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キスする前に出来ること【解決編】3

「……やば…なんか、変にドキドキしてきた」 俺の家の近くの有料駐車場に車を停めたかなは、ハンドルに突っ伏して動きを止めた。さっきまでは余裕綽々って表情だったのに、着いた途端焦りだしたようだ。 いかにも高そうな真っ黒のロングコートを着たかなは、今日も嘘みたいにきまっている。 何着たって似合っちゃうんだもんなぁ…。なんだか改めて自分の恋人の容姿の良さを思い知らされた気がする。時々、自分が隣に並ぶことすらおこがましいと感じてしまう。 「……別に、そんな無理して会わなくていいんだよ?いくら伊吹の見た目が男っぽくても女な事には変わりないわけだし…」 「違うっ無理してるわけじゃない…!!そもそも、今日は俺が行くって言いだしたんだぞ?ただ…恋人の親族に会うって…初めてだし……」 「……!じゃあ、女の子ってことは…あんまり関係ない?」 「いや、それも多少は関係あるけど…」 まぁ、伊吹は"女の子"なんてかわいいもんじゃないけど。それでも、かなにとっては女ってだけで天敵だろう。それなのに俺の妹というだけで会ってくれようとしてること自体……感動してしまいそうなくらい嬉しい。 だから、もし今会うのを躊躇ったとしても俺は全然構わない。 いや、むしろ……俺にとってはその方が都合がいい部分すらある。 「……やっぱ帰る?」 「いや、絶対会う」 「だーよねー?」 俺は助手席のヘッドレストに頭をベッタリとつけて天を仰ぐ。 かなと付き合って3ヶ月ちょっと……、今までだって何度か妹の話になったことはあったけどここまで会うことに必死になられたのは初めてだ。 ここだけの話……かなが女性を苦手としていることは2人を会わせない理由の一端ではあったけれど、実は俺にとってはもっと重大な懸念があった。 そう……伊吹のあの手の早さだ。 昨日かなには妹の口の上手さと面食いっぷりをしっかり伝えておいたけど、きっとアイツの言動はかなの想像を余裕で超えてくるだろう。今から恐ろしい。 俺だって数ヶ月前までは曲がりなりにもチャラ男で通っていたが、俺なんて比じゃない。アイツは天性の人タラシだ。 お互い違う意味で意を決して車を降りた後、かなと2人ゆったりした足取りのまま歩き始める。 普段なら決して許してくれないだろうけど、今日なら許されるんじゃないか…そう思ってそっと手を差し出すとあっさりと握り返してくれた。初めて外で手を繋いでくれたなーと感動に浸りたいのはやまやまだが、今の状況がそれを許してくれない。 かなの緊張がその冷たい手のひらから痛いほど伝わってきて、抱きしめて甘く優しい言葉責めをしたくてたまらなくなった。早いとここの人をデロンデロンに甘やかしたい。 …そんなことを考えている間に、とうとう自宅の扉の前まで来てしまった。 毎日帰ってきている自分の家なのに、俺まで変にドキドキしてしまう。 かなの住むセキュリティー万全の家賃激高マンションに比べたらかなりランクは落ちるけど、それでも俺の中ではそこそこ気に入っている。なんせこれまでに住んできた家が家だったし……それに、住めば都って言うしな?結局は平和に暮らせりゃどこだっていいのかも。 伊吹にはつい先程電話で、"恋人を連れて帰る"とだけ伝えておいた。クリスマスだし、どうせアイツは出かけるんだろうけどまだ家にいてくれて良かった。 さて、どうなるかな…… 「……インターホン…押すよ?」 「……ん、」 「かな……」 「…ん?」 「見た目は置いといて伊吹は生物学的には女だし…怯えるのは全然いいんだけど……、頼むから……その、…」 「?」 「靡かないでね?」 「…………は?」 かなはわけがわからんという顔で俺を見つめる。その姿を見て、俺は大きなため息をついた。 ……まぁ、会えばわかることだ。 グッと指に力を込めボタンを押すと、ピンポーン…と家の中から音が響く。 次の瞬間、 ガチャッ!と音がして扉が開いた。どうやら伊吹も俺たちを待ち構えていたようだ。 「兄貴!恋人連れてくるならもうちょい早くれんら…………」 「あー…ごめんごめん…えっと…伊吹………ただいま…」 目をまん丸に開いた伊吹は、かなを一目見て動かなくなる。少々長めの沈黙に、かなは少しだけ俯いた。全身をじろじろ見られすぎて気まずくなったんだろう。伊吹にはもう少し遠慮というものを覚えて欲しい。 が、伊吹はすぐにパッと花が咲いたように笑顔になった。というか…なんか興奮してる。 この反応は…もしかしなくても…… 「………この人が……"かな"……!!!?」 「……伊吹……かなはお前より年上だぞ……?そもそも兄の恋人を呼び捨てにしないの…!」 「嘘でしょ……!!!?とんでもなく綺麗じゃん!!!!?えっ、なんで……!?なんで兄貴がこんな美人と付き合ってんの!!!?おかしくない!!!?自然の摂理に反してない!!!!?」 「……はぁ、予想通りすぎる反応だなぁ…」 「ちょっとマジっ!!!?モデル!!?芸能人!!!?絶対一般人じゃないよね!!?兄貴の恋人がこんな綺麗な人だなんて…私一言も聞いてないんだけど!!!!」 「こうなると思ったからあえて言わなかったんだよ!!」 いきなりマシンガントークを繰り広げる俺たちに、かなは案の定固まったまま動かない。ビックリしたっていうのも多少あるだろうけど……やはり女の子は苦手らしい。

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