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この先プラトニックにつき【誘惑編】7

涙で視界がボヤける。 気付いたら相当遠くの岩場まで来ていて、疲れて近くの日陰にしゃがみ込んだ。 俺、こんな走れたんだ……自分でもびっくり。昔から極端な運動音痴だけど、何故か持久走だけは得意だったからなぁ。…なんて、そんなこと今はどうでもいいか。 相変わらず涙が止まらず、手でひたすらに拭う。 爽に酷いことを、言ってしまった…… …思ってもいないことを。 「俺……、最低じゃん……」 ポツリと呟いた言葉は、誰もいない海に溶けて消えていく。 俺に"大っ嫌い"と言われた瞬間の、爽の絶望した顔を思い出して…罪悪感で死にそうになる。世界で一番愛してる人に、最低な嘘をついてしまった。 例え、爽が俺に触りたくなくても……それでも、俺が爽を好きな気持ちは変わらない。変わるはずない。 別れたいなんて、絶対思えない。 爽が俺と付き合いたいって思ってくれるなら……触ってくれなくて……いい。 それでもいいから…… そばに、いたい。 答えは最初から決まっていたのに……、どうしてあんな酷いことを言ってしまったんだろう。 後悔したって……もう遅い。 俺…爽に………嫌われちゃったかも……… 「ふっ……うっ……、"付き合わなきゃ良かった"なんて……なんで…っ」 なんで………言ってしまったの……? 最低……… 消えたい……… あれから………どのくらい時間が経ったんだろう。 きっと、爽も要達も…心配しているに違いない。早く、戻った方がいい。 嗚咽を堪えて涙を拭い、電源を切ったままにしていた携帯を取り出そうとポケットに手を入れる。 だが、目の前を人が通る気配がして……なんとなく顔をあげた。 相手は男性3人組で、揃ってまっすぐに俺を見下ろしている。なんだかどこかで見た顔のような気がして…ポカンと口を開けてしまう。 ……?誰……? 「………あーーーーっ!!!!日下部 暁人!!!!」 「うわっ!ほんとだ!!!」 「本物!!?」 「……えっ………と、どちら様でしたっけ……」 「覚えてない!?ほら、俺たち前に学校で……」 「……あ!!!!!」 "学校"と言われて思い出した。 この人たち…!要と初めて会った時に俺のことナンパして来た……そうだ…!他の大学の人!! 全く嬉しくないエンカウントに、俺は眉毛を八の字にして苦笑いする。 なんでこんな遠くまで来て、会っちゃうんだよ……最悪っ……!! 俺が黙っていると、なぜか3人は顔を見合わせてニヤニヤと笑い始めた。 え……? なに…?なんで笑うの…? 「暁人くんはなーんで泣いてんの?」 「あ、あのっ…」 「うわぁ…やっぱかわいいなぁ…!今ひとり?」 「えっ………い、いや……」 「危ないよぉ…?こんな人気無いとこで暁人くんみたいなかわいい子が泣いてたら…」 「そうそう…俺たちみたいな悪ーいお兄さんに食べられちゃうから!」 「……へっ?」 1人に勢いよく手で口を塞がれ、驚いている間にもう1人に後ろから羽交い締めにされた。突然の恐怖に、身動きひとつ取れず固まっていると、最後の1人が俺のパーカーに手をかける。 ジーッと音を立ててゆっくりジッパーが下げられ……爽に散々隠され続けた上半身が、いとも簡単に露わになった。 「うわっ肌白っ!!!乳首めっちゃピンクなんだけど…エロぉ……」 「ンーッ!!!!ンーッ!!!!」 「はーい静かにしてねーっ?」 「じゃなきゃ…立てなくなるまで殴るよ?」 後ろから呟かれた言葉に、恐怖で身体が凍りつく。 怖いっ……いやだっ…… 触らないでっ……! まだ、爽にしか触られたことないのにっ…… やめてっ…… やめて!!!!! 「そんな焦んなくても大丈夫だって~暴れない暴れない」 「そうそう!ちょっと触るだけだからさ!最後まではしないよぉ?俺たち美少年の身体がどうなってるのか興味あるだけ!」 「てか動画撮る?すっげぇ伸びそう」 「お!いいな!」 正面の男が携帯を構えて俺の顔と身体を撮影し始める。必死で顔を逸らそうとするが、ただでさえ力の弱い俺が男3人に敵うはずもなく、簡単にねじ伏せられた。 最悪だ………、もう、こんなの……死にたい。 「俺たちさぁ…暁人くんをナンパしたせいで君の大学出禁になったんだよねぇ……どうせ結城 要が大学側に手回したんだろうけどさぁ……そのせいで、かなり欲求不満なんだぁ」 「女漁りに海まで来たけど、全然かわいい子いねーし……暁人くんがいてマジラッキーだったよな!」 「な!だから~ヤリサーに群がるクソビッチどもと、このビーチにいるブス女どもの代わりに……暁人くんが相手してね?」 男たちのニヤついた声に、吐き気がする。 さっきシャワー室で話していた人たちなんて…コイツらに比べたらかわいいもんだ。 これって……バチが当たったってこと…? 爽を傷付けたからなの……? 涙で完全にボヤけた視界の中で、ぼんやりと考える。 爽………、ごめんね。 目の前の男の手が俺の身体に這ったその時、遠くから誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。 そちらに視線を動かすより先に、目の前の携帯が音もなく消え………地面に叩きつけられる音だけが鼓膜に響く。 「お前らの相手なら、俺がしてやるって!!」 「「「……え?」」」 聞き慣れた綺麗なハイトーンボイスに、 涙がドバッと溢れた。 一瞬にして、携帯同様目の前の男も消え去る。気付いた時には2メートルくらい先で男が悶絶していて、蹴り飛ばされたのだとやっと認識した。 「ぐっ…ぐあっ……!」 「はー……あっぶねぇ………ギリセーフじゃん……いやアウトか……?ったく……うちのお姫様はどんだけ遠くまで逃げるんですかね!!!すげー探しただろーが!!!」 世にも美しい青年が、岩場に倒れ込む男を踏みつけながら俺を見下ろした。 なんで要は……… いつも、来て欲しい時に助けに来てくれるの……? 「ま、またお前かよっ!!!」 「なんでここにいんだよ結城!!!」 「ハァ!?こっちのセリフだっつーの!!!暁人は俺と一緒に海に来たんだよ!!!」 「…エッ!!!?お前ら付き合ってんの!!!?」 「ちげーよ!!!俺じゃねぇ!!いいから暁人から離れろ腐れチンポども!!!」 相変わらずのとんでもない毒舌にポカンとしていると、ようやく俺の口から男の手が少しだけ離れた。 その隙を見計らって、叫ぶ。 「かっ要っ……!!!!」 「暁人!早くそいつらから離れろ!こんなところ爽が見たら…」 「もう遅い」 要の後ろから、今まで見たこともないような冷酷な顔をした爽がヌッと出てきて、俺ですら呼吸が止まる。 「……あちゃー………、お前ら早く離せ……ナイト様のご到着だ」 「「えっ…?」」 「こいつが暁人の彼氏だよ……早く離せ…じゃないと…」 「全員殺してやる……」 「…ほらな、やっぱり」 完全に目が据わっている。 あまりのオーラに俺も言葉が出ず、呆然と爽を見つめるしか出来ない。 爽はすぐに俺の元に歩いてくると、男たちから俺を引き離してギュッと抱きしめてくれた。 「爽~~~~っ!!!!かなぁあ~~~~!!!走んの速いってお前らぁ……!ハァ……ハァッ………あ、あれ……?なにこの空気……あ!暁人いた!!!」 「恭介……お前が遅すぎんだよ……」 「ええ!?遅くないって!!俺は普通!!!常人!!!君たちが速すぎるだけでしょ!!?…って……あれー…?爽くん…人殺しそうな顔してるー……?」 遅れて走ってきた恭ちゃんは口をあんぐりと開いて、俺たちの様子を見る。その恭ちゃんの肩をポンと叩いて、要は大きく息を吐いた。 抱きしめられたままそっと上を向くと、爽は一言も喋らず般若のような顔で男たちを睨みつけている。 ねぇ、怖すぎるって……… 誰この人………

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