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バイプレイヤーズロマンス【後編】6
「あの……」
「…ん?」
「お兄さん……あ、お兄さんですよね?お姉さん…?」
「あ…男です」
これは割とよくある会話。俺背は高めだけど、童顔だし男としては髪が異常に長いから結構な頻度でこう聞かれる。でもスーツ着てまで聞かれるとは思わなかったからちょっと意外。
「めちゃくちゃかわいい……」
「え」
「…あ!やば!つい本音が口から出ましたすんません!!」
「…あ、あははっ…!いやいや、ありがとう…?で、いいのかな…?」
「あの…!お兄さんは卒業生のご兄弟ですか?」
「え?ううん、知り合い……かな?」
友達、とは……今はまだ言えないから。
再びステージに目を向けると、思わず口角が上がってしまう。旭くん…ほんとに素敵。
「あ…もしかして、見惚れてます?」
「へ?」
「日下部会長…すっげぇカッコいいですよね!」
「…うん…!…え…、……えっ?会長?」
「…?はい、今答辞読んでるのうちの元生徒会長です」
「………ええっ!!!?」
言われて初めて気付いた。そっか……生徒会長だったから答辞読んでたんだ…!なるほど…!
旭くんが生徒会長だったなんて全然知らなかった。だって、旭くんもあきちゃんもそんなこと一言も……
全く君って子は…どんだけミステリアスなんだよ!
「あの人…3年間一度も首席の座から落ちたことない上に、人当たりも容姿も良い完璧超人ですよ」
「………首席…」
「はい、欠点ゼロな上頭良くてめちゃくちゃ優しいから死ぬほど女子にモテるんです…超羨ましいです!!」
「……へぇ…そんなに?」
「はい!本人はぜんっぜん興味なさそうですけどそれはもうエグいくらいモテモテです!」
「…ふふっ…そっかぁ…だろうねぇ」
「俺、日下部会長のこと大好きですけど……正直…後任としてはかなり荷が重いんですよ」
「…!君、今の会長?」
「はい…今期は俺が生徒会長です!」
頭をかきながら照れたように笑う目の前の男の子がかわいくて…こっちまで笑ってしまう。この子、旭くんの直属の後輩ってことかぁ…。なんだか知らなかった旭くんの学生生活を垣間見れたようで新鮮。
「そっか、頑張ってね?」
「……はい…!…あの、お兄さん…」
「ん、なぁに?」
「その…お名前をお聞きしても…?」
「え…?名前?」
「はい…!なんというか…、こう…今まさに新しい扉が開かれたと言いますか……今まで女の子にしか感じたことのない感情がふつふつと…」
『以上、答辞といたします…卒業生代表、日下部 旭』
答辞の言葉が途切れた瞬間、割れんばかりの拍手が体育館を揺らした。俺は必死に話す男の子からステージ上の旭くんに視線を戻し、再び熱い眼差しを向ける。これだけ人がいたら絶対バレないから、気兼ねなく見つめられる。
丁寧にお辞儀をした旭くんはゆっくりと顔を上げ…キョロキョロと視線を彷徨わせる。何かを探しているようだ。旭くんはしばらくそのまま立ち尽くし…
そしてついに、見つけてしまった。
……俺を。
視線が交わった瞬間、旭くんは一瞬驚いた後安心したようにニコッと笑って…一言呟いた。
"いた"
鳴り止まない拍手の中だったし、もうマイクも切られていたから聞こえはしなかったけれど口の動きで彼の言葉は容易に読み取ることができた。
俺は思わず両手で口元を覆って、涙を堪える。心臓が痛い。
不意打ちヤバ…!なにこれ…!ビックリするくらいキュンとした…!
ああもう、ばか……!こっち見てくれただけで何舞い上がってんの俺…!大人だろ恥ずかしい!
案の定旭くんのキラキラ王子様スマイルは俺以外にも効果抜群だったらしく、体育館中から女の子の悲鳴やらため息やら…色んなものが聞こえた。
気持ち、超わかる!!!旭くんかっこいいよね!!!
「……あ、あれ……?日下部会長…こっち、見てる…?」
「……えっ、あ、」
「え…もしかしてお兄さん…!会長のお知り合いなんですか!?」
「あー……、うん、実は」
「…ゲ!!……やっべ!!!俺ヤバイ人ナンパしようとした!?」
「ええっ!?今ナンパしようとしてたの!?」
俺がそう言うと、真っ赤になってあたふたと焦り出す。"違うんです違うんです!"と必死に叫ぶが、どうやら言い訳は苦手なようだ。
「あー…クッソォ…すみませんでした…!会長には言わないでください…」
「えっと…、俺に声かけてくれたこと?」
「と、いうか…誘おうとしたことを…ですかね?日下部会長のお知り合いを誘おうとしたなんて…俺ヤバイですもん!」
「え?ヤバイの?なんで?」
「だって俺…日下部会長のあんな笑顔初めて見ました…!!あなたが会長の大切な人なことは一目瞭然です!ああー…やばいっ!俺あの人だけは絶対敵に回したくないんです!!」
「そんな、大層なもんじゃないよ…俺」
「いいえ!長く会長の側にいたんでわかります!あなたは絶対特別な人だ!!」
自信満々に言い切られてしまって、思わず苦笑い。勘がいいのか悪いのか…ほんと、面白い子だなぁ。
旭くんがステージから降りると、卒業生が全員立ち上がる。同時に吹奏楽部による演奏が始まり、いよいよ退場のようだ。
俺、ほんとに最後しか見れなかったんだな。でも旭くんの答辞が聞けてすごくラッキーだった。
これだけで、来てよかった。
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