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バイプレイヤーズロマンス【後編】5

旭くんの通っていた高校は、余裕で偏差値70オーバーの超名門。俺も勉強だけはそれなりに出来たから高校もそこそこいいとこ行ったけど、ここは俺の母校よりさらにレベルが高い。 その上、かなちゃんとあきちゃんの通う大学にも当たり前のように推薦で入学が決まっていて、さすがと言うかなんと言うか。なんせあそこの大学の推薦制度は他とは全く違う。推薦入学が許される事自体かなり稀だし、いざ推薦が決まれば入学金や授業料どころかあらゆる雑費までまとめて学校からお金が出るんだ。もちろん並大抵の秀才じゃあり得ない話。 ほんと、あの子はどこまで完璧なんだろう。 保護者用駐車場に車を停めたはいいものの、なかなか外に出る勇気が出ず結局車の中で待機する。サンバイザーミラーを見ながら無意味に髪型を整える。 スーツなんて、本当に久しぶりに着た。大学の時以来かも。どんなスーツにすべきか相当悩んだけど、結局だいぶ昔にテーラーさんにお願いして作ってもらったネイビーのスーツにした。俺がもってる中では一番無難で一番上等だ。ロングヘアは縛るかどうかかなり迷ったけど、結局そのまま下ろすことにした。 卒業式の会場はもちろん体育館な訳だけど、駐車場からじゃ中の様子はよくわからない。だけど、周りに人がほとんどいないことを考えれば…おそらく式はもう始まっているのだろう。 「……はぁぁあ~~……この意気地無しぃ……何しにきたんだよ…」 おっきなため息と共に情けない独り言を呟く。なんて様だ。 そもそも、こんな…保護者でもなんでもない男が今から1人で中に入ることは可能なのだろうか…?防犯の観点から見ても俺って相当不審者なんじゃ…?こんなことならあきちゃんに連絡して一緒に入れば良かったかもしれない。 ちなみにかなちゃんは和倉くんと一緒に伊吹ちゃんの卒業式に行ってるから、こっちには後から来ることになっている。つまり、俺は今マジでぼっち。 考えれば考えるほど…中に入る勇気が萎んでいく。今突入するのは相当勇気がいる。 いや、待てよ…? 別に中に入らなくっても、中の様子が見れれば…それでいい。なら…他にも方法はあるじゃないか。 俺はやっとの思いで車から出ると、キョロキョロと周りを見渡して…そっと駐車場を抜けた。 そのまま体育館沿いの庭に出て、なんとか覗ける場所はないかと必死に目を凝らす。遠慮気味にひたすら進むと、視線の先に校舎と体育館の渡り廊下が見えた。 やった…!扉、開いてる! そう思って、中を覗いた瞬間…聞き慣れた優しい声が耳に届いた。 『本日はお忙しい中、私たちのためにご臨席くださいました皆様…誠にありがとうございます』 ハッとして体育館のステージ上を見ると、世にも美しい少年が立っていた。少年…と呼ぶのがもう相応しくないように感じるのは、俺がもう君のことを大人だと思えてしまったから……なのかな。 『3年間私たちを支えて下さった先生方及び在校生の皆様、温かく見守って下さった保護者の皆様本当にありがとうございました、これからもたくさんの…』 旭くんが答辞読むなんて…俺、聞いてなかった。 スラスラと詰まることなく紡がれる誠実な言葉の数々。旭くん以外の人間が口にしたら単なるテンプレだと一蹴されてしまいそうな文章も、なぜか本心だと思わされる。この説得力も彼の魅力の一つかもしれないな。 流れるようなサラサラな茶髪、柔らかい眼差し、長い手足に、優しい声。完璧と思わず称えたくなるような圧倒的な美だ。眩しい。 あきちゃんと旭くんは2人とも美人だけど、ベクトルが全然違うんだよね。兄弟なのになんだか不思議。笑った顔はそっくりだけど、真面目な顔してたら本当に血が繋がってるのか疑いたくなっちゃうくらい。 昨日あのクズから相当殴られたとかなちゃんから聞いていたから、もし旭くんの美しい顔面が腫れていたりしたらどうしようかと思ったけれど…どうやら顔は無傷のようだ。けれど、代償に右腕はしっかり三角巾で吊るされている。 あのクズ……うちのかわいい従業員を骨折させるほど殴りやがって…… そう思った途端、また俺の中で怒りの炎が燃え始める。 ……やっぱ、絶対許せない。 しばらく旭くんの答辞に聞き惚れていて、ふと気が付く。 在校生も、卒業生も、先生も、保護者でさえも…みんなが旭くんを見てポーッとなってる。なんという人タラシ…!いやわかるけど!俺も見惚れちゃってたし!! 「………あの、中入られます?」 「…えっ」 急に肩を叩かれて後ろを振り向くと、学ラン姿の男の子。"生徒会"と書かれた腕章をつけている。おそらく2年生だろう。 「…!保護者の方ですか!!?あのっ、良かったら空いてるお席までご案内しますよ!」 「え!?い、いや…俺はここで…」 「そんな…!是非、ご案内させてください…!」 「いやいや大丈夫です!ここからでも見えるんで…!」 「……そう、ですか?」 「うん…でも、ありがとね?」 今入ったら…悪目立ちしてしまいそうだしね? 感謝を込めてニコリと微笑むと、目の前の男の子の頬がポッと色付く。 おっと…純粋な反応。

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