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この先プラトニックにつき【挨拶編】8
コンコンッ
ガチャッ
「あきちゃ…………あ、」
「ギャーーーーーッ!!!!?旭っ!!!ちょ、なんでいきなり開けるの!!!!?」
「わーーーお!ごめんごめん!まさか実家でまでそんなことしてると思わなくて…」
「まだ何もしてないってば!!!!」
「……"まだ"ってとこがかなりリアル…」
爽に跨ってる姿を弟にバッチリ見られてしまって、俺はあまりの羞恥に手で顔を覆う。それを見て爽は楽しそうに笑っている。
いや、なんでこの状況で笑ってられんのこの人!!!?
「ふふっ…!えーっと…旭…なんかあったのか?」
「あ…うん、下でお母さんが呼んでて…ちょっとあきちゃん借りてもいいかな?」
「もちろん、ほらあき行っておいで」
「う、うん…!」
爽から離れて慌ててドアに向かうと、旭にめちゃくちゃニヤニヤした顔で見られた。思わず睨みつけると、余計に笑われる。
「あははっ…すっごい顔…!邪魔してごめんね、お兄ちゃん?」
「もー!!旭まで俺のこといじるわけ!?俺たち付き合ってるんだから別にいいじゃん!!」
「ぶはっ!誰もダメって言ってないじゃん!僕はあきちゃんと爽くんが仲良しなのめちゃくちゃ嬉しいよ?」
「……ぐっ……それすら煽りに聞こえる」
「ふ…っ!勘繰りすぎ!…あきちゃん、顔真っ赤だよ?りんごみたい…!」
「うるさい~っ!もーみんなで俺のこといじめてっ!グレてやるからっ!!」
「あははははっ!!!!今更ぁ?」
爽と旭の笑い声を無視して、俺は廊下に出る。わざとドタドタ音を立てて階段を降りていると、爽が旭を呼ぶ声が遠くで聞こえた。そのまま俺の部屋に入って行った旭に、俺は首を傾げつつ下に降りる。
なんだろ……?
「あきちゃーん、そこにいるのー?こっちこれるー?」
「あ、はーい!」
お母さんに呼ばれ、リビングに入る。
爽、なんか旭に話でもあったのかな…?
すっかり日が落ちて外が真っ暗になった頃、俺と爽は家に帰ることを両親に告げ、車に乗り込んだ。泊まっていかないのかと何度も聞かれたけど、俺は明日朝からバイトなのでお断りした。…というか、あの狭い部屋に爽と2人で寝るとか無理でしょ。色んな意味で。
お母さんから残った料理をたっぷり貰ったから、何日間かはちょっと楽できそう。俺ももっと料理上手くなりたいなぁ。きっとこれも、作ってあげたい人がいるからこその感情。ただでさえ爽は体調崩すと熱出しやすいから、栄養管理は必須だよね。もっと、勉強しなきゃ。
ぼんやりと考え込んでいると、爽が運転席の窓を開けて両親に頭を下げた。
「今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ、とても楽しかったよ」
「ほんとよねぇ!久しぶりにみんなで集まれてすっごく楽しかったわ!爽くん、また来てね!」
「ハイ、ぜひ!」
「あ!ご両親にもよろしく言っておいてねっ!また樋口家と日下部家で集まりましょ!」
「わかりました」
両親の心からの笑顔に、俺も嬉しくなった。
今日……来てよかったなぁ…
母の隣でニコニコしていた旭も、屈んで俺たちの顔を覗き込む。
「あきちゃん、僕1週間は日本にいるからまた会おうね?」
「え!?そうなの!?」
「うん、僕も今夏休み中だからさ」
「やったー!じゃあまた会えるね!連絡する!」
「ふふっ…おっけー!まぁ…約束しなくても会うことになりそうだけど……」
「…え?」
「あ、2人の愛の巣にも遊びに行っていいかな?」
「おー、いつでも来ていいぞ旭」
「はーい!」
なんだか意味深に笑う旭に、なにか企みを感じる。……コレ、俺またやられてる?
「じゃあ、失礼します」
「また来るね!」
窓を閉め手を振ると、家族みんなが手を振り返してくれた。
……ちゃんと報告できてよかった。
車が走り出すと、スピーカーからはいつも爽が聞いているゆったりしたジャズが流れ始めた。
「ねぇ爽……」
「ん?」
「今日のこと……ほんとにありがとね」
「こちらこそ……あきが手握ってくれたから、めちゃくちゃ勇気出たよ」
「……堅苦しい挨拶なんて必要ないって思ってたけど……俺、感動しちゃった」
「……なら、良かった」
爽は前を見たまま、柔らかく笑う。
「だけどね………」
「ん?」
「さすがに140万はやりすぎなんで今後は控えて貰えますか……」
「……やっぱり?」
「うん、ファーストクラスは普通に引く」
「引くなよ!!!」
「ドン引きだよ庶民は!!!」
俺の抗議に、爽は口を尖らせながらブーブー言っている。全く……桁違いのお金持ちって、限度を知らないんだから。
「もう俺のために際限無くお金使うのはやめるって誓って!!!!」
「………」
「……爽!!!?」
「……………は、い」
「はぁ…わかればよろしい!」
「……けど、必要な時はいいんだよな?」
「必要な時は………まぁ、いいけど……」
俺がそう言うと、爽はホッと胸を撫で下ろしたようだ。
なんでそんなに安心するのか…、俺にはよくわからないけど……まぁ…いっか。わかってくれたなら。
窓の外を流れていく住宅街を見つめながら、首を傾けると…ガラスにゴンっと頭が当たった。ちょっと、眠いかも。
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