66 / 203

この先プラトニックにつき【準備編】1

日曜日の朝、いつものようにバイト先に出勤した俺の目には、あり得ない光景が広がっていて…思わず三度見してしまった。 絶対に接点が無かったはずの2人が、楽しそうに笑っている。 嘘でしょ………? ……え、……なんで? 「おっし、これでどうだ!!!かわいくね!?」 「わぁっすごい!かなちゃん天才だね!」 「だろ!?やっぱ楓さん超わかってんな!!ジレと腰巻きのエプロンは揃いにして、タイは全員バラバラにしよう!暁人はフェミニン系の顔だし…リボンタイとかどうだろ…?で…色はパーソナルカラーをそれぞれ取り入れて…」 「うんっいい!最高っ!!……あ!あきちゃんおはよー!今日も早いねぇ~」 「おー暁人ー!何してんだよ早くこっちこいよ!」 「……………要……?」 「ん?」 「なんでいんの……?」 まだオープン前の店内のカフェスペースで、スケッチブック片手に店長の楓さんと話していたのは…紛れもなく俺の親友……結城 要だった。 驚きすぎてその場から動けず、棒立ちで我らが女王様を見つめる。 もちろん要にはここでバイトをしていることは話していたけれど、来てくれたのはこれが初めて。だから…楓さんと要が親しいなんて、俺全然知らなかった。 「ふ……2人が知り合いだったなんて……俺知らなかったんだけど……」 「いや俺、楓さんと会ったの昨日が初めてだけど?」 「は!?昨日!!?」 「うん、俺お前目当てで昨日も遊びに来たんだけど…暁人ちょうど休みでいねーし…帰ろうか迷ってとりあえず店に入ってみたら、何故か楓さんと意気投合した」 「ハイ!?なんで!?」 「あきちゃん知ってた!?かなちゃんものすっごい読書家なんだよ!!?俺こんなに本の趣味が合う相手に初めて出会ってめちゃくちゃ興奮しちゃった!!!」 「俺も俺も」 ニコッと笑い合う楓さんと要は、ハッピーオーラ全開だ。おっとりかわいい系の楓さんと、派手な美人の要が隣に並ぶと絵面がエグい。もはや背景にお花畑が見えちゃう。綺麗すぎ。 うちの大学は都内でも偏差値トップクラスだし、要はその中でもかなり上位の成績だってことは知ってたけど……読書家だったのは初耳だ。弱点ゼロなのかこの人。 「なぁ、オイ暁人これ見ろ!この店の制服考えてた!」 「えっ!?」 「かなちゃんデザイナー志望って言うから、お店の制服のデザインお願いしてみたの!すっごくかわいいよ!絶対あきちゃんに似合う!」 要のスケッチブックには、最高にセンスのいいデザイン画が描かれていた。 うわ、すごい……… ここでバイトを始めた当初、制服が味気ないから要に相談しよう…なんて思ってたけど…まさか俺抜きで勝手に話が進んでいるなんて…!こんなの、願ったり叶ったりだ。最高すぎる。 「めっっっちゃかわいい!!!!要天才!!!!」 「知ってる~」 「よし!じゃあ早速業者さんに話詰めて試作してもらおうかな…!」 「いや、俺作るよ」 「……えっ!?かなちゃん縫製もやってんの!!?」 「うん、…あ、ほら今暁人が着てるこの服も俺が作った」 「はえ~…!!あきちゃんの服…いつもかわいいなって思ってたけど…かなちゃんが作ってたんだ…!!」 楓さんは立ち上がって俺の服をキラキラの瞳で見つめる。…ちょっと恥ずかしい。 要は俺たちを見ながら頬杖をついて、なにやら得意げに笑っている。 「あきちゃん!!こんなすごいお友達お店に呼んでくれてありがとね!!!」 「いや、俺が呼んだわけじゃ……」 「じゃあかなちゃん、これお仕事として受けてくれる!?報酬はいくらくらいに…」 「いらねーよ金は」 「ええっ!!?そういうわけにはいかないよ!!」 「いらねぇって、俺金持ちだし」 シレッとなんの嫌味もなくこんなセリフを言ってしまう要に、思わず吹き出しそうになる。これが本物のお金持ち……貫禄と余裕が違う。 「でも……」 「じゃあさ、ケーキ…食べたい」 「え?」 「昨日食べた楓さん手作りのケーキめちゃくちゃ美味かったから、また食べたいなって…」 「え…それだけ?」 「俺はケーキが食べたいし、服を作りたい…楓さんは俺に制服を作って欲しい……win-winどころかむしろ俺得してるって!」 「かなちゃん…」 「だから、ケーキもらっていい?」 「…!もちろん!」 2人のやりとりにほっこりしてしまう。 あ、やばい……なんかキュンキュンする。大好きな人同士が仲良くしてるの見ると俺まで嬉しくなっちゃう。 普段は傍若無人の毒舌モンスターな要が楓さんには完全に懐いてて、なんか不思議。まぁ、確かに…楓さんって癒しオーラすごいもんなぁ。さながら、猛獣使いってとこかな。 楓さんはニコニコで要にケーキとコーヒーを出すと、カフェスペースから出て本の品出しをしに行った。積まれた段ボールを見るに、どうやら今日は入荷が多かったようだ。 俺は、カフェスペースの開店準備でコーヒーカップとソーサーを並べ始める。向かいのカウンターでは要がケーキを口いっぱいに頬張っていて、かわいくて笑ってしまった。今日はフルーツたっぷりのミルクレープみたい。めちゃくちゃ美味しそう。 要甘党だからなぁ…幸せそうな顔見れて俺も嬉しい。 「ん~………!クッソうめぇ~っ…!」 「あはっ!要かわいいなぁ…甘いもの食べてる時は天使みたいなのになぁ~…なんで口開くと女王様になっちゃうんだろ?不思議だよねー」 「チッ……うるせー!ちゃんと仕事しろ」 「ふふっ!はぁーいっ」 もう、ほんと口悪いんだから。 …そこもかわいいけど! 一応既に勤務時間は始まってるので、手を休めずにチラッと要を横目で見る。 ……さて、本題は何なんだろう。 予告も無く要が俺のところに来るなんて…初めてだ。きっと、何か話したいことがあったに違いない。

ともだちにシェアしよう!