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この先プラトニックにつき【誘惑編】10
そのあと俺と爽は散々要に説教されて、それまでの甘くてえっちな雰囲気は粉々に砕かれた。
ほんと、要の言う通りだよ……俺たちこんなとこで何してんだろ……ほぼ公然猥褻じゃん。そもそもここで最後までなんて出来るはずないのに…!全裸になれるはずないし、入れる準備も一切してないし…興奮して全然周りが見えなくなってた。
ていうか……
自分で言っといてなんだけど……
"犯して"ってなに………?
思い出しただけで、えっちすぎて顔から火出そうなんですけど!!!!!!
大胆になるどころじゃないよ!!!
"夏"と"海"の組み合わせは危険!!!!後から後悔するような恥ずかしいこと、バンバン言えちゃうんだから!!!
ちなみに……
永遠に続くかと思われた要の説教タイムを終わらせたのは、意外な救世主だった。
「ねぇ!!!かな!!!夕日すごいよ!!!ビーチが真っ赤で超綺麗!!!車にいちゃ勿体無いって!!みんなで見に行こう!!!」
多少難色を示したものの、さすがの要もサンセットビーチの魅力には勝てなかったようで…俺たちは無事解放された。
満面の笑みの恭ちゃんと夕日に救われて再びビーチに向かうと、昼間の喧騒が嘘のようにみんながゆったりとした時間を過ごしていた。
赤く染まった空が、海の中に溶けていくみたい。
爽と手を繋いで、波打ち際に立ち足だけを海水につける。思っていたより冷たくて気持ちいい。せっかくビーチまで来たのに、考えてみたら今日海に入ったのは今が初めて。
「あき…」
「ん?」
「その、なんか…ごめんな?俺、完全に理性の糸ブチ切れた…」
「えっ!?いやいやいや!!爽の気持ちわかってたのに、全力で誘惑した俺が悪かったんだよ!?ほんと…ごめん……思い出して今、死にそうになってる……」
「ふはっ…!いや、マジで最高だったよ?すーげぇエロかった」
「やだ爽…そんな風に言わないで」
「なんだよ、今更また照れんの?」
「…もう、こっち見ないでよ恥ずかしい」
「……ブハッ!マジかわいいねお前」
声を出して笑う爽を、横目でチラ見する。相変わらず無駄に男前な彼氏に、またしても心臓が飛び跳ねる。
もう…ちょっとは俺の心臓休ませてよね!!ドキドキしすぎて死んじゃうってば!!
ちなみにお隣で水を掛け合って遊んでいた要と恭ちゃんは、再びビーチバレーを開始したようでギャーギャー騒いでいる。ほんと、楽しそう。
そのおかげで完全に2人っきりになった俺と爽は、再び甘ーい雰囲気のスイッチがオンになった。
「あそこまでしといてアレなんだけどさ…」
「うん…」
「俺、やっぱお前の初めてはちゃんとしてやりたいから……もうちょっとだけ…セックスはおあずけにしないか?」
「……え?」
「ちゃんとあきの親に挨拶して、ちゃんと準備して、それから…優しく…丁寧に抱かせて?」
「……爽…」
爽は俺の髪をそっと手で梳き、そのまま耳にかけて、最後に頬にキスをする。
スマートすぎる動きに、さらに胸がキュンキュンした。
夕日に照らされた爽の瞳はいつもより1.5倍キラキラだ。やっぱり爽は、王子様だね。
「あき……俺のせいでたくさん不安にさせてごめんな?」
「……ううん……俺も、もっと早く…ちゃんと言葉にすれば良かった……怖がってばかりじゃダメだね…」
「これからはお互い…もっと思ってることを話して、ちゃんと向き合って、気持ちを伝えよう……俺は、なに言われたって一生あきを手放すつもりないから」
「うんっ…!」
爽にとって不本意なことを口にしたら、また前みたいに距離が生まれてしまうんじゃないかって怖くて……ずっと言葉にすることを避けていた。でも…もうそんなの心配しなくていいんだ。
なんだか今までより、もっと強く心が通じ合った気がした。
握っていた手に、お互いさらに力が籠る。
「で…、先に宣言しとくけど……」
「え?なにを?」
「月末、俺たち北海道旅行だろ?」
「う、うん……」
「だからさ……」
爽は俺の身体をグッと引き寄せ、耳元に唇を寄せた。
急な動きに驚いてカチカチになっていると、鼓膜に爆弾が落とされる。
『あきの初めて、ハネムーンで奪うから』
低音の柔らかいセクシーボイスが耳に残って、離れない。
カッと顔に熱が集まるのがわかって、目を見開いて爽を見上げると、満足げな王子様が爽やかに笑っていた。
帰りの車の中、俺は助手席で肉まんを頬張る。だって、俺朝食以降なんにも食べてなかったんだよ?お腹空くってば!!
まぁ……完全に自業自得なんだけど。
俺が助手席に座っているということは…もちろん運転しているのは爽。当初の計画では、帰りも恭ちゃんが運転する予定だったんだけど……今は後部座席にいる。
首だけ後ろを振り向くと、恭ちゃんと要が寄り添い合いながら爆睡している。相当疲れたようだ。2人はビーチに着いて以降俺たちよりずっとはしゃぎ回ってたし、俺を助ける為にかなり体力を使ってくれたみたいだから、当然っちゃ当然。
恭ちゃんに後から聞いた話だけど……俺を襲った3人組は要にコテンパンにされた後、身包みを全て剥がされたらしい。その上要は3人の水着と携帯をその場で燃やしたらしく、それを見た恭ちゃんはますます要にゾッコンになったそうだ。
マジでわけわかんないけど、2人がとんでもなくお似合いだということだけはよくわかった。
…ちなみにその話を聞いた爽は、晴れやかに笑って要とハイタッチしていた。"燃やした"ってところが恭ちゃん同様、かなりお気に召したようだ。おかしいでしょこの人たち。
でも……やっぱり俺の親友は、最高だ。
要への一生の恩が、またひとつ増えちゃった。
とにかく……そんな感じで要と恭ちゃんはめちゃくちゃ疲れたみたいで、このまま恭ちゃんに運転させるのはマズイからと、爽が代わりを買って出たわけだ。
「あき……お前その肉まん……何個目?」
「んー?んー……たぶん…5個目?爽も食べる?」
「いやいらないけど……腹壊すなよ?」
「らいじょうぶー!おいしーもんっ」
「ふふっ……そういう問題かよ」
必死な顔で肉まんを食べていた俺を、爽は運転しながらチラチラと見てきた。肉まんがパンパンに詰まったほっぺを、時折指で押される。もー相変わらず子供なんだから!
「ね、爽…?」
「ん?」
「色々あったけど……今日……海、来て良かったね!……すっごく楽しかった!」
もうすっかり日が沈んで真っ黒になった空を眺めながら、呟く。周りに明かりが少ないから、星がめちゃくちゃ綺麗。
恭ちゃんに海行きを提案された時は…正直半信半疑だったけど……本当に、素敵な夏の思い出になった。
「俺も……あきと海来れて楽しかったよ」
「えへへ……なら、よかった…!」
「………海、来ようって言ったの恭介だったらしいけど…もしかしてそれって…あきが俺とのこと相談したから?」
「……バレちゃった?」
「やっぱそうか………今度はナイスアシストじゃん恭介」
「あははっ…!もう、要にも恭ちゃんにも、助けてもらってばっかりだよ俺!」
2人がいたからここに来れたし、2人がいたから爽と前よりもっと分かり合えた。
初めての友達がこんな素敵な人たちで……俺ってほんと恵まれてるよね。
「あ………、なぁ、あき?」
「んー?」
「お前さ……シャワー室から飛び出す前…俺に首舐められたーみたいなこと言ってただろ?あれって……」
「あぁ…爽が熱出した日ね?」
「うーわ………やっぱあれ……ほんとにあったことだったのか……」
「ふふふっ……寝耳に水?」
「完全に」
恥ずかしそうに顔を歪める王子様が愛しくて、笑ってしまう。
あの時はまだ爽への気持ちを自覚してなかったし…衝撃的すぎて何も考えられなかったけど、今改めて考えてみたら…相当えっちな出来事だったよねぇ……?
っていうか、爽には偶然お風呂場で素っ裸を見られたこともあったし……なんだかんだ俺たちって、ルームシェアで起こり得るえっちなイベント結構クリアしてない?漫画みたい。
「爽全然覚えてないみたいだったからずっと言ってなかったけど…あの時のこと少しは記憶にあるの?」
「むしろ……全部覚えてる……だけど、あの出来事自体完全に夢だと思ってて……」
「もー!ひっどいなぁ~!あれ、俺にとっては人生で初めての性的な接触だったのに」
「マジでごめんって!!!あの時期は特にお前への気持ち持て余して悶々としてたから…」
「まぁ、いいけど?………上書き……してくれるんでしょ?」
チラッと隣を見ると、少し驚いた顔の爽と目線が交わった。
「………そりゃ、しますけど」
「俺に…"入れたい"んだもんね?」
「おいあきっ!からかうなっての!!」
「あははっ!いつもは俺のことからかってくるくせに~!」
「おっ前…!いい度胸じゃねーか!帰ったら死ぬほどキスしてやっからな!!!覚悟しとけよ!!?」
「………いいけど、」
「……?けど?」
一拍置いて言い放つ。
「また、誘惑しちゃうよ?」
嬉しいのか…苦しいのか…よくわからない表情の爽が、勘弁してくれ…と呟くのをしてやったりの顔で見つめる。
ねぇ、爽………知ってる?
"夏と海"は人を大胆にするんだって!
…To be continued.
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