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キスする前に出来ること【真相編】3
「…はい!でーきたっ!」
「…!これ……ロゼ?」
「うんっ!普段は赤ワインで作るんだけど…ロゼで作るホットワインも美味しいよぉ~フレッシュで」
「へぇ……初めて飲む」
淡いピンクの液体の中には、レモンとリンゴとイチゴのスライスが浮かんでいる。ドライフルーツかな。甘酸っぱくて、優しい香り。
「…ん!うっま…!甘くて美味しいっ…!」
「ふふふっ…でしょ~?はちみつたっぷり入れといた!かなちゃん好きでしょ?」
「……え、俺…はちみつ好きって楓さんに言ったっけ?」
「ううん、和倉くんがね…前、教えてくれたの」
「………」
予想外の返答に、ピシッと固まる。
今、恭介の名前が出てくるとは…思ってなかった。
「和倉くんね……ほんとたまーにうちに寄ってくれてたんだけど、俺にもあきちゃんにもいっつもかなちゃんの話ばっかりするんだよ?」
「…っ」
「かなちゃんのことが大好きで大好きで堪らないんだって……今の和倉くんにはかなちゃんが全てなんだってさ」
「…………」
なんだよ、それ………
じゃあ、なんで…………
ホットワインが入った、耐熱のガラスコップを震えるほど強く握り締める。心がザワザワして落ち着かない。
もう、何を信じればいいのか…わからない。
「………かなちゃんあのね…」
「……な、…に…?」
「実はね、あきちゃんに頼まれたの」
「え…」
「"要の話を聞いてあげてほしい"って……」
「………は……?なにそれ……」
「かなちゃん、今すごく悩んで苦しんでるでしょ…?しかもそれを、誰にも言ってない……あきちゃんにすら」
………バレて、たのか…?
1週間前、暁人と旭に恭介の様子がおかしい事だけは相談していたけど……その後、浮気現場を見たことは誰にも言えずにいた。
本当は………誰かに吐き出したかった。
……でも、俺はそうしなかった。
自分の彼氏が自分以外と寝てるかもしれないなんて、口にするのも悍ましかったし……
暁人がそれを知った日には、アイツがどれだけ悲しむかなんて…想像に難くなかった。
だけどなにより……俺自身、恭介の浮気を信じたくなかったんだと思う。言葉にしてしまったら、自分の中でそれを認めたことになってしまいそうで……怖くて出来なかった。
だから俺は、全てを1人で抱え込もうとして……結果、眠れなくなったんだ。
でも、そっか……そりゃ、バレるよなぁ……
暁人は本当に、俺のことをよくわかってる。
「あきちゃんにね、"楓さんには要も懐いてるし、年上で相談しやすいだろうから"って言われたの」
「………」
「それにほら、かなちゃん相当なワイン好きでしょ?だから、ワイン飲んでリラックスしてる時なら話しやすいんじゃないかって思ったみたいだよ?…あきちゃん、まだかなちゃんと一緒にお酒飲めないこと…ものすごく悔しいんだって……」
「………」
「あきちゃんは、かなちゃんのこと本当に大切みたい…素敵な関係だね?」
楓さんの優しい声で紡がれていく親友からの想いに、心が抉られるような感覚がした。同時に息が苦しくなる。
気が付いた時にはボタボタと大粒の涙が目からこぼれ落ちていて、何粒かが握り締めていたピンクの液体に溶けていった。
ごめんな、暁人……
こんな…しょうもない意気地なしの背中押してくれて、ありがとう……
話せば、少しは楽に……なれるかな…?
それから何時間もかけて…俺は楓さんに全てを語った。本当に全て。
幼少期からの家族への気持ちや、トラウマの事件の話、恭介と付き合った経緯や、今回の浮気事件の全貌まで…あらゆることを言葉にした。
楓さんは号泣する俺の隣に腰掛けて、ハンカチで一生懸命俺の涙を拭ってくれた。
「………かなちゃん……」
「……っぐすっ……な、に……」
「和倉くんにちゃんと真相確かめなきゃダメ」
「………」
「怖いのはわかるけど……あっちに隠し事があるのは紛れもない事実なんだから、ちゃんと口に出して話さなきゃ解決しないよ?」
「……でも、」
楓さんの言うことは正論だ。自分でもわかってる。
だけど、もし本人に聞いて…浮気が事実だったら…?別れたいって言われたら…?
俺、無理だよ。
本当は………
そんなに、強くない。
「でももクソもない……もしそれで本当に浮気してたなら……かなちゃんが許しても、俺が許さないしね」
「……え」
「俺が責任持って……和倉くんの生殖器切り落としてあげるから安心して」
「……せっ…!?か、楓さんっ!?」
「…なに?」
「そんな、キャラだっけ……?俺よりすげーこと言うじゃんっ……」
「ふふふっ……俺ねぇ…顔に出ないってよく言われるんだよねぇ……でも、今すっごく怒ってるの」
楓さんはいつもと寸分違わぬ優しい笑顔だ。それが、逆にすっげー怖い。ポーカーフェイスもここまで来ると恐怖だな。
「かなちゃんのことこんなボロボロにして…許せないって気持ちが今メラメラと燃え上がってる」
「……楓さん…」
「でもね……」
「…えっ?」
横からギュッと優しく抱きしめられて、驚いて固まってしまった。暁人に抱きしめられた時とはちょっと違う……力強い抱擁だ。楓さん…意外に力が強い。
「………大丈夫だよ……、和倉くんは本当にかなちゃんのこと好きだから……その気持ちは絶対嘘じゃない」
「………」
「俺……人を見る目には自信あるから…信じて?」
ニコッと俺に笑いかけた楓さんは、なんだかめちゃくちゃ神々しくて…一瞬後光でも差してるんじゃないかと思った。
……あったかい。
マジ俺の心のマザーテレサ。ノーベル平和賞あげたい。
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