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シルクハニーの死にたい理由【前編】2
俺たちが初めて会ったのは、共通の友達に急に呼び出されて悩み相談を受けた日だった。かなはその友達…日下部 暁人(くさかべ あきと)の親友としてその場に同席していて、対面した瞬間……もうこの人以上に愛せるものなんてこの世にないと悟った。
冗談抜きで、モノクロだった世界が一気に色付いたように思えたんだ。そのくらいの衝撃だった。
綺麗で、凛としていて、強いのにどこか儚い。シルクみたいに艶々なミルクティーベージュの髪が揺れて、その隙間からセクシーな瞳がこちらを覗いていた。およそ人間とは思えない異次元のビジュアルなのに、その器に収まった心はビクビクと震えて他人を拒絶している。
一目で悟った。"俺と同じ側の人間"だと。
初対面だとか、性別だとか、色んなものを一気にすっ飛ばして………気付いた時には求婚してた。
たぶん、本能で"この人だ"と感じたんだ。
俺は死ぬまで、この人のそばにいたいと。
その日からほぼ毎日家に押しかけて、無理矢理時間を共にしている。
個人的には、すでに友達以上恋人未満ぐらいだと思ってるんだけど……かなにとってはどうなんだろう………
本気で拒絶されてないってことは期待してもいいってことだよね…?
………そろそろ、本気で俺の手に落ちてくれる気……かなにはあるかな……?
どうしたら、かなは俺の気持ちに本気で返事をしてくれるだろうか………
そう、何度も何度も考えた。
だって、今まで何度も繰り返し愛を伝えてきたんだ。
出会ってまだ日は浅いけど、俺がかなに交際を申し込んだ回数は10回や20回じゃない。好きだとか、付き合ってくれだとか、結婚して欲しいだとか……他にもたくさん、思いつく限りの語彙を駆使して、全力のアプローチをしてきたつもりだ。
だけど、いつもうまく切り抜けられる。
というか、冗談みたいにバッサリ切られてそれで終わり。
俺もかなとふざけて言い合うのが嫌いじゃないから、かなからノリよく突っ込まれればそれに乗っかってふざけ返してた。だって、かなはそれを望んでたから。
でもこのままじゃ、俺たちの関係は一向に進展しないし……かなが良くても俺は今のままなんて嫌だ。
俺にとってかなは……人生で唯一、この人のために生きたいと思えた相手だ。
そんな相手の近くにいて、毎日顔を見ているのに、その人が自分のものじゃないなんて………
俺には耐えられない。無理だ。
真っ白で華奢な身体を優しく抱きしめたい。艶々の唇にキスをして、どんな時もかなが不安にならないように安心させてあげたい。過去に囚われている彼に、俺がいればもう何も恐れる事はないと教えてあげたい。
一度でいいから……あの、シルクみたいな美しい髪に手を差し込んで……ゆっくりと梳いてみたい………
俺は…………かなに触る、権利が欲しい。
……ならば、現状を打破する方法は一つ。
かなが俺の告白への返事を、絶対にせざるを得ない状況を作り出せばいい。
そんなわけで、俺は一世一代の大勝負に出る決意をした。
結城 要を、ディナーに誘う!!!!!
「あーー……やっばい……めっちゃ眠い……」
「かな!寝るのはいいけど頼むからなんか食べてよ!ただでさえほっそいのにこれ以上痩せたら俺許さないよ!」
「なんだよお前………俺のかーちゃんかよ……」
「いえ、ダーリン希望ですっ!」
「……俺は絶望だよ」
「ブハッ!!」
うまいこと韻を踏み返されて爆笑していると、かなはおもむろに立ち上がりソファにダイブした。
目を擦りながら大きなあくびをする。長いまつ毛が美しい。なんて綺麗なんだ。こんな綺麗な生き物が地球上に存在するなんて……
出会わせてくれた神様、仏様、暁人様……心の底からありがとう……!!!
「で、結局……何が食べたいの?」
「…………んー………」
「なになに?決まってるんでしょ?ほら言って!」
「……………ほ……、」
「……ほ?」
「……ホットケーキ……」
「…ぶはっ!!!!ほんと好きだな甘いもの!!!!」
「うるせぇ……!正直に答えたんだから作れよっ……」
「ハイハイ……!あ…でも、形崩れちゃったらごめんね?」
「………んー………胃に入れば……同じ」
「あはははっ!!すげー気楽になったわ!」
立ち上がってキッチンに向かおうとすると、ワイシャツをキュッと握られて一瞬動きが止まる。振り返ると半分寝ぼけたかながこっちを見ていた。
「……どした?出来上がるまでは寝てていいよ?」
「…………きょ、すけ………」
「ん?」
「………ありがと……」
そう呟くと、かなの口元からはすぐに寝息が聞こえてきた。
はぁああああああーーーーーっ………
…………全く、なんてかわいい人だ。
かなを口の悪さだけで敬遠してる奴らはマジで損してるんだよなぁ…。本当はとても優しい子なのに。
かなは自分がどんなにしんどい時だって、決して相手への感謝を忘れない。いつだって自分より周りの気持ちを大切にしてる。
きっと、かなの本当の姿を知ったらどんな奴だって落ちてしまうんだろうな………
絶賛片想い中の俺からしたら……知られたくないけど、知って欲しい。
俺の一番好きな人の、一番かわいい瞬間を。
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