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バイプレイヤーズロマンス【前編】10

「………うん!食べたい!キャラメル味!」 「あははっ、そう言うと思ってました!僕もポップコーンはキャラメル派です!一番おっきいの買ってシェアして食べません?」 「わ!いいね!俺あのバケツみたいなのからバクバク食べるの大好き!」 「ですよね!?僕もです!…あ、知ってます?今、キャラメルコーティングがめちゃくちゃ濃いやつだけのも売ってるんですよ!」 「ええ!?なにそれ!?濃い…って、あの…食べてたらたまにあるキャラメルだらけのアタリ…みたいなやつ…?」 「そう!それです!!」 話しながらフードエリアまで歩いて行くと、旭くんは頭上の看板を指差す。 「ほら、あれです!」 「わ…!ほんとだ…!」 「普通のよりちょっと高いですけど、全部がアタリです!良くないですか?」 「めっちゃいい!!」 2人して興奮気味に列に並んで笑い合う。 ほのぼの、ふわふわ、幸せ。 色恋のこと全部抜きにして考えたとしても……俺やっぱり、旭くんといる時の空気感…好きだな。 「全部アタリなんて最高!旭くん天才っ!」 「あははっ!天才なのは僕じゃなくて、作ってくれてるスタッフさんですよ!」 「あ、そっか…!」 「ふふっ…、でもほんと、最高ですね」 「うんっ!幸せの…詰め合わせだね!」 俺がそう言った途端、旭くんは真顔になり…両手でバッと顔を隠してしまった。 …わ、この仕草…、あきちゃんそっくり!さすが血の繋がった実の兄弟! 映画館特有の薄暗い照明のせいでよくは見えないけど、これはおそらく…、 「……旭くん…もしかしなくても…照れてる…?」 「……と、言うか……爆撃を…、食らった…感じです……」 「爆撃……?」 「楓さんの笑顔の殺傷力を……少々失念してました」 「ええっ…?殺傷力って…」 「…つまり、死ぬほどかわいいってことです」 「……俺、アラサーなんだけど」 「それ関係あります?」 「あるでしょ…普通に」 「ふふっ、ないです……楓さんには」 ようやく手が顔から下に下がり、旭くんと目が合う。 言葉にされなくてもわかる、 恋する男の子の瞳。 樋口があきちゃんを見るときと…同じ目だ。 「お待たせいたしましたー!お次にお待ちの方こちらのレジからどうぞー!」 レジのお姉さんの声でハッと我に返る。 すぐに注文しようと前に出ようとすると、サッと旭くんに遮られた。 「大変お待たせいたしましたー!ご注文をどうぞー!」 「えっと、このキャラメルポップコーンをLサイズで…あと……楓さんは飲み物何がいいですか?」 「えっ、あ……じゃあ、アイスティー…」 「サイズはどうします?」 「S…にしようかな」 「了解です!アイスティーのSとコーラのMお願いします」 「かしこまりました!」 俺が何かを発するより先に旭くんは軽やかに注文を繰り出し、流れるようにお会計まで済ませる。 1秒の無駄もなく完璧に電子マネーを使いこなす後ろ姿に、やっぱり現代っ子だなぁと感心してしまう。いや俺だって電子マネーくらい使うけど、ここまで淀みなく行くかと聞かれれば、多分そうじゃない。 うーん…スマホネイティブ世代すっごい… 秒速で出来上がってきた商品たちを受け取り、劇場入り口に向かう。 「あ、ねぇ旭くん!俺お金…」 「あぁ、今日は僕が全部出すんで気にしないでください」 「ええっ!!?そんな…だめだよ!!!俺チケット代も出してないのに!っていうか俺旭くんより11個上なんだよ!?高校生に出してもらうわけには…」 「いいんです、僕が誘ってわざわざ来てもらってるんですし…」 「でもっ、」 「大丈夫です…僕、楓さんからちゃんとお給料貰ってるんで」 茶目っ気たっぷりにウインクされて、戦意喪失しかける。 …いやいやいやいや、なに絆されかけてんの俺?こんなの絶対ダメでしょ。 「いや、旭くん…やっぱり…」 「……あ!じゃあ…次は楓さんが出してください」 「…え?」 「次のデートは…楓さんが出してくれません?それなら、いいですよね?」 「………いい、けど……デートじゃな……あ、え…?ちょっと待ってそれって…」 「あはっ…やっぱバレます?」 俺が微妙な表情を向けると、いたずらっ子が笑い出す。 ……つまりコレって、知らぬ間に次のお出かけが確約されるって事だ。 なるほど…そっか。隣でケラケラ笑う旭くんに、かなちゃんのセリフが頭に浮かぶ。 "やっぱアイツ…すっげぇ策士" 戦国の世なら、この子は間違いなく優秀な軍師だな。 「全くもう…!アラサーをからかって遊ばない!」 「だからアラサー関係ないですって!」 「あー…じゃあ、こうしよう?」 「はい?」 「次のお店では俺に出させて?いい?」 「……えー……」 「えーじゃない!ちょっとくらい大人にカッコつけさせろ~っ!」 「…あははっ!はーい、すみませんっ」 「素直で良し!」 数秒後…顔を見合わせて、同時に吹き出す。 バイト中よりかなり砕けた表情だ。単純に、楽しい。 旭くんのこんな楽しそうな顔…初めて見たかもしれない。それを俺の隣でしてくれていることが、嬉しい。 気持ちに応えることが出来なくても、俺はこれからも…彼のそばにいたい。旭くんとずっと…友達でいたい。 でもそれは… ほんとにワガママだよね……?

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