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キスする前に出来ること【解決編】6

「……よし、じゃあ……本題な」 俺が目を泳がせている間に、かなは大きく深呼吸して話し始めた。 一体…何が目的なんだろう。 「俺…恭介からお前らが親と揉めた話全部聞いたんだけど、」 「え………え!!?兄貴……アイツらのことかなちゃんに話したの!!?」 「……あー…えっと、それは……色々あって……本当は俺も言うつもりなかったんだけど……」 「なんでっ……?なんでわざわざ家族の問題にかなちゃんを巻き込むんだよ!!!!?」 伊吹の言うことはごもっともだ。 俺だって本当は巻き込みたくなかったし、あんな最低な親のクソみたいな話…かなに聞かせたくなかったよ。 だけど、話の成り行き上言わざるを得なかったし……それに今は、話して良かったと思ってる。 だってかなは、俺が思っていたよりずっとずっと懐が深いんだ。俺のそういう真っ黒な感情を、全部を受け止めて余りあるほど。 「伊吹……、俺が無理矢理恭介に言わせたんだ……だから、コイツを責めるのはお門違い……文句なら俺に言え」 「文句っていうか……、そうじゃなくてっ……だって、かなちゃん……ほんとにいい人だから……あんなヤツらに関わってほしくないんだもん…」 伊吹は口元に手を当てて、不安そうに俯く。 俺がいない間2人で何を話したのかは知らないけれど、伊吹はすでにかなに対して相当御執心みたいだし……きっと俺と同じことを思っているんだろう…… こんな身も心も美しい人と、あんなクズな親を……間違っても交わらせたくないと。 「なぁ、2人とも……聞いて?」 かなの凛とした声に、俯いていた伊吹も顔を上げる。ふわっと優しく笑うかなの顔はとてもスッキリして見えた。 それは、俺がかなに出会って初めて見る…覚悟を決めた男の顔だった。 「俺、お前らを助けるために…今日ここに来たんだ」 「「……は?」」 「お前らが今抱えてる不安も、苦しみも……俺に一緒に背負わせてくんねぇ?」 なんだよ…それ… 俺がそう口に出す前に、かなは続けて話す。 「今からここに、お前らの親を呼ぼう」 「「はぁ!!!?」」 「ケリ……つけよう」 それから話し合うこと数分… 俺と伊吹の反撃なんてものともせず、かなは決して折れてはくれなかった。 どれだけ、"これは俺たち家族の問題だからかなが介入する必要なんてないんだ"と説得しても"絶対会う"と言って譲らない。意志が強いのはかなの長所だけど、今回は少々頑固すぎる。 もうどう頑張っても親を呼ぶまで許してくれないかもしれない…と妹と2人頭を抱えた。そんな俺たちを尻目に、かなは俺の携帯を奪い取り母親に電話を掛け…どう言いくるめたのか本当にこの部屋で会う約束を取り付けてしまった。 それをただただ呆然と見つめる。 どうやら来るのは母だけのようだ。昔からこういう時の父はいつも我関せずで寝ていることが多かったし、この前も母が単独で押しかけてきたから大方今日もそうなのだろう。 …え? なんでかなを本気で止めなかったのかって…? オイオイ皆さんちょっと忘れてませんか?この人結城 要ですよ?このビジュアルで平然と大男をワンパンで沈める腕力持ってますからね…?俺と伊吹にこの人を止められるポテンシャルなんてあるわけないじゃん!!!! そうじゃなくったって俺はこの人に心底骨抜きなんだ。俺にとってかなに逆らう事はもはや……、神への冒涜に等しい。 「よし…じゃあ俺、ちょっと行くとこあるから2人はここで待ってて」 「「は!?」」 俺たちの反応を見てニヤッとしたかなは、『返す』と一言呟いてヒョイっと俺に向けて携帯を放った。俺はそれをなんとか上手いことキャッチする。かなり、ギリギリで。 その様子を見たかなからバチンとセクシーなウインクが返ってきて、不覚にもキュンとさせられた。たぶん、お褒めのウインク…? 全くこの人はほんっと無駄にセクシーを振りまくんだからっ…!!そもそも俺の反射神経過信しすぎでしょ…!いつか絶対落とすぞこんなの…! 「今から1時間で戻る…たぶんその頃にはお前らの母親も来るはずだから」 「いやちょっと待ってよかな!!!ほんとにあの人に会うつもりなの!!?俺嫌だよっ!!会ってほしくないっ!!!かなはあの人がどれほど最低な人間か全然わかってな…」 「ストップ」 「……え」 「大丈夫だよ…恭介……」 かなはスッと立ち上がると座っている俺の頭を優しく抱きしめた。 妹の前でのまさかの行動にわかりやすく狼狽えていると、かなのクスクス笑った声が頭上から聞こえる。向かいに座っている伊吹は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で俺とかなを眺めていた。 「かな……?あ、あのっ…!も…、ものすごく嬉しいけど…その…伊吹が見てるよ…?」 「…知ってるけど?」 「は…えっ、ええっ!?!?」 「あははっ…!お前動揺しすぎ…」 「こんなのっ、動揺するなって方が無理でしょ…!!」 超がつくツンデレの恋人が、人前でこんな大胆な行動に出るなんて予想外もいいとこだ。 絶対……なんかおかしい。 かな…いつもと違う。 「…恭介……」 「……え、な…に…?」 「俺はお前に…俺のこと好きになって良かったって…思ってほしいんだ」 「……は……」 「お前はゲイなわけじゃないから、女も選べたろ?100%同性しか無理な俺とは違う」 押し付けられたかなの心臓は、驚くほど穏やかに鼓動を刻んでいる。 この角度じゃ見えないけれど、きっと聖母みたいに優しい顔をしているに違いない。現に、かなの顔を見つめている伊吹はポーッと見惚れているんだから…間違いない。 「……それでもお前は…男の俺を選んでくれた」 「……か、な…?」 「だから俺は……男として、お前とお前の大切な人を守るよ」 「……」 「俺を好きになったこと、絶対お前に後悔させない」 最後にポンっと俺の頭を一撫でして、かなは颯爽と家を出て行った。

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