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キスする前に出来ること【真相編】4
「楓さんって……ほんと母性の塊だよな……」
「え!?そう!?」
「うん……俺のおふくろもこんな人だったら良かったのにって…思っちゃった……」
「え~?俺まだ28だよ!?君の彼氏と同学年!嬉しいけどさぁ!」
「ふっ…!嬉しいんだ…」
「嬉しいよぉ!こんな美人な子のお母さんとか…俺スッゲー自慢しちゃう!みんなうちの要を見なさーいっ!目の保養でしょ~って!」
「ぶはっ…!なんだそれ!」
2人してひとしきり笑い合った後、楓さんは俺を抱きしめる腕にさらに力を込めた。
少々息苦しくて、チラッと顔を見ると…遠いところを見つめた楓さんがそっと呟いた。
「……それにね、かなちゃん……」
「……ん?」
「トラウマもね……いつか、克服できる時が絶対くるから……大丈夫だよ?」
「………なんで、…わかんの…?」
「……だって……俺も、似たようなもんから」
ようやくこちらを見た楓さんの瞳は、どんよりと暗く濁っていて…とてもじゃないが、詳しくなんて聞けなかった。
だけど、俺と同じように壮絶な体験をしてきていることだけはわかって…楓さんといるときに感じていた謎の安らぎの理由はここにもあったかと……妙に納得した。
そっか……楓さんも……、
「まぁ、とにかく……次和倉くんに会ったらちゃんと真実を聞くこと!」
「……ん、わかった……アイツが来なかったとしても……明日、俺から絶対会いにいく……」
「…わぁ偉い!あ、ちょうどいいからついでに言っといて!」
「……え、なにを?」
「こーんな身も心も綺麗な恋人不安にさせてたら…俺が掻っ攫っちゃうよって!」
「は…?」
「俺なら、かなちゃんを泣かせたりしない」
さらにグッと身体を近付けた楓さんは、ものすごく真面目な顔で俺を見た。しかも、一歩間違えばキスできそうなくらいの…近距離で。
さっきまで母性を全開に出していた楓さんが、一瞬で男に見えた。楓さんが漆黒の滑らかなロングヘアを耳にかけた瞬間、俺の手にパラパラと毛先が当たる。それがなんだか妙に、色っぽい。
「………………楓さん……」
「……なぁに?」
「………予想外に男らしい口説きっぷりにキュンとしたんで責任取ってほしいんだけど……」
「…おーっ…とぉ…?…その反応は…冗談だってバレバレ……?」
「このタイミングでガチ口説きしてたらただのサイコパスだろ」
「…ブハッ!!!!あはははっやっぱかなちゃんは騙されないよなぁ~!!!口説かれ慣れすぎ!!!くっそー…あきちゃんは信じて真っ赤になってくれたんだけどなぁ…!」
「暁人にもやってんのかよ」
「ふふっ…まぁ、似たような感じでね?」
ケラケラと楽しそうに笑い出した楓さんに呆れてため息をつく。
でもこれはきっと…楓さんなりに俺を励ましてくれてるんだと思う。現に、ちょっと元気出た。
「俺はいいけど……暁人にそんなんしてたら楓さんいつか爽に殺されんじゃね…?」
「えー?じゃあ樋口には内緒にしといてよ?俺、あきちゃんもかなちゃんもかわいくてかわいくて堪んないんだもーん…ちょっとくらいイジらせて!独り占め、ダメ、ゼッタイ!かわいい子の独占禁止法施行して!」
「………それ、俺に権限あんの?」
「あるよー?樋口も和倉くんも、あきちゃんだって……だーれもかなちゃんには逆らえないもんねぇ~」
「なんだそれ…俺は神か?仏か?」
「んー……あ、女王様!!かなちゃんは女王様だよね!」
めちゃくちゃしっくりきた!と叫んだ楓さんの表情が、なんだか無性に笑えてしまった。
大人だと思ったら、結構子供じゃん。楓さんも。こんなギャップ…ますます好きになっちゃうじゃねーか。ちくしょう。
……そういえば、恭介に初めて会った時も言われたっけ。
"理想の女王様についに出会った"って。
お前は俺に、"女王様"を求めてたんだよな…?
でもごめん……ほんとは…俺、こんなに臆病なんだよ……恭介。もっと、本物の女王様みたいに…恋にも傲慢になれたら、よかったのに。
「あ!かなちゃんかなちゃん!」
「…ん?」
「クイズ!!!ででんっ!!!今日は何月何日でしょ~!!」
「……え、12月……23?」
「せいかーいっ!クリスマスイブ前日!クリスマスイブイブ~!!!!」
「……?だから?」
楓さんは俺から離れると、カウンターの中から紙を1枚取り出して俺に手渡す。
手書きのかわいらしいチラシには、美しいデコレーションのクリスマスケーキの写真が載っている。ブッシュ・ド・ノエルだ。めちゃくちゃおいしそう。
そういえば…暁人が前に言っていた。クリスマスイブと当日は、予約制でクリスマスケーキを販売をするって。楓さんのケーキ、お世辞抜きにめちゃくちゃうまいからなぁ……
「クリスマス当日、美味しいケーキ作っとくから…お店きてね?」
「え!マジで…?」
「うん!…和倉くんとどうなったとしても、俺もあきちゃんも旭くんも…絶対ここでかなちゃんのこと待ってるから」
ニコッと花が開いたみたいに笑った楓さんに、俺も小さく笑い返した。ストレートな優しさが嬉しい。
明日どういう結果になったって、俺には…帰ってくる場所がある。そう思えるだけで、恭介と向き合う勇気をもらえた気がした。
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