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この先プラトニックにつき【誘惑編】1
「おっ前チャラついた曲流すんじゃねーよ!!!なんだこの曲!!チッ…プレイリストごと消してやるっ!!」
「あははははははっ!!かな鬼畜すぎだろまじウケるんだけど!!!」
「ウケねーよ!!!曲のセンスねーな!!!」
「えーっ!?だってこれから海行くんだよ~?アガる曲かけよーよっ!かなに任せたらまたクラシックにするじゃん!」
「ハァ!?いいだろクラシック!!無理矢理連れて行かれるんだからせめて車中の選曲くらいさせろ!!」
「まぁ~いいけどぉ…かなってナチュラルにお金持ちのお坊ちゃん感ガンガンに出してくるよねぇ~?」
「は!?どこが!?」
「クラシック聞いちゃうとこ…?ほら、家でもかけてるし」
「?聞くだろクラシックくらい」
「ハァ~~~~…やっぱ高貴な美人っていいなぁ…」
「キョウスケキモチワルイ」
「ブハッ!!片言じゃん!!」
運転席と助手席で繰り広げられる口論……もとい、夫婦漫才に後部座席の俺と爽は顔を見合わせて困惑する。
いや、待ってよ……
この2人、出会って1週間だよね…?
ちょっと距離、縮まりすぎじゃない……?
「……あの、要……?恭ちゃんのこと…お家に入れたの?」
「入れた……っていうか、ただの不法侵入な?勝手について来て、勝手に家に入って来たんだよコイツ」
「かなの家、死ぬほどいい匂いした~!」
あ、それは俺も同意。
確かに、要のお家はめちゃくちゃいい匂い。というか…要がいい匂い。
恭ちゃんの発言が気に食わなかったのか、要は真顔でキモイ、と一言呟いた。それを聞いても恭ちゃんは相変わらずニコニコしながらハンドルを握っている。
何この状況……?
この2人……1週間で一体何があったの……?
そもそも、要は幼少期から色んな格闘技を習っていてそのほとんどで有段者なんだ。特に合気道は相当な使い手らしい。つまりこう見えて、めちゃくちゃ腕っぷしが強い。
だから、要が本気で嫌なら拒否出来たはず。それでも恭ちゃんを家に入れたってことは…入ること自体を要が許可したってことだ。
これ……、
もしかして………
『あき…』
物思いに耽っていると隣からイケメンに小声で耳打ちされて、思わずドキッとする。すぐに横を向いて綺麗な顔を見上げると、ニコッと太陽みたいに眩しい笑顔が返ってきた。
グゥッ…!まぶしっ…!
今日も今日とて、爽はパーフェクトにカッコいい。少しだけアッシュの入った上品な黒髪が、窓からの光でキラキラ輝いて見えた。
爽は相変わらず小声で、前の2人に聞こえないように俺の耳に唇を近づけて喋る。それが、ちょっとくすぐったい。
『…ビックリしたな?』
『う、うんっ…でも、2人が仲良くなってて俺はうれしーよっ!』
『ふふっ…俺も……てか、恭介と要この1週間で何度か会ってるぞ』
『え!?そーなの!?』
『うん…職場で恭介が自慢しまくってた……どうでも良すぎてあきに言うのすっかり忘れてたわ』
『わーお……!なんか、知らぬ間にうまくいきそうだね?』
『それは、わかんないけど………っていうか…正直言うと……』
『ん?』
爽はギュッと俺の右手を握ると、そのまま持ち上げて手の甲にキスをする。
予想外の行動に呆気にとられていると、またフワリと優しく笑われた。
『あきに夢中で、2人のことまで考えてる余裕…ないかな』
『……へ』
『あんな反対しといて何だけど……あきと海なんて…ワクワクしちゃってさ…なんか、楽しみになってきた』
『……っ!』
『夏の思い出、たくさん作ろうな?』
『……ひゃ、ひゃい…!』
『…ふふっ…!なんだよその返事っ…!』
『だ、だって…!』
『あきってたまに……この世のものとは思えないくらいかわいいよな…』
爽の王子様すぎる言動に、俺はもはやパンク寸前。クーラーで車内はキンキンに冷えているはずなのに、体温がグッと上がって真っ赤に顔がほてってくるのを感じた。おまけに爽の顔には、"キスしたい"って書いてあるのがわかってしまって…もう、卒倒しそう。
見つめ合っているうちに、爽の手が俺の唇を撫でる。
『あっ…、爽…、だめっ…!』
『なんで…?あきは俺とキス…したくない?』
『ち、違うっ…、そうじゃなくてっ…』
『じゃあなんでダメなの…?』
『だって、こんなとこでっ…』
『ふふっ…いつも俺の車の中でしてるじゃん…今更だろ?ほら、あきこっち向いて』
『ちがっ、だってっ…!2人っきりじゃないからっ…!』
『ああ…アイツらのことは気にしなくていいから…俺だけ見てて』
『んっ…、爽っ…ほんとにだめっ…!』
『やだ、我慢出来ない』
『ひゃ、ダメだってば…!』
「オイ!!!そこのバカップル!!!!」
突然後ろを向いた要が眉間に皺を寄せて俺と爽を睨みつける。いきなりの剣幕に、俺も爽もビクリと盛大に肩が揺れた。
「後部座席でコソコソイチャつくんじゃねーよ!!!俺がいないとこでやれ!!!」
「へぇ!?ごっごめん要っ!!!」
「あははははははっ!!!いいじゃん!!もっとやれバカップル~!!」
「煽んな恭介っ!!!」
俺たちの会話を黙って聞いていた爽は、一度ニヤッとした後、これ見よがしに俺の肩に頭を乗せる。その上とんでもないドヤ顔で要と恭ちゃんを見ていて、呆れてしまった。
「俺たちバカップルどころか許嫁なんで~っ外野は文句言わないでくださ~いっ」
「アハハハーーッ!!!!!爽マジかよッ!!!キャラ崩壊しすぎ!!!!」
「ガキかっ!!!ったく……暁人、やっぱこんなんが彼氏でいいのかお前…精神年齢10歳だぞコイツ…」
「………え、えへ?幸せだから…いい、かな?」
「だーっ!!!!!ツッコミが俺しかいねぇーーーー!!!!!」
車内がドッと盛り上がる。
樋口 爽誘惑大作戦の決行が決まって、1週間。
ついに今日が決戦の日………
俺たちはこれから……待ちに待った海デートだ!
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