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この先プラトニックにつき【誘惑編】8
「爽………こいつらは俺と恭介に任せて、暁人連れて車戻ってろ」
「…………嫌だ………殺す」
「そ、爽…?俺…まだ何もされてないよ…?だから…」
「お前は黙ってろあき」
今まで一度だってこんな風に爽に凄まれたことはない。
生まれた時から知っていて、ずっとずっと大切に優しく甘やかしてくれていた…大好きなお兄ちゃん。その人が、彼氏になって…さらに箍が外れた様に過保護になり、それはもう十分すぎるほどの愛情をたっぷり貰ってきた。
爽は、どんな時だって俺に優しい言葉しかかけない。
……はず………だったのに………
こんな爽、いやだよ……
俺………
見たくないよっ……
「やだ………爽…っ…」
「……!あき…?」
「そんな顔……見たくないっ……」
「……」
「俺っ………優しい爽が好き……っ、俺のために、そんな顔しないでっ…」
「けど…っ」
会話を聞いていた要は、そっと俺たちの前まで歩いてきて…ゴンっ!と一発爽の頭にチョップを落とす。
爽も俺もそれにとても驚いて、目を見開いて要を見た。
「ちょっとは冷静になったかバカ王子」
「……………ハイ…」
「お前がやるべきことは今大事に抱えてるお姫様を連れ出すことだろーが」
「………」
「そいつらの後始末は俺たちにだって出来るけど、今暁人がそばにいて欲しい相手は…この世に1人しかいねーんだぞ?…ったく…頭いい癖にマジでアホだな」
「…………ごめん」
「わかればよろしい!ほら、行けバカップル!さっさと仲直りしてこい!」
要はバンっと爽の背中を叩く。そのまま俺は爽に抱き上げられて、お姫様抱っこで連れて行かれる。
俺を襲った男たちの瞳には、全員恐怖の色が濃く滲んでいて……これから要が何をするのか……俺にも全く想像がつかない。
去り際、目が合った恭ちゃんに不安そうな顔を向けると、一度ニコリと笑ってから小さく囁かれた。
『大丈夫………あいつらと、かなのことは俺に任せて?かなが暴走しすぎない様にちゃんと見とくからさ………暁人……ゆっくり爽と話せよ?』
ポンと俺の頭を撫でた恭ちゃんの手が優しくて…泣きそうになった。
やっぱり、要と恭ちゃんはお似合いだ。
態度は真逆でも、考え方が……そっくりだもん。
お互い無言の時間がしばらく続いた。
抱きかかえられたまま歩くのは俺が恥ずかしがると思ったのか、爽は俺のパーカーのフードをかなり深く被せて周りからは顔が見えない様にしてくれた。
相変わらず、気も利くし…やっぱり……優しい。
「あき……、」
「ん…?」
「怪我がなくて……よかった」
「………うんっ…」
「……頼むから、もう………勝手に俺のそばから居なくならないで……」
「………ごめん……なさいっ…」
やっと言葉を発した爽は半分泣きそうで、自分のしでかしたことの残酷さを思い知らされた。
一時の感情で突っ走って、勝手に危ない目に遭って、またみんなに助けられるなんて……俺ってどこまでバカなんだ。
その上…いつだって底抜けに優しい爽に、あんな顔をさせてしまった。
怒りで我を忘れるほど傷付けてしまった。
ごめんね………、ごめんね爽………
俺、恋人失格だよ……
ひたすら涙を拭いながら爽の腕の中で小さくなっていると、気付いた時には元いたビーチの駐車場まで戻ってきていた。
爽は一旦俺を下ろすと、車のエンジンをかけてクーラーを入れた。恭ちゃんからキーを預かっていたらしい。この時期の車内は蒸し風呂状態。クーラーを入れなきゃ死んでしまう。
いい感じに冷房が効いたタイミングでまた抱き上げられ、後部座席に座らされた。爽も一緒に乗り込んできて、手を繋いだ状態で無言のまま隣に座る。
……気まずい。
爽と付き合ってから、こんなに気まずい沈黙は初めてだ。息が詰まりそう……
何から話していいのかも分からず、目を泳がせていると爽が俺の顔をそっと覗き込んだ。
「あき……」
「は、はいっ……」
「俺の話…聞いてくれる?」
「ん…もちろん」
「………あのな、シャワー室での……話なんだけど……」
「……うん」
「ほんとにごめんな…」
「……………それは……何への…謝罪……?」
「…え?」
「だって、謝らなきゃいけないのは……俺の方でしょ…?」
ツーッと、また頬に涙がこぼれ落ちる。
俺の涙を見て、爽は一瞬苦しそうな顔をした後ギュッと優しく抱きしめてくれた。
「ごめ、なさい…っ……爽っ……」
「……あき」
「"付き合わなきゃ良かった"なんて……、嘘でも、絶対言っちゃいけなかったのにっ……俺っ……」
「もう、いいって……」
「よくないっ!!……よく、ないもんっ……ちゃんと、謝らせてっ……」
俺は爽から身体を離して、いまだ涙が溢れ続けている目で真っ直ぐに爽の瞳を見上げる。
「俺………俺ね、本当に……爽と付き合えて……一緒にいれて…毎日すっごく楽しいし幸せなの………」
「……そんなの、俺もだよ…?」
「うん…でもね……」
「でも…?」
「ずっと、不思議だった……どうして爽が俺に触らないのか……それでずっと悩んでたから…実際爽に拒否されて……あーやっぱり触りたくないんだって現実突きつけられて…悲しくて……あんな酷いこと……言った…」
「……」
「けど、爽が俺に触りたくなくったって…俺を恋人にしたいって思ってくれてる限りは…爽のそば離れるつもりないから!!だから……無理に触って欲しいなんて、もう…言わない…」
「えっ…?いや、それは…」
「………"大っ嫌い"なんて、言ってごめんなさい………ほんとは、世界で一番…好きだよ…爽」
やっと止まった涙と共にニコリと微笑む。言葉にしたらようやく、自分の中で踏ん切りがついた気がした。
例え身体を求められなくたって、俺は一生、爽が好きだ。
それはずっと、変わらない。
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