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この先プラトニックにつき【誘惑編】4

「な、暁人!どうだ?」 「……え?どうって?」 隣に腰掛けた美人に顔を覗き込まれ、思わずドキッとする。ふわふわの髪が顔にかかって、今日も要はとんでもなく色っぽい。恭ちゃんが一撃でハートを撃ち抜かれるのも納得の美しさだ。 「だから…爽のこと、誘惑できたか?」 「えっ……?あー……うーん……ちゅーはしたよ…?」 「えっここで!?」 「…う、うん…」 「………お前らってマジで結構大胆だよな?」 要は両足を伸ばして、半分呆れながらケラケラ笑う。 まぁ、普通に考えたら…こんなところでちゅーしちゃダメだよね? 「でも……やっぱり、その……身体には触ってもらえないの……」 「そっか……」 「うん……俺ってそんなに魅力ないのかな…?こんな細い身体じゃやっぱり……」 「いやそれはない絶対に」 「え?」 「俺が言うのもなんだけど、お前かなりエロい身体してると思う…細いけど腰回り絶妙に肉付きいいし」 「…………なんか要、恭ちゃんみたいなこと言うね?」 「ハァ!!!?ふざけんなっ!!!全然ちげーから!!!俺には一切下心ねーもん!!!」 確かに。要は絶対俺のことそういう目で見てないもんね。 …っていうか、恭ちゃんだって…俺に対しては下心なんてないと思うけど。だって、もう…要しか目に映ってないもんあの人。 「はぁ……しょーがねぇなぁ……」 「ん?」 「暁人にはまだ清らかなままでいてほしいなーなんて思ってたけど……お前と爽をくっつけたの俺だしな……お前が喜ぶなら、最大限協力してやるか…」 「へ…?」 「……暁人、日焼け止めって持ってきてる?」 「え?朝全身に塗ったよ?」 「わかってるけど、今持ってるか?」 「あるけど……なんで?」 「よし……じゃあ、爽が戻ってきたら……」 要は俺にとっておきの作戦を耳打ちしてきた。 話終えると、とんでもないドヤ顔で俺にニヤッと笑いかける。 確かに……それなら、どう転んだって触ってもらえるけど……そこから先、爽をその気にさせられるかどうかは完全に俺の力量次第だ。 うまく……いくのかな…… 「なーんかさ……!最初はイヤイヤだったけど…海って、楽しいな!俺、友達と海来たの初めてなんだよ」 「俺もだよ…!友達と海初めて!俺もすっごく楽しい!」 要と顔を見合わせて、お互いニコリと笑う。 「それにね…」 「ん?」 「要が恭ちゃんと仲良くなってくれてて…俺…めちゃくちゃ嬉しいの!」 「………ふーん…」 「ふふっ……!要、もしかして…相当恭ちゃんのこと気に入っちゃった?」 要は急に真剣な顔になったかと思うと、小さく……だけど、しっかりと頷いた。嫌なことは死んでも嫌だと言う要が、ちゃんと認めたことに驚く。 恭ちゃんすごいじゃん…!要にちゃんと気に入られてる…!!! 「俺………さ………めちゃくちゃ口悪いだろ?」 「え…?うん」 「けど、……元々は違ったんだよ」 「…違ったって…喋り方?」 「うん………親の躾もあって、喋り方…めちゃくちゃ丁寧だったし…性格もかなり内気だった」 今じゃ想像もつかない話に驚いて、食い入るように要の話に耳を傾ける。 「俺、中学の時にちょっとトラウマがあってさ………そのトラウマ以降……人を寄せ付けない最善を探して……それで、結局この話し方に至ったんだ」 「……そう………だったんだ……」 「うん…今はもう、口が悪いのが自分だって思ってるし…今更変える気もないけど……でも、こうやってトゲトゲして生きてると…嫌なこともいっぱい言われるし、敵もたくさん作るんだよ」 「うん…」 「結局さ…、俺の口の悪さで俺を嫌いになる奴って……別に俺のこと見てるわけじゃないんだよな…表面しか見てないんだよ」 要は長い前髪を耳にかけて、ため息をつく。 きっと要は、俺が想像もつかないような嫌な思いをたくさんしてきたんだね。 有名人の息子で、しかもこんな美人なんだ……嫌でも注目されてしまうに決まってる。 「口の悪さは、俺にとって自分を守る手段だったから……他人に嫌がられようとやめる気なんてない………そもそもめんどくさい輩と関わらないために始めたことだしな…?けどな……それでも、嫌われることに慣れたりは…しないんだよ…ずっと…」 「要……」 そっか…… "毒舌"が要にとっての自己防衛だったんだね。 恭ちゃんとは、真逆の選択をしているけど……やっていることは同じだ。 2人とも、傷付いた心を守るために…必死だったんだね。 なんだ………お似合いどころか、似たもの同士じゃん。 こんなの、惹かれ合うに……決まってる。 「だから俺は、口の悪さは自分の短所だって…ちゃんと認めてる……」 「うん…」 「なのにさ………アイツ…俺の毒舌…好きだって言うんだ」 「…!」 「口が悪いことを"許す"んじゃなく……そこも"魅力"って言ってくれたんだ……」 要は、半分泣きそうな声でそう呟く。 いつもと全く違う親友の姿に、なんだか俺まで泣きそうになった。 「…そっか……恭ちゃんらしいなぁ…」 「参ったよ……俺、そんなの言われたの初めてで……正直、ちょっと困ってる」 「………好きになりそうだから?」 「………そう、言うわけじゃ……ねーけど……」 「ふふっ…」 「あ……恭介には言うなよ!?」 「もちろん、言わないよ?」 要は両足をギュッと抱き込んで、ほんのり赤く染まった顔を隠そうとしている。 その仕草がかわいくてかわいくて…、俺は要の肩に頭を乗せて寄り添う。 「要……かわいいっ」 「それ……絶対お前には言われたくない」 「えーっ!?なんでぇ!?」 「俺が出会った人間の中で、暁人が一番かわいいから」 「あははっ!!今度は爽みたいなこと言うじゃんっ!!」 不思議だなぁ。前は、かわいいって言われることに抵抗あったのに……爽のおかげですっかり最高の褒め言葉に変わってしまった。 今は…大好きって言われるのと同じくらい嬉しい。 「………なんかさ………、恭介のそばにいたら…マジでそのうち心持ってかれそうで…ちょっと怖い……」 「…いいじゃん!」 「いや良くねぇって……アイツ、チャラ男だし…」 「あー……大丈夫だよ……?恭ちゃんは要が思ってるよりずっと、要に対して真剣だから」 「えっ…?なんだよそれ…どういう意味?」 「……まぁ、これ爽の受け売りだけどね?」 「爽?」 「うん、だから今度恭ちゃんに過去の話聞いてみて?」 「…過去?」 「きっと………今度こそちゃんと、色んなことが動き出すよ」 俺が微笑むと、要はよくわからないと言いたげに首を傾げていて…なんだか新鮮だった。 「要は…男の人がちゃんと恋愛対象になる人なんだね」 「………変か?」 「ううん!だって俺だってそうだし?……なんていうか、人を好きになるのって理屈じゃないんだなぁって…俺は爽に教えてもらったから……親友と考え方が一緒で嬉しいなって」 爽とこうなる前は、自分の性的嗜好について深く考えたことがなかったんだよね俺。爽に恋してるって気付いた時も、普通なら同性であることにもう少し悩んでもいいのに、俺にはそういう葛藤は一切なかった。 ただ、爽が好きで…その気持ちに性別は関係ないって無意識に感じてた。 だけど、交際を始めてからは…俺みたいに考えている人は案外稀なんだって知ったんだ。だから…恭ちゃんも要も、俺と同じなのかなって思ったら……勝手に親近感湧いちゃった。 「まぁ………そうだけど……俺のは…暁人のとはちょっと違うけどな?」 「え…?そうなの?」 「うん……でもその話は……また、今度詳しく話すよ」 「そっか……わかった!」 ニコッと笑いかけると、お前ってほんといい奴…っと要がボソリと呟いた。 それこそ、要には言われたくないよ。要こそ、ほんとは俺なんかよりずっとずっといい奴じゃん!誰が誤解してたって、俺はちゃんと要のいいところ知ってるんだからね!!! どうかこの先、俺の大好きな親友が少しでも傷付くことがありませんように…… 俺はそう、心の中で祈った。

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