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バイプレイヤーズロマンス【後編】8
「だから、ほら早く玄関行こ!」
「…うん、っていうか…樋口は?来てるんでしょ?」
「もちろん!今は俺の親と一緒にいるよ!」
「あ…そっか…!」
ご両親も来てるんだ。いや、そりゃそうだよね。卒業式なんだから来ないわけない。
あきちゃんと旭くんを育てたご両親……正直めちゃくちゃ気になる。どんな方たちなんだろう…。
あきちゃんに手を引かれ正面玄関に向かって歩いていると、周りから異様な視線を向けられていることに気が付いた。みんなの視線はあきちゃんの顔に集中しているけれど、当の本人は全く気付いていないみたい。
…まぁ、これに関してももはや慣れっこなのかな。
にしても……見られすぎじゃ…?
『見ろよ…!日下部 暁人だ…!』
『え!どこどこ!?あ!いた!』
『久しぶりに見たけどマジかわいい!!暁人くーんこっち向いて~!』
『珍しく旭さまいないじゃん?まだ教室?』
『えっ旭さま無しで暁人くん大丈夫なの?危なく無い?』
あちこちから色んな呟きが耳に入ってきて、大方の事情を察する。あきちゃんはこの学校を去年卒業したばっかりだから、そりゃ在校生にはあきちゃんのこと知ってる人がたくさんいて当然だ。そして、めちゃくちゃ心配されている。思わず吹き出しそうになるほど。
…っていうか、旭くんのあだ名"旭さま"なんだ…!ピッタリすぎるんだけど…!
「…ぶはっ!」
「!?楓さん?なになに?どーしたの!?なんか面白いものでもあった!?」
「…ふっ、ううん…!ごめんっ…!なんか、ほんとあきちゃんってみんなから大事にされてたんだなぁって思って…!」
「みんな?…え?誰?」
「高校のみんな」
「高校……?俺、爽と一緒に住むまでほぼ友達いなかったよ…?というか、高校では旭以外喋る人もいなかったほどの超陰キャぼっちだったし!だから、大事にはされてないと思うけどなぁ……?」
「……うーん………、俺あきちゃんのそういうとこもすっごく好き……」
「………?もしかして楓さんは陰キャが好きなの?え、それなら俺陰キャでもいいかも~やったぁ~」
「………かわいっ」
へらっと無防備に笑うあきちゃんを見て思わず頭をぐりぐり撫でてしまった。あーかわいい。
自分を陰キャだと思い込んでるとことか、みんながあきちゃんのこと大好きだって全然知らないとことか、純粋天然培養大天使…って感じ。正直堪らない。
この子を長年隣で見守って100%天使として成長させた我が想い人へ、この上ない感謝と賛辞を贈りたい。
ありがとう"旭さま"。
「このとんでもない天然美少年を樋口1人が独占してるとかやばいよね……改めてなんらかの罪に問われそう」
「ええっ!?爽捕まるの!!?」
「うんっ!あきちゃんに酷いことしたらね?」
「……なら、平気だよ~爽優しいもん」
「え~?ほんと~?」
「ほんと!」
「んー、笑顔かわいい~」
「あははっ、楓しゃん訳わかんない~なにしょれ~?」
ふわふわの会話をしながらあきちゃんの桃色ほっぺをふにふにいじり倒す。なんて愛しい小動物。
そうこうしている間に無事正面玄関に到着した。すでに胸にピンクの花をつけた子たちも帰宅し始めている。つまり、旭くんも…もうすぐ来るってことだ。
今まで散々あきちゃんと気の抜けたやりとりを続けていたのに、急に身体がガチガチに硬直し出す。
やば、俺めっちゃ緊張してる。
あきちゃんの隣に立つことで高校生たちの視線を一身に浴び続けること…15分。
旭くんのことだから走ってでもすぐにやってくるだろうと思っていたけれど、なかなか来ない。HRはとっくに終わっているだろうし、もしかしたらお友達と話でもしてるのかな…?
…いや、やっぱり旭くんなら俺のこと待たせることの方が嫌がりそう。なんだか、らしくない。
「……旭くん、もう来るかな」
「んー…どうだろ~?何人かによるんじゃないかなぁ…?」
「……はい?何人?」
「うん!たぶんね、たくさん呼び出されてるんだと思う!今日でみんなとは会えなくなっちゃうからね~」
「……え?」
「つまり、告白タイムってこと!旭、中学の卒業式でも学校中の女の子に群がられて大変だったから…」
あきちゃんの言葉に、思わず目を見開く。
考えてみれば…そうだ。卒業式の後…なんて、絶好の告白チャンス。しかも旭くんは今日が誕生日なんだ……俺が女の子でも、絶対今日告白する。
「そっか……!旭くん今…告白…されまくってるってことか……」
「うん、たぶん!だから俺に楓さん引き留めるように頼んだんだと思う…女の子から逃げるのって…相当大変みたいだから」
「なるほど…」
「まぁ俺は女の子にモテた経験全く無いからわかんないんだけどね!」
「それなら俺もだよ?」
「ええっ!?楓さんはモテるでしょ!?背高くて綺麗だし!優しいし!」
「えー?俺優しい?」
「優しい~!!大好き~!!」
「あははっ!あきちゃんはほんと素直でかわいいねぇ~」
天然でふわふわの世界一かわいい男の子を見ていたら、俺の中の悪戯心が疼く。かなちゃんにはやめとけって言われちゃったけど、あきちゃんの反応がかわいすぎて…今のところやめられる気はしてない。
俺はニヤッと笑ってあきちゃんに一歩近づくと、首を傾げて呟く。
「でも、そんなに俺のこと好き好き言って大丈夫?」
「へ」
「……樋口から奪っちゃうよ?」
「ええっ!?」
あきちゃんの驚いた顔に、してやったりの表情を向けた瞬間、身体がグッと後ろに引かれた。
フワッと、半分宙に浮いたみたいな…不思議な感覚。
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