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バイプレイヤーズロマンス【後編】1
自分が同性愛者だと自覚したのは小学生の頃。最初に違和感を感じたのは、自分自身ではなく周りの変化に気が付いてしまった時だった。
低学年の頃は男女の垣根など全くなくみんな仲良く遊んでいたはずが、高学年になる頃にはいつの間にか自らの性を意識し出す。異性への小さな興味は、ただの好奇心からゆっくりと明確な欲望へと変化していく。それが当たり前だとと思っていたし、いずれは自分もそうなっていくと確信していた。
けれど、身体の成長と共に育っていくはずのその感情が、俺には一向に表れなかった。そしていつしか気が付いた。俺の好きになる相手は、自分と同じ性別だけなのだと。
別にゲイであることが恥ずかしいとは思わなかったけれど、あえて吹聴するようなことではないからと…親以外には誰にも自分の性的嗜好について話すことはなかった。そのまま中高と誰にもバレずに普通の学生生活を過ごし、幸いなことに差別を受けた記憶もない。あれがまともな恋愛経験だと言えるのかどうかは定かではないが、高校時代は軽いお付き合い程度なら何度かしたりもした。
けれど結局、本気で好きだと思う相手にも俺を理解してくれるような友人にも出会うことはないまま大学に進学して………俺はようやく、現実を知ることになる。
人としての尊厳を全否定されるような毎日を過ごし、
そして最終的には……
この世で最も最低だと思っていた男に犯された。
樋口に支えてもらいながら4年間散々色んな嫌がらせに耐え続けて、やっと大学院に進学しようと決意した矢先の出来事だった。
その頃は記憶もあいまいになるほど毎日研究に明け暮れていて、研究室に泊まり込みは当たり前だったし睡眠も食事もすっ飛ばして命を削って研究に打ち込んでいた。
相変わらず仲間に煙たがられてはいたけれど、俺は研究さえ続けられれば良かったし、教授からも期待されていたから大抵のことは我慢できた。その頃には研究室で罵倒されることにも、蔑むような視線にも、とうに慣れきってしまっていたんだ。今考えれば、その慣れからくる油断も…あったのかもしれない。
その日は俺とあの男だけが教授から指示されて大学に残っていた。
2人きりの空間で眠気覚ましに入れたコーヒーに混ぜられたのは、当時研究に使用されていた海外の強烈なデートレイプドラッグ。一粒飲めば意識は保ったまま身動きが取れなくなる最低最悪の劇薬だ。
せめて意識が無くなれば…まだ良かったのに。服を脱がされる瞬間も、髪を掴まれ身体を舐められたことも、アイツが中に入ってくる感触も、気色の悪い笑顔も……全部、ちゃんと記憶に刻まれている。
忘れたくても…忘れられないんだ。それを…動画に撮られたことすらも……。
"おい清水お前…初めてかよ…!"
痛い…痛い…
"ハハッ…!ウケる…!お前散々みんなにビッチとかいじめられたくせにバージンだったのかよ〜!やばすぎ!!おら、こっち見ろ!!"
やめて…もう、しないで
"あーやばっ、マジいいわ…こりゃみんなハマるぞー?明日から全員のオナホにしてやるからなー?楓ちゃーん聞こえてるか〜?"
気持ち悪い、吐きそう…
"あはははっ!そんな睨んだって無駄だよー?ほら、撮っちゃったから"
助けて…助けて……、
"こんなにいいならもっと早く犯しときゃよかったわ…4年も無駄にしちまった…!お前、同期としては優秀すぎて最悪だけど…性奴隷としては100点満点……最高"
助けて…!樋口っ…
いくらやめてくれと泣いたところで、その行為が途中で終わることはなく…やっと解放された頃には身体中が色んな体液に塗れていた。
重たい身体を引きずって泣きながら帰りのバスに乗ったけど、前戯なしに突っ込まれた俺の後ろは自分で思っていた以上にダメージを受けていて、座ることすらままならなかった。
やっとの思いで自宅に帰り着き、シャワーを浴びた瞬間……俺はとうとう声を上げて泣いた。ダラダラと垂れてきたアイツの体液にはハッキリと赤が混じっていて自分が何をされたのか嫌でも思い知らされた。
アイツの宣言通り、翌日から研究室の他の男たちからも散々犯され、嬲られた。きっとあいつらからしたらただの暇つぶしだったのだろう。悪夢のような時間は、俺が逃げ出すまで約2ヶ月続いた。
俺は……研究のストレスと、日々の性欲を一気に解消できる都合のいいおもちゃ。4年もの間どんな罵倒にも耐え続けられたのに、身体を奪われた途端…俺の精神はあっけないほど簡単にぶっ壊れた。
こんな話、樋口にも…誰にも…出来るはずなんて無くて……
結局そのまま泣き寝入り。
きっと一生誰にも告げず、この出来事の全てを墓場まで持っていくんだろうと…そう思っていた。
……なのに、
「………なんで、全部言っちゃったんだろう……ばか………」
布団の中で丸くなりながら呟く。のそのそと頭だけ布団から出すと、どうやらちょうど夜が明けたようだ。結局…全然眠れなかった。淡い光が漏れていたカーテンに腕を伸ばしチラッと外を見ると見慣れない空の色になんだか笑えてしまった。
夜明けの空の色って…夕方と似てるよね……
こんな時間に起きていたのはいつぶりかな…俺も歳を取った。若い頃みたいに簡単にオールは出来なくなったもんなぁ。
小さくため息を吐いてもう一度布団に潜り込む。寝たいけど……到底眠れそうにない。
本日俺の店は臨時休業。というのも、今日は旭くんの高校の卒業式があるからだ。もちろんあきちゃんも出席するから必然的にうちはお休みって訳。
まぁ、俺は行くつもりないから無理矢理開店しようと思えば出来たんだろうけど…でも、とてもそんな気分にはなれない。
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