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バイプレイヤーズロマンス【後編】9

「こーら!楓さん…また悪戯して!」 「……へ」 「あ!旭!」 「え…!!?旭くん!?」 「はい、僕ですよ」 首だけ振り返ると、真後ろに待ちに待った王子様が立っていた。 ちょっと待って…!今このタイミングは心の準備全然出来てなかった…!!! 「全くもう…楓さん普段はめちゃくちゃ大人なのにあきちゃんに悪戯するときは子供みたいなんだから」 「あ…、あの…!」 「次したら、爽くんに言いつけちゃいますよ?」 「…!」 近距離でニコリと微笑まれて、思わずとろけ出しそうになる脳内に必死で喝を入れる。 だって旭くん…今日も死ぬほど爽やかなんだもん…!!! 「旭遅かったねー!大丈夫だった?」 「あ、うん!あきちゃんありがとね!楓さんちゃんと見張っててくれたんだね!助かった~」 「えっへへ~もっちろん!楓さん護衛隊の任務は抜かりありませんですぞ隊長!」 「良し!上出来だ!」 「イエッサー!!」 「……ブハッ!」 急に敬礼し出す美形兄弟に大爆笑してしまう。なにそれ。かわいすぎか。 俺に釣られてか、2人も大笑いし出す。 なんか、幸せ。こんな風に3人で間抜けな会話したのいつぶりだろう。 前はこれが…普通だったのにな。 俺と旭くんの間に色々あってから、なんとなくお店の中の空気がギクシャクしていて…きっとバイト中あきちゃんもそれを感じていたはず。ほんとに、悪いことしたなぁ。 全部終わったら、改めて謝ろう。 「……で、あきちゃん」 「んー?なーに旭」 「今から僕本気出すから…ちょっと離れて待っててもらってもいい?」 「………え?なに?本気出すって…どういうこと?」 「あとからちゃんと全部説明するから、今は……楓さんと2人っきりにして?」 「…………はい?」 「お願い」 さっきまであんなに爆笑していた人と同一人物とは思えない。いつに無く真面目な表情の弟に、あきちゃんは困惑したまま頷く。 俺はと言えば、カッと赤くなった頬を2人に見られたく無くて必死だ。長い髪で顔を隠しつつキョロキョロと視線を彷徨わせていると、遠くに見知った姿が見えた。あの背の高い色男は…もしかしなくてもあきちゃんの許嫁様。その横にいるのは……おそらくあきちゃんと旭くんのご両親だろう。 「ちょうど良かった…爽くんたちも来たから一緒に待ってて」 「……うん」 あきちゃんは、よくわからない…と言いたげな表情のまま走って樋口の元へと去っていく。 それでもまぁ、ここから余裕で見える位置なんだけど。 「………スーツ……すごく素敵です、楓さん」 2人っきりになった途端呟かれた言葉に、俺は思わず苦笑い。 「……ねぇ、……絶対もっと話すべきこと色々あるのに、開口一番ソコなの?」 「はい…!だって、スーツ着て来てくれるなんて思ってもいなくて……こんな楓さんが見れてすごいラッキーだったなって」 「ラッキーねぇ…?あ、馬子にも衣装って感じ?」 「いえ、ほんとにすごく素敵です!楓さん色白だからネイビー映えますし、スタイルもいいから細身のスーツ抜群に似合います!」 「ええ…?そんなマジな顔で褒めないでよ…調子に乗るってば…」 「…!それは、是非見てみたいです…!どんどん調子に乗ってください!」 「もー…意地悪ー…!」 すみません、と笑いながら謝る旭くんの方が俺なんかよりずっと素敵で……じわっとさらに頬が熱くなる。 さっきまで君のお兄さんにちょっかい出して遊んでたのに、今度は俺が手玉に取られちゃってるなんてな…なんか、ちょっと情けない。…でもこの甘々の会話が心地いいって思えちゃってるのはかなり問題だ。 だってこの心地よさは……君への"好き"の証拠だから。 「その素敵なスーツ姿で…もう僕の後輩落としちゃったんですか?」 「………え?」 「式の時、一緒にいましたよね?新生徒会長と」 「え……ええ!?あ、あれは…!」 「あれ…?違いました?てっきりナンパされちゃったのかと…アイツ清楚系大好物らしいんで」 「せっ…!?いやいやいや違うよ!!?あの子はただ案内してくれようとしただけ!!」 「………ほんとに?」 「ほんとに!!!」 さすがの鋭さに、焦りまくる。 だけどあの子のためにも絶対本当のこと言わない方が良い。絶対。 「っていうかそんなことより…!!!俺、旭くんが生徒会長だったことも答辞読むことも全く知らなかったんだよ!?それくらい事前に教えてくれても…!」 「……え、それってそんな重要なことでした?」 「重要でしょ!!!答辞だよ!!?」 「…………いや、僕にとっては…楓さんが来てくれるかどうかの方がずっと大事だったんで…すみません、伝えておけば良かったですね」 「え!?い…いや、謝ることじゃないけど…ただ、ビックリして…その、こっち見てくれてなんか恥ずかしかったのもあるし…」 「……ふふっ、」 「なんで笑うの!?」 「……すみません、焦ってるのかわいくて……つい」 旭くんは骨折していない方の手で俺の手を握ると、柔らかい表情からキュッと締まった顔に早変わり。 ……あ、今… スイッチ切り替えた。 「さて、じゃあ楓さん……」 「……は……、はい……!」 「今日ここに来てくれたってことは……僕のものになる決意をしてくれたって思っていいですか?」 「………いや、……それは…、なんていうかっ…」 「……違うんですか?」 「……というか、話し合いに……来た……って感じ……」 「…話し合い……ですか?」 「うん…」 やっぱり俺たちは…君が望む関係にはなれないと、わかっているから…… だからこそせめて最後にちゃんと、今の気持ちを話しておきたかったんだ。結局それが俺のエゴでも……俺のためにこんなに傷付いた君を、待ちぼうけさせるなんて… そんなの、どうしても出来なかった。

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