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この先プラトニックにつき【準備編】3
書店の方の接客をようやく終えてだいたい人がはけ切ったので、あとは楓さんに任せて俺だけカフェスペースに戻った。
ずっと要の様子が気になっていたから、カフェスペースに入るとすぐに要の座る席を見る。すると何故か、要の隣に人影が見えて思わず二度見してしまった。
見たところ、30代後半くらいの…めちゃくちゃ派手な女性。なにやら必死に要に話しかけているようだ。
知り合いかとも考えたけど…要の表情を見るにそれはあり得ないと感じた。
だって、顔面蒼白。
嘘でしょ…?
こんな要……見たことない…
「ウフフッ…アタシお兄さんみたいな綺麗な人と出会えたらなってずっと思ってたんですよぉ…!これって運命ですよねぇ…?」
「……」
「お兄さんだって、アタシに興味あるでしょ?ほら、ホテルでもなんでもいいんで早く行きましょ~?」
とんでもない会話が耳に入って、ギョッとする。
これ、逆ナン……ってやつ?一回り以上年上の女の人にナンパされるなんて…要ってやっぱ男女共にモテるんだ…
要は無言のまま口を押さえて青くなっていて、俺は止めに入るべきなのかどうか必死に思考を巡らせる。
だって、こんなシチュエーション…要なら自分でどうとだって出来るはずだ。どう考えたって相手は要の嫌いなタイプだろうし、そもそもデザインを考えてる時に話しかけると要めちゃくちゃ嫌がるから。
なのに……なんで黙ってるのか全く意味がわからない。
もしかして要…体調悪い………?
「お兄さん…本当に綺麗ですね……早く出ましょうよ…!」
「………っ」
女性が要の腕に自分の腕を絡めた瞬間、いよいよ気持ち悪そうに顔を歪めたのが見えて…もう無理だと判断して、割って入ろうと一歩踏み出す。
だけど、
…誰かにグッと肩を掴まれて俺の動きは止まった。
「……え?」
「ごめんな暁人、俺が行く」
「……へ……?えっ!!?きょ…!?」
名前を呼び切る前に、大きな背中が俺の視界を塞いだ。
「すみませーーんっ!おねぇさーん!!この美人俺のなんで取らないでくださーいっ!」
「……え………は!?きょ、う…すけ…?」
「ハァ!?アンタ誰よ!!!!引っ込んでなさいよ!!!!ブサイク!!!」
「うーわひっでぇなぁ~!!けどまぁ、確かに…かなに比べたら俺はブサイクか…ったく面食いだねぇ~…って俺も人の事言えねーか」
「いいから早く消えなさいよ!!!」
「え~でも~そんな大きな声出したらお店に迷惑ですよ?」
ニコニコと笑いながら言い放つ恭ちゃんに、女性は若干怯む。
…わかるよ、だって…恭ちゃんの目…全く笑ってないもん。これは怖いよね。
恭ちゃんはさりげなく要の肩を抱いて、グッと自分の方に引き寄せる。その動きで女性の腕がスルッと抜けて、要の表情が少しだけ和らいだように見えた。
「……ッ…!なんなのよ!!!!」
「とにかく帰ってくださ~いっ………じゃなきゃ…」
恭ちゃんは要の後頭部に指を差し入れ自分の首元に顔を埋めるように押し付けると、貼り付けたような笑顔を取り去って急に真顔になった。
そのあまりの冷淡な顔つきに、周りの空気がビシッと固まる。
「………俺が追い出すぞクソババア」
「ひっ…」
「…は~いっ!こちらのお客様おかえりでーす!」
「………フンっ!!!もう来ないわよこんな店!!!!」
女性は捨て台詞を吐きながら慌てて店から出て行った。
それを他のお客さんも、俺も呆然と見送る。
恭ちゃんは要の背中をさすりながら、ギュッと強く手を握った。要の指はカタカタと震えていて、俺は訳がわからず要と恭ちゃんの顔を交互に見つめる。
「かな……平気?」
「………っ、なんで…!」
「いやぁ…かなに会いたくてさぁ…仕込んどいた位置共有アプリ辿って来たんだけど…まさかこんなことになってるなんてマジびっくり!!!」
「……ストーカー…!」
「ごめんってぇ~!!だって、かなってば俺の連絡全部無視するんだもーん…」
「…………っていうか……、お前…っ…気付いて…」
「…うん、知ってたよ……かな、女の人ダメでしょ?」
恭ちゃんの言葉を聞いて、要は静かに泣き始める。
………知らなかった。
要、女の人苦手だったんだ………
確かに、要が女の人と喋ってるの一度も見たことない。
もしかして……例の"トラウマ"に関係してるのかな…
親友の俺ですら知らなかったことを、まだ知り合って日が浅いはずの恭ちゃんは見抜いてたんだ……とんでもない洞察力だ。
「……かな帰ろう…送るから」
「……恭介っ……でも、俺っ…お前にっ……」
「何も考えなくていいから…ほら、行こう」
恭ちゃんは要の身体を支えながら立ち上がる。俺は慌てて2人に駆け寄り、要の荷物を手早くまとめてから恭ちゃんに手渡した。
要は青白い顔のまま俯いていて、心配で声をかけようとしたけれど…目が合った恭ちゃんに首を振られてしまった。
「…暁人、かなのことは俺に任せて?」
「……恭ちゃん……」
「大丈夫…、あとで連絡するから」
「………うん」
恭ちゃんは財布からお金を出してテーブルに置くと、いつもの笑顔でお釣りはいらないからと呟いた。元々要からお金をもらうつもりはなかったからいらないと言ったけど、迷惑かけたからと頑として受け取ってくれなかった。
恭ちゃんのこういう律儀なところ、爽にちょっと似てる。この瞬間、タイプの違う2人が仲良い理由を…少しだけ垣間見たような気がした。
それから、
恭ちゃんと要がお店から出たタイミングで、楓さんが焦って飛んできたので経緯だけ説明しておいた。
もちろん、周りのお客様にも謝罪済み。近くに座ってたのがたまたま常連さんでよかった。うちの常連さんみんないい人で…すぐに助けられなくてごめんって逆に謝られちゃったくらい。
「そっか……それでかなちゃんあんなに顔色悪かったんだ………」
「うん………」
「あきちゃんごめんね、俺店長なのに全然気付かなくて……怪我とか無い?」
「そんな…!楓さんは接客中だったし…それに、怪我どころか…結局俺も何にも出来なかったから……全部、要と一緒に出て行った彼のおかげで…」
本当に、俺は何にもしてない。
何にも出来なかった。
全部、恭ちゃんのおかげ。
情けないな………、俺、要の親友なのに。
「……さっきの人って…かなちゃんの……?」
「あー……えっと、友達っていうか……その、大切な……人…」
「へぇ…そうなんだ…!…お店出る時、俺にも丁寧に挨拶してくれたよ」
「……そっか」
「……あきちゃんの周りには素敵な人がたくさんいるんだね」
「……」
俺の周りっていうか……爽の周りなんだけどね。
友達を褒められるのは嬉しいけど、役に立たない自分に対しての自己嫌悪は募る。
要……
大丈夫かな……
「あきちゃん……お仕事続けられそう?」
「……え?」
「だって、すごく不安そうな顔してるから…」
「大丈夫…!確かに不安だけど、でも…恭ちゃんは信じられる人だから…俺も、今はちゃんと仕事します!」
「そっか……良かった……じゃあ、テーブルの片付け頼んでいい?」
「はい!」
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