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バイプレイヤーズロマンス【中編】3
2日後。
高3の2月ともなると、授業が午前で終わったり自由登校の日が増える。これから受験って人にとっても、進路が決まった人にとっても、休みが多いに越したことはないから当然と言えば当然だ。
かく言う僕も、兄や要くんと同じ大学への入学が推薦ですでに決まっているから今はバイトをかなり入れている。
今日は例のごとく自由登校日だけど、お店のオープン時間が遅い日だから残り少ない学校生活を少しでも楽しんでおこうとわざわざ登校して空き教室で本を読んでたんだけど…
正直、本の内容なんて…全然頭に入ってこない。
頭に浮かぶのは……大好きな人の、驚いた顔だけ。
「…………早まった……かな」
一昨日、閉店後に勢いで楓さんに告白してしまって…そのまま言い逃げした。昨日は定休日だったから告白してから会うのはこの後が初めてだ。
本当はこんなに早く言うつもりはなかった。
だけど、ルームシェアしようなんて言われて………黙っていられなかった。あの瞬間僕は…男としてあまりにも意識されていない現実に、心から絶望してしまったんだと思う。
それが僕を、早まらせた。
『つまり………僕、楓さんと…お付き合いしたいんですけど…それでも一緒に住んでくれますか?』
気が付いたら、そう口から出ていた。
きっとあの時好きだと伝えなければ…簡単に一緒に住めた。だってルームシェアの提案をしてきたのは他でもない楓さん自身だったのだから。だからあのまま黙っていれば……気持ちを伝えずにいれば……他の誰よりも彼の側にいられる権利を、無条件でもらえた。
でも、そんな不誠実なこと……出来るわけないじゃないか。
遊びじゃない。
本気で………好きなんだから。
そこでふと、廊下が騒がしいことに気が付いた。自由登校故に3年の教室の周りは普段の半分も人が居ないし、僕は自分の教室じゃなく隣の空き教室で1人本を読んでいたから…その喧騒の理由に全く見当がつかない。
なんだろう…この声……
女の子の……キャアキャア言う……あ、そうだ……例えるなら……イケメンアイドルのコンサートみたいな…?
ガラッ!!
突然開いた扉に驚いて固まっていると、思いもよらない人物の登場に息が止まりかけた。
「あ!!!やっと見つけたーーー!!!やっほーそこの色男~!私とお話しなーいっ!?」
「………」
「……って、あれ…?聞こえてる?」
「………」
「旭ー!シカトー?」
「………はぁ、聞こえてるよ……伊吹」
なんで、ここにいるんだよ……
彼女は和倉 伊吹。
僕と同じ学年で、隣の高校に通う18歳の"女の子"。伊吹は、あきちゃんの親友であり爽くんの再従兄弟でもある結城 要くんの恋人…和倉 恭介さんの歳の離れた妹だ。
まぁでも僕からしたら、中学からのしょうもない腐れ縁なんだけどね。僕は和倉さんに会うより前から伊吹を知っていたから、要くんの恋人の妹だと知った時は正直かなりビックリした。色んな縁で最近は以前より会う機会も増えたんだけど、学校まで乗り込まれたのは今日が初めてだ。
全く…どうやって他校の校門突破してきたんだよ。不法侵入だぞ。
「なーんだ!なら返事してよ旭」
「……あのね、ここ…僕の学校……君の学校はお隣……間違えてるから早く帰りなさい」
「間違えてないって!私、旭に会いにきたから!」
「……へぇ…」
「ねぇなんか旭…超塩対応じゃな~い?ご機嫌斜め?」
「………なんていうか……その、せめて……」
「ん?」
「1人で来て欲しかったなぁって…」
僕は気まずい表情のまま、伊吹の左右にいる露出の激しい華奢な女の子たちを見る。2人とも伊吹にベッタリで見てるこっちが恥ずかしい。
全く伊吹は……相変わらずだな。
僕と伊吹は学区が同じで中高共に隣の学校に通っていた。僕が中2の時、当時からとんでもない美少年だと有名だったあきちゃんに伊吹がちょっかいかけに来て、で…あきちゃんの代わりに僕が伊吹と出会うことになったってわけ。なぜかそこから伊吹に懐かれちゃって、今でも結構仲のいい友達やってる。
今でこそいい関係だけど、当時はこんなチャラくて手の早い奴に大切な兄を会わせるわけにはいかないって本気で思ってたんだ。あきちゃんって、放っておくとほんと誰にでも騙されちゃうから。伊吹に会わせたらその場で剥かれかねないかなって…
…あ、それは言い過ぎ?
今となっては伊吹にも本命ができたから安心なんだけどね。最近じゃフォトグラファーとしての将来性を買われて、要くんの家で撮影会しまくってるみたいであきちゃんともすでに仲良しらしいし。そう思うと中高と必死にあきちゃんと伊吹を会わせないように努力し続けた僕の労力って…。
あ…でも、爽くんはいまだに伊吹とあきちゃんが会うのにいい顔してないらしいけど。ほら、伊吹ってボディータッチ激しいしね?いくら和倉さんの妹でも、彼氏としては許容できないのかも。爽くんって、あきちゃんのことになると心めっちゃ狭くなっちゃうからさ。
「あぁ、そっか!!ごめんごめん!!じゃあ~2人とも先帰っててくれる?私この超絶イケメンとお話があるから」
「ええ~?伊吹お友達紹介してくれないのー?この人日下部くんでしょ?噂以上にイケメンじゃん!私伊吹と日下部くんが仲良いなんて知らなかったぁ~」
「私も紹介してほしいー!!日下部くんとお話したぁーい!!」
「だめだめ!この男今ガチ恋中だから!そういうのは無し!」
「ええーっそうなんだー?ざんねーん」
「なんだぁ~彼女持ちかぁ~」
………は?
今伊吹……なんて言った?
ボーッとしながら会話を聞いていた僕は、慌てて本を閉じる。
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