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例えば及ばぬ恋として【旅行編】7
ふと外を見ると、いつの間にか高速道路の入り口だ。車がゆっくりとETCのレーンに入っていく。
「ねぇ、爽……今日泊まるとこ……ここから2時間くらいなんだよね?」
「うん、そうだよ」
「……それって……札幌?小樽?それとも……旭川?」
「全部ハズレ」
「えー?…そろそろ行き先くらい教えてくれないの?」
「教えても……たぶんあきわかんないよ?」
「え、そうなの?」
「うん」
つまり、あんまり有名な地名じゃないってことかな…?
爽はニコニコとご機嫌な雰囲気を漂わせながらハンドルを握る。俺はその姿を、横目でチラリと盗み見る。
相変わらず、運転してる爽は抜群にかっこいい。
大人の男の人ってズルイよね?自分が出来ないことを出来るってだけで、まだ子供の俺からしたらめちゃくちゃかっこよく見えちゃうんだから。
「なぁあき、そろそろお腹すいてんじゃない?」
「えっ?」
「お前飛行機の中でも寝てて何も食べてなかったし…さっき買ったチョコ食べる?車酔い対策にもなるし」
「あ…うんっ!」
運転しながら俺のお腹の具合まで把握してるなんて……さすが爽。俺こう見えてめちゃくちゃ食べるから、爽は普段から俺がお腹空いてないかマメに確認してくれるの。優しすぎるよね。
先程爽が買ってくれたチョコの紙袋を開いて、お気に入りの一品を手に取る。それをジッと見つめて、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「………うぅっ…クマさん…!やっぱり一番かわいい…!」
「ふっ……お前、それ今から食うんだろ?そんな愛でてたら食いにくくねぇ?」
「……ハッ…言われてみたらそうかも…!どうしよ!食べちゃうの可哀想!!!」
「ブハッ!!!!」
「ねぇ爽どうしよ!!!食べない方がいい!?」
「いや食べろよ!!」
「だって…!」
「あはははっ!!はーっマジでお前といると飽きねーっ」
爽は心底楽しそうに笑う。
ねぇ、爽……俺だってそうだよ?
爽の隣にいるだけで楽しくて、幸せで、ぜんっぜん飽きる気がしない。
だから余計に思う。
大好きな人と2人っきりでこんな遠出が出来るの…めちゃくちゃ嬉しい。お互い仕事と学校でそれぞれ忙しいから、次はいつ旅行出来るかわからないしね。
なら、今日という日を死ぬまで忘れられない日にしなきゃ。
もっともっと、この一瞬を大切にしなきゃ。
「………爽、」
「ん?」
「俺のこと……連れ出してくれてありがとね?」
「………あき?どした?」
「ごめん、いきなり……でも、言いたくなったから」
「………ん、そっか」
「………あのね」
「?」
「俺、爽に好きになってもらって…幸せだよ」
俺はそう呟くと、クマさんを口にギュッと押し込む。
それを横目で見た爽は、"俺も"と一言呟いた。
それから2時間、たっぷり爽とのイチャイチャドライブを楽しんだ。お互いの好きな曲をたくさんかけて、たくさん色んな話をした。
爽とドライブは何度かしたことあるけど、都心とは違って道路も広いし…景色がめちゃくちゃいい。そうなると、おのずと気分も上がっていった。
自他ともに認める大食いの俺は、爽が買ってくれたチョコレートのほとんどを完食してしまって…さすがにそれには爽も驚いたようだった。引かれてはいなかったけど、結構笑われた。
だって、今まで食べたチョコの中で…いっちばん美味しかったんだもん。
高速道路を降りた後も結構走ったけど、周りは見事に自然でいっぱい。爽の言っていた通りすでにうっすら紅葉も始まっていて、色鮮やかな木々の中を車で走り抜けるのは最高の気分だった。俺的には、これぞ北海道!って景色をたくさん見られて大満足。
……そう思っていたけど、なんだか周りにある建物が少しずつ変わってきた。
なんていうか、どんどんお洒落になっていく。
「………ねぇ、爽……」
「……んー?」
「あの………なんか急に、かっこいい建物ばっかりになってない…?さっきまでずっと木ばっかりだったのに……」
「うん……もうすぐ着くよ」
俺は窓の外を眺めながらひたすら口を開けてポカンとしていた。
北海道に旅行……って言うから、俺はてっきり田舎のふるーい温泉とかでゆったり過ごすんだろうなと思っていた。それが、こんな町中全体がお洒落で活気があるなんて予想もしていなかった。
「ここ、ウィンタースポーツで有名な町なんだ」
「ウィンタースポーツ……っていうと…スキーとか…スノボとか?」
「そうそう、北海道の雪って特殊でさ…サラサラでウィンタースポーツにはうってつけだから海外からめちゃくちゃ観光客が来るんだよ…それで、ここら辺の土地一帯を日本だけじゃなく外資の企業が買収しまくってるって訳」
「ああそっか…!だからこんなお洒落なんだ…!建物の作りが明らかに海外のセンスだもんね…!全然日本っぽくない!」
「正解!やっぱりあきは頭の回転早いね」
爽の言葉でやっと納得した。
お洒落でモダンな新しい建物ばかりだし、見るからに高級なホテルや旅館だらけ。海外の建築家が関わっていることは、素人の俺が見ても一目瞭然。ここだけ見たら、一見日本には見えないかも。もちろん日本の作りっぽいお宿もあるけど、それはそれで高級感がエグい。
「ウィンタースポーツはシーズンオフだけど、夏は夏でラフティングとか楽しめるみたいで観光地としてどんどん有名になってきてるらしいよ」
「へぇ~……さっすが爽……!選ぶ町まで完璧なんだね……!」
「…惚れ直した?」
「………不覚にも」
「ぶはっ」
吹き出した爽に釣られて、俺も一緒に笑う。
嬉しいなぁ………
だって、俺が北海道に行きたいって言ったその日から…ずっと色々調べてくれてたの見てたから。
「ちなみに、うちのグループでもいくつか所有してるよ」
「……樋口家で?」
「うん、父さんの会社…ホテル経営とかもやってるから」
「ふぉー………御曹司すっごぉ…別世界の話だぁ…」
「まぁ、俺が凄いわけじゃねーけどな?」
会話している間に、車はゆっくりと駐車場に入る。
が、
目の前の建物を見て、俺は心底驚いた。
この町の中だけじゃない……俺がこれまでに見たどんな旅館より立派なお宿だ。外壁はシックな黒。周りは木々に囲まれていて、静寂にして荘厳な雰囲気だ。
一目で、めちゃくちゃ高級だとわかる。
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