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バイプレイヤーズロマンス【中編】1

僕の人生の主役はいつだってひとつ年上の兄だった。 あきちゃんは、可憐で愛くるしいみんなの天使。周りにいる誰もが彼に魅了され、愛さずにはいられない。ご多分に漏れず、僕も兄を心底愛していた。自分は兄を守るために生きているんだと、小さい頃からずっと信じて疑わなかった。 それがこの物語の脇役である、僕の役目。 だから…大切に大切に、お姫様のように扱って、汚い物から徹底的に遠ざけ続けた。僕は、穢れを知らない天使のように笑う兄が大好きだったんだ。大好きな兄の側で、本人の気付かないうちに害虫共を駆除し続ける事17年。どうやら僕の脇役人生も、終わりの時が来たようだ。 なぜなら、たった数ヶ月留学している間に…… 兄は運命の人と結ばれてしまったから。 『あのね、旭……』 「ん?なぁにあきちゃん」 『俺ね、今……爽と付き合ってるの……』 「ふふっ…!」 「!?…旭くん?どうしたの急に」 「ああ、すみません…!ちょっと嫌なシーンを思い出しちゃって…なんか無性に笑えてきちゃったんです」 「ええっ?それで笑ってたの?」 「はい…変ですかね?」 「うん、物凄く変……そういう時は普通、顰めっ面とかじゃない?」 「ああ……そっかそうですよね…?でも、なんでかな……多分、半分嬉しかったからかもしれないです」 「……?」 「気持ちに区切りがついた、瞬間だったから」 僕が笑うと、目の前の彼はますます不思議そうな顔をした。常々笑顔が素敵な人だと思ってはいたけれど、この顔もなかなかどうして可愛らしい。 「旭くんって…ほんと掴みどころないよね」 「そうですか?」 「うん…ここで働いてくれてもう…2ヶ月くらいになるけど、まだ全貌が掴めないもん…!Mr.ミステリアス!」 「楓さんは……そういう男、嫌いですか?」 「あははっ、ううん…!いいと思う!」 クスクス笑う彼の横顔を見つめながら、今日入荷したばかりの本たちを棚に収める。バイト先である本屋で過ごす開店前のこの時間が、今の僕にとっては至福のひととき。 ああ神様、 脇役としての僕は死んだので……そろそろ主役になってみてもいい頃だと思いませんか? 僕の目の前に立つこの童顔の美人は、このお店の店長である清水 楓さん。何を隠そうこの彼が、僕の新しい物語のヒロインみたいなんです。 楓さんと初めて会った日、実は僕…結構傷心中だったんだ。 あきちゃんと爽くんが結ばれることなんて、それこそ生まれる前から決まっていたし…2人を一番近くで見てきた僕にとって当然の結果だった。それでも…長い長い片想いが終わって、幸せいっぱいな2人を見届けて…僕はかなり燃え尽きてた。この先長い間…恋をする気にはなかなかならないんだろうなって…思うほど。 でも僕は、あっさりあなたを好きになってしまった。 シェイクスピア曰く、 "誠の恋をするものは、みな一目で恋をする。" 一目惚れなんてそんなあいまいで非科学的なもの……信じていなかったはずなのに、不思議だね。 きっと僕は、 あなたに恋するために生まれてきたんだ。 僕が楓さんに初めて会ったのは、バイトの面接の日。当時僕はまだオーストラリアに留学中で、一時帰国のタイミングでの出来事だったのを覚えている。 兄の恋人である爽くんの紹介で訪れた楓さんのお店は…想像していたよりずっと素敵で、ファンタジー映画にでも出てきそうな雰囲気。外観も内装もかなり凝っているのがわかるし、置いてあるものひとつひとつにストーリーを感じた。海外から買い付けたであろう、アンティーク調のレトロな家具や楽器。何気なく置かれた雑貨まで全てセンスがいいし、何より商品である本たちの趣味がいい。この古い印刷の香りだけでも、ずっとここにいる理由になってしまいそう。おまけに併設された小さなカフェでは最高のコーヒーがいただける。 誰にとっても、間違いなく至福の空間だ。 『はじめまして、日下部 旭です…今日は面接よろしくお願いします』 『店長の清水 楓です、こちらこそよろしくね!』 『はい!あの、これよければ…』 『え?なんだろ?』 『シュークリームです!お口に合えばいいんですが…』 『わぁ嬉しい!いいのー?』 事前にあきちゃんから店長さんがいかにかわいらしいかを聞かされてはいたけれど、会ってみてかなり驚いた。10個上だなんて信じられないくらいの童顔。かわいらしい笑顔とあたたかな空気感に、一目で心を奪われた。 極めつけは、その感性。 『ふふっ…"旭"…かぁ…』 『え…?』 『どなたが考えたお名前なんだろ…?』 『えーっと…父…ですかね?』 『そっかぁ……あ、ごめんね急に…素敵な名前だなって思っちゃって…』 『えっと…そうですか?別に珍しい名前では無いと…』 『ううん、そうじゃなくって…!だって…、"暁人"と"旭"でしょ?』 『え?』 その時楓さんに言われた言葉に、僕は冗談抜きで震えたんだ。 自分の名前の由来なんて改めて考えたこともなかった僕に…彼は弾けるような笑顔でこう言った。 『"暁人"は暁の人…つまり、夜明けで…"旭"は朝の日……兄弟揃うと…一日の始まりって感じがしない?俺…すっごく好き!』

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