけどもう起きたかな。 携帯を握りしめてぼーっとしていると、ザワザワと声が聞こえて俺はそちらに目を向けた。 遠くからチャラついた3人組がこっちに歩いてくる。なんだか嫌な予感がしてさりげなく目を逸らそうとした時、1人が俺を見てハッとした顔をした。 「うっわ…この子経済学部のお姫様だ!ほら、泣きぼくろ!絶対この子だって!」 「………は?」 「えっ!……この子が噂の…」 「君、日下部 暁人くんでしょ?」 「……はい、そうです…けど」 「ならやっぱそうじゃん!!すげー……マジ女みてぇ」 「女より全然顔綺麗だろ」 「今年の新入生でいっちばんかわいいって言われてたしな」 「俺初めてちゃんと見た……お人形みてー…嘘みたいに整ってんじゃん…」 「ここまでかわいいと男とか関係ねぇな」 男3人に囲まれ、顔を凝視され、おまけにマシンガンで話しかけられてプチパニックに陥る。 ここ、誰も来なくて気に入ってたのに!! ……っていうか、"お姫様"ってなに…? 「なぁ、俺ら今から昼飯なんだけど……一緒にどう?」 「……えっ?えっと…」 めちゃくちゃ嫌だ。 例え友達が欲しくてたまらなくったって、俺にも選ぶ権利がある。絶対この人たちとは気が合わない。一緒にお弁当食べるなんて、お断りだ。 「い、いえ……俺はひとりでいいです…」 「ブフッ!!!!お前警戒されてんじゃん!!!」 「誘い方下手すぎだろ~」 「いいからほらこっち来いよ、」 「へっ!?…わっ!!!?」 いきなり勢いよく腕を掴まれ、俺は驚いて思わず前のめりになる。 やばい、と思った時には既に膝が地面についていた。 「いったぁ…!」 短めのパンツを履いていたのがいけなかった。ダラダラと血が流れ出す右膝を見て、心の中で最悪、と呟く。 もうなんでもいいから早くいなくなってくれないかな… なんて思っていたら、 予想外の援軍が現れた。 「チッ……センスねぇナンパしてんじゃねーよクソども」 気だるそうな声がして慌てて振り向くと、綺麗な男の人がこちらを見ている。俺がいたベンチとは逆方向の位置にあるベンチで眠っていたようだ。 なんか……、 なんだろう、この人…… 誰かに似てる…… 「うわっ!!!!コイツ結城 要(ゆうきかなめ)だ!!!」 「すげー!!!この学校の有名人揃い踏みじゃん!!」 「うるせーよでけー声で喋んなカス」 ミルクティーベージュの髪に、整った顔立ち。背は多分175cm前後…顔が小さくてめちゃくちゃスタイルがいい。アイスグレーのセットアップにハイブランドの白シャツを見事に着こなしていて、センスの良さとカリスマ性が全身から滲み出ている。 なんなんだこの人……この大学の人…? こんな綺麗な人…一度会ったら忘れるわけない。つまり、俺は初対面だ。 「ふぁ~あ……久しぶりに登校したら…めんどくせーもん見せられてマジうぜぇ」 「チッ…!なんで今日に限ってコイツが…!」 「あ…?へぇ………オイそいつ…経済学部のお姫様?」 「…そうだけど、お前には関係ないだろ!!!邪魔すんな!!!」 「関係ねーけど、昼寝の邪魔されたし…それに、俺もお姫様に興味出た」 「えっ…?」 「すっげぇかわいいから近くで見たい」 「お前もナンパじゃねーか!!!!」 「一緒にすんなハゲ」 「ハゲてねーよ!!!」 突如現れた高圧的な美人と、男たちの会話のキャッチボールをただただ呆然と見守る。 一体なにが起きてるんだ…… 「とりあえず、お前ら消えろ邪魔」 「チッ……おい行くぞ」 「えっ行くのか!?」 「結城 要はやばすぎる…!絶対逆らうな!コイツ格闘技の有段者な上に親が金持ちでやりたい放題なんだよ!!」 「オイ人聞き悪いこと言うな!やりたい放題なんてやってねーだろーが!せいぜい…半殺しくらいまでだろ」 「やってんじゃねーか!!!!」 なにこれ……コント…? なんて思っていたら、本当に3人組は去っていく。 嘘…… マジで助けてくれたんだこの人… 「オイ日下部 暁人」 「……あっ、はいっ」 近寄ってきた男を見上げる。やっぱりすっごく綺麗。世の中にこんな綺麗な男の人…いるんだ。 それにしても、この人とんでもなく口が悪い。今まで出会った中でダントツだ。 「お前、大丈夫か?」 「えっ?」 「怪我…してるだろ?医務室行こう、手当した方がいい」 「へっ……」 「……なんだよ?」 「………っ」 「うわっ!?いきなり泣くなよ!!?」 「すっ、すみませんっ…!嬉しくてっ!」 急に優しい言葉をかけられて、じわッと涙が溢れる。 男の人にナンパされることなんて日常茶飯事だけど、こうやって知らない人に助けに入ってもらえることはほぼないに等しい。だから…助けてもらえたことが単純に嬉しいし、怪我を気にしてくれたことも嬉しい。 ああ、ヤバイ。 俺、男のくせに涙もろすぎる。 「………あー…ったく…ホラ涙拭け」 「えっ…ありがとうございますっ」 ハンカチを渡されて、涙を拭う。 なに、この人…優しいじゃん。 さっきとイメージ全然違う… 「俺、結城 要…経営学部3年」 「……日下部 暁人…経済学部1年です…」 「知ってるっつの」 「あの……、さっきから思ってたんですけど…なんで俺のこと知ってるんですか?…さっきの男の人たちも俺のこと知ってたし…」 「ハァ?お前それ本気?」 「えっ…?はい」 「お前、自分が有名人なの知らないの?」 有名…?有名って何? 俺は訳がわからず、ハンカチを握りしめたまま首を傾げる。 「うーーわ………コイツ……このビジュアルで天然なのかよ……あぶねぇ……!」 「…?」 「お前が入学した時、学校中が揺れたんだぞ?新入生にとんでもねぇ美少年がいるって…あの盛り上がりにどうやったら気付かずにいられるんだよ…」 「………全然…知らなかった、です」 「信じらんねぇ……」 「あの、それでなんで俺"お姫様"?とか言われてるんですか?」 「お前があんまりかわいいから、あだ名が"経済学部のお姫様"になったってのは噂で聞いた」 「……すごく…不快です………しかも、センスないし……」 「ぶはっ…!だよなぁ!」 いくら女顔だからって、男のあだ名に"お姫様"はあんまりだ。 え……じゃあなに? 俺が周りから距離取られてた原因って…顔なの? 「好きでこの顔に生まれた訳じゃないのにっ…」 「おー……俺と同じこと思ってんじゃん」 「え?」 「まぁ、俺はお前の顔好きだけどね」 「は!?」 「創作意欲が掻き立てられる」 創作意欲…? ちょうど医務室に到着したけど、扉には"不在"の2文字。その文字を見ても結城さんは躊躇なく扉を開け、俺を椅子に座らせた。

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