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この先プラトニックにつき【挨拶編】1
「あきちゃん!ただいま!」
目の前に突如現れた長身の男が、キラキラの笑顔で俺に笑いかけた。あまりにも予想外の人物の登場に、俺は目を見開いたまま数秒固まる。
「………えっ………え…えええええっ!!!?あ、旭っ!!!?」
「うんっ!久しぶりだね!」
彼は、日下部 旭。
俺の……ひとつ年下の弟だ。
会うのは、約半年ぶり。
旭……また背が伸びた。もうほとんど、爽と同じくらいだ。
綺麗な茶髪はサラサラで、髪質が俺と全く同じ。…でも、俺と旭の似てる所はそこだけ。旭は背が高くてスタイルも良いし…顔の作りも丹精で男らしい。チビな上、華奢で女顔の俺とは真逆だ。
この世で唯一自分と同じ両親から生を享けた存在のはずなのに…どうしてこうも違うのか。
旭は俺の出会った全ての人の中で、女の子にモテるランキング…第2位だ。
あ、もちろん…1位は爽ね?
……って、
そんなこと考えている場合じゃないってば!!!!
なんで海外に留学してるはずの弟が今俺の目の前で笑ってんの!!!?
「爽くんも…お迎えありがとうございます!」
「こちらこそ、来てくれてありがとな?無事着いて良かったよ旭」
「ちょっと待って………!!何で旭が日本にいるの!!!?しかも何でそれを爽が知ってんの!!?旭…俺には年末まで日本に帰ってこないって言ってたじゃん!!!」
「だって、未来のお義兄様がチケット代出してくれるっていうからさぁ…さすがにそれは帰らなきゃって思うでしょ?」
「は……!?えっ……、ええっ!!!?爽っ!!?どういうこと!!!?」
「ブハッ!!!!!もー無理お前反応良すぎっ!!!!」
爽と旭はお互い顔を見合って、大爆笑を始める。そりゃあもう、周りを歩いてる人達が二度見するくらいの大爆笑。
ねぇ!!!!なんなのこのイケメンコンビ!!!!周りの女の子みんなが君達のこと見つめてるから、無邪気に笑うのやめてくんない!!!?
…っていうか、早いとこ説明して欲しいんですけど!!!?
思い返してみれば、今朝の爽の言動にはおかしな所がいくつもあった。いや……むしろもっと前からかも……
状況はいまだ理解不能だけど……ひとつだけわかる。
………どうやら俺は、
盛大にドッキリを仕掛けられたらしい………
「あき?お前まだパジャマなのか?」
「……へ?」
休日の朝、コーヒーを飲みながらリビングのソファで携帯と睨めっこしていたら、いつの間にか隣に爽が立っていた。
「………爽こそ、何で…スーツ?」
「は?」
「だって…今日……お仕事お休みなのに……」
俺は目をまん丸にして、隣の色男を見上げる。
どうやらネクタイを締めている途中らしい。長い指が器用に動いているのが見えて、ちょっと感心してしまう。俺、中高学ランだったからまともにネクタイ結んだ経験が全然ないんだよね。だからネクタイを結ぶの苦手だし、単純に上手く結べる大人がかっこよく見えるの。
…それにしても、今日のスーツ一体いくらなんだろう…?爽の持ってるスーツはどれもオーダーメイドの超お高いものばかりだけど、これは一段と凄い。普段、要のお手伝いで洋服作りに関わってる俺からしたら一目瞭然。明らかに、仕事用のものより生地が上等だ。
「あき……お前それマジで言ってる?」
「……え?」
「あのなぁ……付き合ってる相手の実家に挨拶に行くんだぞ…?そんな大切な日にスーツを着ないような男に、俺はなりたくない」
キリッと凛々しい顔でそう宣言するイケメンに、呆れてしまう。
今日は、爽たっての希望で俺の実家に挨拶に行く日。俺は付き合った後爽のご両親に会った時、別に緊張しなかったけど…爽はちょっと緊張してるみたい。珍しい。
「はぁ…別にいいのに……爽ってほんとそういうとこ真面目だね?」
「わかってねーなあきは!大事に育てたかわいい息子さんを掻っ攫うんだぞ?やっぱ、格好くらいはキチンとしとかなきゃダメだろ…大人として」
「ふぅん……そういうもん?」
「そういうもん」
そもそも俺の実家になんて、爽は小さい頃から何度も来たことあるのに…スーツで挨拶なんてちょっと大袈裟。爽がそうしたいって言うなら止めないけどさ。俺と爽が一緒に帰って来るってだけでうちの親はめちゃくちゃ喜ぶのにな。
日下部家は昔っから、全員爽が大好きだから。
「………あ、じゃあ……俺もスーツ着た方がいいのかな?」
「いや、あきは着なくていいだろ…ってかお前……スーツ持ってんの?」
「あー……えっと…大学の入学式で着たやつがあるけど…」
「………」
「?何そのニヤけ顔」
「……いや、あきがミニスカートのタイトなスーツ着てるとこ想像しちゃって…」
「ハァ!!?」
「フー……ちょっと待って一旦冷静になるわ」
「ちゃんと男物だよっ!!!!」
俺はポコポコと両手で爽のお腹を攻撃する。それを受け流しながらまだニヤニヤしている王子様に、俺は思いっきりイラッとした顔を向けてやった。
どーせ俺は男物のスーツ死ぬほど似合わないよっ!!!!親にも弟にも七五三とか言われたしさ!!!ほっとけ!!!
「はー……かわいっ…あきは怒った顔もかわいいねぇ~」
「もーっ!!馬鹿にしてっ!!」
「してないって!かわいがってるだけ」
「んー…もー!くすぐったいっ!!」
両手で頬をガッチリと掴まれて、顔中にたくさんキスされた。最後は口にチュッと、綺麗なリップ音。それと同時にニコッと近距離で微笑まれて……完全にノックアウト。
樋口 爽は、今日も朝から俺を振り回す気満々らしい。
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