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トドメを刺してと君は言う【中編】 9

大学からの帰り道、スーパーに寄って夕飯の買い出しをしてから家路を急ぐ。 嫌なことはあったけど、素敵な出会いもあったからプラマイゼロ…人生いいことと悪いこと半々に起きるって言うけど…ほんとなんだなぁ。心の中で鼻歌を歌いながら、携帯の画面に目を落とす。 さきほど爽から届いたメッセージを見返して、ついニヤニヤしてしまう。 "あき、沢山迷惑かけてごめんな? もう体調はすっかり回復したので 明日からはちゃんと仕事行きます。 全部あきのおかげです。 作り置きしてくれてたスープも うますぎて全部たべちゃいました! あきが帰ってくんの待ってるから、 帰ってきたら例の話させてください。" 爽が元気になってよかった…! 帰ったら爽に美味しい夕飯作ってあげなきゃなぁ~病み上がりだし、味の濃いものは避けるべき?それとも好物を作ってあげるべき?どうしよ…?んー、腕が鳴るっ!! だけど、この文面……おそらく、昨日の夜中俺にしたことは覚えてないっぽい。 そこに関しては、よかったのか……悪かったのか… まぁ、仕方ないか… 爽も、男の首舐めたなんて…知りたくないだろうし。覚えてないなら、俺も知らんぷりしよう。ちょっと……寂しいけど。 いつもよりかなり軽快な足取りで歩いていたら、 後ろから聞こえてきた足音にビクッと肩が震えた。 いや…正直に言えば結構前から後ろを誰かが歩いていることは知っていた。だけど、たまたま方向が同じなんだと…思い込もうとしてた。 でも、今歩いてるこの道は人通りも街灯も極端に少ないし、少し先にコンビニがあるくらいで周りに何もない。ここまで道がかぶるのは…ちょっと変だ。同じマンションじゃない限り。 なんて言っていいのかわからないけど、とにかく、嫌な予感がする…… 振り向いちゃダメだと…本能が告げている。 俺はさっきまでよりかなり早足で歩き始める。 ドクンドクンと心臓がすごい速さで鳴って、緊張で手が震えた。 これ、もしかして……… 俺の不安に拍車をかけるように、後ろを歩く人物も俺のスピードに合わせて足を速める。同時にチッと舌打ちする音がして、ようやく後ろの人物が自分を追いかけていると確信した。普段ならこんなことをしてくる相手なんて簡単には思いつかないけど、今はハッキリ犯人がわかる。十中八九…例の無言電話のストーカーだろう。昨日から非通知着信が来ていなかったから、すっかり油断していた。 もっと早く歩きたいのに、むしろ走りたいのに、昼間怪我をした足が痛くてこれ以上スピードを出すことが出来ない。 どうしよう…!!! 握りしめていた携帯の画面を震える指で押し、今一番会いたい人に助けを求めることにした。 プルルルル…プルルルル… いつもならなんてことないはずの繋がるまでの時間がもどかしい。恐怖と焦りで喉がカラカラだ。自分の荒い息遣いだけが静かな道に響く。震える手を必死に押さえつけて、唇を噛み締めると、うっすら鉄の味がした。 どうしようっどうしようっ…! 早くかかって!!! ガチャッ 『あき…?どうし』 「爽!!!助けてっ!!!」 『え?』 「誰か追いかけてくるの…!例の無言電話の人かもしれないっ!!!」 『え!?今どこ!!?』 「もうちょっとで家っ…!が、街灯がないとこ!!どうしようっ!爽っ…!怖いっ!!」 『すぐ行くから!!大丈夫、絶対助ける!!!』 「爽っ…、俺っ、もう無理っ…」 『あき!!!しっかりしろ!!!俺が絶対守るから!!!』 爽の力強い声を聞いて、折れかけていた心が持ち直す。弱音を吐いてる場合じゃない…!今俺に出来ることは…全力で逃げることだけだ。 爽ってほんとにすごい……、俺にいつも勇気を与えてくれる。 もう足の痛みを完全に無視して今出せる全力で走る。恐怖と痛みで涙はボタボタ溢れるし、散々だ。 しばらく走り続け、 後ろの足音が聞こえなくなった時点で一瞬振り返ると、 誰もいなくなっていた。 安心して、ホッとため息をつく。 よかった……諦めてくれたのかな。 恐怖でいまだに心臓がバクバクいっている。早く、爽に会いたい… その時、 黒い帽子を目深に被った……全身真っ黒な男が暗闇から現れ、呼吸が止まった。 俺は恐怖でズルズルとその場にへたり込む。 無理、もう走れない… 足が……動かない……… 暗闇の中、男のニヤけた口元だけが街灯に照らされて嫌に鮮明に青白く光って見えた。息が、止まる。大粒の涙がボタリと頬に落ちると同時に…絶望の中、俺はギュッと瞳を閉じた。 「あきっ!!!!!!!」 逆方向から大好きな人の声が聞こえて目を開くと、先程の男の姿はもう無くて、汗だくの爽に肩を叩かれた。 「あきっ…はぁっ……ハァ…無事か!?」 「………っ!爽っ!!!!」 「ストーカーは!!?」 「…いっ…いなくなっ、た…」 「そっか…!とりあえず…無事なんだな…?」 「……ん」 「はぁ~…良かっ」 爽の言葉を全部聞き終わる前に、思いっきり抱きつく。衝撃に爽が少しだけよろけたけど、構ってられない。 ああ、いつもと同じ、爽やかな香りだ。 走ってきてくれたからか、いつもより香りが強いくらい。

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