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この先プラトニックにつき【誘惑編】3

砂浜に到着すると、レジャーシートを広げてめちゃくちゃおっきなパラソルを立てる。要の実家にあったやつらしいけど、さすが日本屈指の超セレブデザイナーの息子…お洒落だし、めちゃくちゃ高そうだ。 荷物を置くとみんなでレジャーシートの上に座って、一息つく。晴れてよかったなぁ。 パラソルの下だと日陰だし、風がいい感じに抜けて心地いい。 なんか、ここにいたら眠くなっちゃいそう。 「かなっ!ビーチバレーしよ!!ビーチバレー!!」 「ハァ!?やらねーよあっついし」 「え~?あ、自信ないんだぁ~?俺が強そうだからって勝負から逃げる気だなぁ?」 「………聞き捨てならねーな!!!!オラ、行くぞ恭介!!」 「やったー!!!…あ、爽と暁人はどうする?」 「いや、俺とあきはいいや」 「マジ?じゃあ、ここから見える範囲で遊んでくるから!」 「おっけー」 俺が返事をする間もなく、爽が返答してくれて俺は口をパクパクさせたまま2人の会話を聞いていた。いや、断ろうと思ってたからいいんだけどさ。 それにしても……、恭ちゃん要のこと乗せるのうますぎない…? 「爽……?」 「ん?」 「あの……なんでビーチバレー断ってくれたの?あ…いや、断りたかったからいいんだけど…普段の爽なら俺にどうしたいか聞いてくれるから…不思議で」 横に座る爽を見上げると、海を眺める横顔に惚れ惚れする。 ヤバイ……完璧。絵になりすぎる。 俺は爽に言われた通り、上半身を隠すように半袖のパーカーを着ているけど…爽は鍛え上げられた身体を惜し気も無く晒している。さすがジムヘビーユーザー。ビーチ中の視線を奪っているのは完全に爽の方だ。正直…かなり妬ける。周りにいる女の人みんなが爽のことを見つめているのがわかるし、あわよくば話しかけるタイミングを窺っていそうだ。頼むから、今日だけは放っておいてほしい。 「だって……あき、運動苦手じゃん」 「……………え………なんで知ってんの!?」 「はぁ?俺あきが生まれた時から見てきてんだぞ?そんくらい知ってるって」 「そんなっ…!恥ずかしいからずっと内緒にしてたのにっ!!」 「もっと言えば…近年稀に見るほどのとんでもない運動音痴だって…最近お前の弟からも聞いた」 「えっ!!?旭!?待って…いつ喋ったの!!?」 「んー?まぁ……それはいいじゃん」 俺にはひとつ年下の弟がいて、名前は日下部 旭(くさかべ あさひ)。爽は旭とも小さい頃から仲良くしてくれていたけど……最近って一体いつ……? だって、旭は現在オーストラリアに留学中。日本にいないんだ。 俺の驚いた顔を見てクスクス笑う爽に、ますます混乱してしまう。 「てか、あきは運動音痴だからビーチバレーやりたくないわけじゃないんだよな…?」 「……え?」 「自分が上手くできないことで、周りに気を遣わせるのが嫌なんだもんな?」 「………そこまで……お見通しなの?」 「ふっ…、まぁな?……俺は、お前のそういうとこすっげぇ愛しいなって思うよ」 「……なんで?」 「いつだって自分より他人優先で…たくさん我慢してきたんだろうなって…わかるから」 なんで、そんなこと…言ってくれるの? どうして……これまで誰にも与えてもらえなかった言葉を…爽はこんなに簡単にくれるの…? ほらね?やっぱり…… みんな勘違いしてるよ。 爽は俺には"勿体ない"。 こんな素敵な人が俺のことずっと好きでいてくれたなんて……、もう、俺これから先……どうやって爽に気持ちを返したらいいかわからないよ。 「だから、俺の前では何も我慢させたくないって思っちゃうんだ」 「爽……」 「俺にはどんな迷惑かけたっていいし、たくさんわがまま言って欲しい」 「……」 「俺は、どんな時も…あきのすべてを肯定するよ」 胸がキュンとして、熱い想いが込み上げる。 爽が、好きで好きで、たまらない。 もっと、この人を知りたい。 この人のために生きたい。 この人に、 すべてを捧げたい。 改めて明確になってしまった想いに、胸がさらにグッと苦しくなる。顔が熱い。 俺は両手で顔を覆い、体育座りのままキュッと小さくなる。 隣で爽がクスクス笑う声が聞こえて、それすらも愛しく思えた。 「ふふっ…かわいいなぁ…あきは」 「……っ、やだっ…爽、笑わないで」 「……あき、これ借りるな?」 「………え?」 爽が手にしたのは、俺が日除けに持ってきたツバの大きな麦わら帽子。 どういうこと?と思っていると、爽はそれで自分と俺の顔を周りから見えないように隠して…… そっと、唇を合わせた。 いつもの激しいキスじゃない。優しい、慈しむような触れるだけのキス。 「………っ」 「ふはっ…!…すげー顔っ…」 「……っ、びっくり…したっ…」 「…あき」 「な、に…?」 「…好きだよ」 真っ直ぐ俺の目を見て愛の言葉を囁く爽には……ほんの少しの迷いも無い。 気持ちは言葉にしなきゃ伝わらない…って言うけど、爽は十分すぎるほど俺に"好き"って伝えてくれる。 それが単純に嬉しいし…そのおかげで、俺も安心して爽を好きでいられるのかも。 爽って、ほんとすごい。 おとぎ話の王子様も、きっと真っ青だね? 「………お、俺も…好き……爽が……、大好き…」 「………うわ、やめろよ」 「……え?」 「そんなかわいい声でかわいいこと言うなって……もっと濃厚なやつ…したくなっちゃうだろ」 少しだけ余裕のなくなった爽がかわいくて…俺はいつもやられてるように爽の頬に手を添える。 「して……くれないの?」 「……バカ、煽んな」 「爽……」 「……なに?」 「…俺も……いつもみたいなちゅー…したいな?」 "夏と海は人を大胆にする"なんて……半信半疑だったけど、ほんとだった。 砂浜の暑さに浮かされて、思ったことがぽろりと口から飛び出す。 これ、たぶん… 後から思い出して恥ずかしくなるやつ。 「爽……っ、いつもみたいに……気持ちよく…して…?」 「……マジ、お前……最高」 爽がレジャーシートに片手をついて、俺にグッと身体を傾けるのがわかって……ドキドキと心臓が痛いくらい高鳴る。爽の厚い胸板と、バキバキに割れた腹筋が目の端に映って、余計に頭がボーッとしてくる。 かっこよすぎて…直視出来ない…! そのまま引き寄せられるように唇が再び触れ合った瞬間、 ドタドタと遠くから走ってくる足音がして、俺と爽は目を見合わせ小さくため息をついた。 「なぁ!!!!見てたか暁人!!!このアホをコテンパンにしてやった!!!」 「ねぇー!!!まじで酷くない!!!?俺だけずぶ濡れなんだけど!!!!」 「俺に運動ごとで勝負を挑むなんて100万年はえーんだよカス!!!」 「ブハッ!!!カスは笑うってーー!!!あはははははははっ!!!ひーっかなマジでかわいいーっ!!」 「ハァ!?どこがだよっ!!?俺はお前の感性がこえーよ!!」 要は涼しい顔をしているのに、恭ちゃんだけ頭の先から足の先までビシャビシャに濡れている。どうやら見事に海に沈められたようだ。 おかしいな……ビーチバレーって…そんな野蛮な競技だっけ…? 相変わらず要は、心底楽しそうに恭ちゃんと言い合いを続けていて……なんだか、こっちまで嬉しくなってしまう。親友が幸せだと…俺も幸せ。 まぁ……俺の隣では彼氏がブスッと仏頂面してるんだけど。どうやらキスの邪魔されて…御立腹のようだ。嬉しいやら恥ずかしいやら…ちょっと複雑。 「はー恭介のせいでめちゃくちゃ汗かいたわ…あっつ……」 「あ!俺飲み物買ってこよっか?かな何がいい?」 「えー…コーラ」 「了解~!暁人は?」 「えっ…!あの…じゃあ、オレンジジュース…」 「おっけー!」 「ねぇ、俺も行こうか?恭ちゃん1人じゃ全部持てないでしょ?」 「えっ!?いいの!?」 「うん!」 「待った…いいよあき、俺が恭介と一緒に行くからここにいて」 立ち上がろうとすると爽に肩を掴まれた。 「あ……、ありがとう」 「ん…ちょっと待っててな」 爽はポンポンと優しく俺の頭を撫で、財布だけを手にして恭ちゃんとビーチサイドにある海の家に歩いて行った。 180cmオーバーのイケメン2人組の後ろ姿に、あれは"女の人がほっとかない"って言うのわかるよなぁ…とファミレスで恭ちゃんに言われた言葉を思い出す。どう考えたって声をかけられまくるに決まってる。 かなり、複雑。爽…お願いだから……水着のお姉さんに靡かないでね。

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