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この先プラトニックにつき【誘惑編】2

都心から約1時間半、目の前にはコバルトブルーの海が地平線まで広がっている。その美しさに思わず感嘆の声が漏れた。 海に来たのは幼少期以来だ。 あの時は朝から晩まで、一日中弟とはしゃぎ回ったなぁ…… ヤバイ…めちゃくちゃテンション上がる!!! 砂浜には海水浴客が溢れかえっていて、その場から見えるほとんどの人が車から降りた俺たちを見ている。 ええっ?なんで…? 俺たち……なんか変? 「うおっ!!!すっげー熱視線……と思ったらそりゃそうか…このメンツだもんな…」 恭ちゃんはうんうんと頷きながら俺たちを見渡す。 「うーん……ナンパ目的なら無敵の布陣だな」 「…え?恭ちゃん、ソレどう言う意味?」 「んー?いや、俺たちって全員ビジュアルのタイプ違うだろ?だからどんな相手のストライクゾーンにも誰か1人は必ず入りそうじゃね?ってこと!爽は王子様系イケメン、かなは女王様系美人、暁人は小動物系美少年、で…俺はこのメンツの顔面偏差値考えると……良くて平凡よりの男前って感じだな!すげー!乙女ゲーム作れそーじゃん!!!」 満面の笑みで俺に語る恭ちゃんに、爽と要はあからさまに嫌な顔をする。 わ、この2人この顔すると案外似てるかも!さすが血縁者! 「クソ最低な演説をどーも……チャラ男は死んどけ」 「ちっ、ちがうってかなぁー!!!ナンパ目的"なら"って言ってるじゃん!!俺はもう一生かな一筋だからっ!!!そんな目で見ないでーっ!!!………あ、やっぱもっと見て…!その目興奮す」 そこまで聞いたところで、爽に両手で耳を塞がれる。何事かと思って見上げると、絶世の美青年がニコッと笑う。相変わらず、無駄に刺激的だ。 ふと、目の端に映った要と恭ちゃんを見るといまだに言い合いを続けているようだ。…なんにも聞こえないけど。 爽はそれからしばらくして、ようやく俺の耳から手を外す。 「ったく…あきの教育に悪い話はやめてほしいよな…」 「……えー?…自分もしょうもない下ネタとか俺にバンバン言うくせに」 「………否定はできん」 「ふふっ…事実だもんねー?」 自分を棚に上げまくって要と恭ちゃんの会話に文句をつける爽に、笑ってしまう。 恭ちゃんは要に指示されながら車から荷物を下ろし始めた。相変わらず恭ちゃんはニコニコで、要は顰めっ面。この2人…こういうコミュニケーションがお互い心地いいみたい。 やっぱ、めちゃくちゃ相性いいじゃん…! 「さ、行こっかあき」 「…え、う…うんっ……」 目の前に手を差し出されて……俺は、それを握るかどうかちょっと悩む。 最近の爽は、一緒に出かけるたびにいつも俺と手を繋ぎたがる。もちろん俺も繋ぎたいから嬉しいんだけど……でも、いいのかな?今はちょっと周りに人が多すぎる。普段は俺…女の子に間違われがちだから何とも思われないことが多いけど、今日は下が海パンだからたぶん一目で男だってわかる。 「爽…?手、繋いで大丈夫なの…?」 「ん…?どういう意味?」 「だって……俺、今日多分…ちゃんと男に見えてるよ?」 「……はい…?だから?」 「だからっ……その、男と手繋いでるって思われるの…いいのかなって……」 俺は別に、誰にどう思われようが全然いい。でも、俺のせいで爽が嫌なこと言われたりするのは嫌。耐えられない。 俯いていると、爽は無言で俺の手を取りギュッと握った。 「っ……!」 「なんの心配してんだよ…いいに決まってんだろ?俺、お前と付き合ってんだぞ?」 「そう…だけど……でも、」 「それに…」 爽は少し屈んで俺の顔を覗き込む。あったかくて、優しい瞳だ。 「俺は普段もあきが女に見えるから手繋いでたわけじゃねーからな?」 「え…」 「お前が好きだから繋いでるだけ……あきと俺が付き合うことに、誰が文句つけられんだよ…親だって喜んでんのに」 「……爽…」 「それに、男とか女とか………もうそんなの、あきを好きだって認めた時点で俺の中で決着ついてんだよ……だから、俺はいつだってお前と手…繋ぎたいよ?」 「……」 嬉しくて、ジワっと目頭が熱くなる。 ヤバイ、また泣き虫だっていじられちゃう…! 「……あき、」 「ん……?」 爽は俺の顎を片手で持ち上げると、躊躇なく目元にキスをした。 色んな人に見られてるのに臆することなくキスする爽に、俺は恥ずかしさで目が泳ぎまくる。案の定、俺たちを見ていたギャラリーの中には驚いた顔をしている人もいる。 「あ…、爽っ…」 「あき…これ以上なんか言うなら、口にもするぞ?」 「へ!?あ…ご、ごめんなさいっ…」 爽は、いい子…と小さく呟くと俺の手を引いて歩き出す。 爽は……いつもこうやって俺を不安や迷いから掬い上げてくれる。小さい頃からずっとだ。 かっこよすぎだよ、こんなの。 これ以上好きになりようがないって毎日思うのに、どんどん更新されていく気持ちに恐怖すら感じる。 これが爽の言う"13年分の愛"の重みなら……きっと、俺はもう逃げられない。 ……逃げたくない。 「お前ら…!また勝手にワールド作ってんじゃねーよ!!!」 「やばーい純愛って感じぃ~!!!ねぇ、かな!俺たちも一旦キスしとく?」 「しねーよ!!!!一旦ってなんだ!!殺すぞ!!!」 「キャーッ!痺れるぅーっ!!」 甘ーい雰囲気をぶち壊す要と恭ちゃんに、爽は再び呆れた顔を向けた。

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