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バイプレイヤーズロマンス【後編】12

あまーい雰囲気のまま見つめ合うこと数秒、すっかり周りの世界なんて見えなくなっていた俺たちに…現実が突きつけられる。 「ねぇー、旭さまぁ〜!お話まだ終わらないのー!?私たちずっと待ってるんだけどー!!!」 「旭さま~!!私にもボタンくださいー!!」 「日下部せんぱぁーい!私もー!!!」 いつのまにか玄関横に大行列が出来ていて、可愛らしい女子高生たちが必死な顔で旭くんを見つめている。 ……どうやら、旭くんは…告白攻撃を全てかわすことは叶わないままここまで来たらしい。なんてこった。 「あー……」 いかにも、邪魔するなーって言いたげな旭くんの表情に俺は思わず吹き出しかける。 っていうか、学ランのボタン貰う制度って…まだ現役だったんだ。もうとっくに廃れたと思ってたけど、こういうのって意外に受け継がれていくものなんだね。びっくり。 ふと旭くんの学ランを見ると、見事にひとつもボタンがない。袖口のものまで全て。 「………あらまぁ、相変わらずおモテになりますこと……」 「……僕、そんなモテないですって…」 「でた!意味不明の謙遜!現状モテまくってるじゃん!!」 「モテてないです」 「説得力ないって!」 俺たちは、女の子たちに聞こえないように小声で会話する。旭くんはちょっぴり眉を下げて、珍しく不満そうな顔。 「………好きな人以外に好きって言ってもらうことは……モテるとは言わないと思います」 「………」 「というか、この中の何割が本気で僕のことが好きだと思います?……たぶん、1割もいないですよ?」 「………そっか」 「そうです」 「………なら、今の旭くんは……やっぱモテてるよ?」 「え…?いや、今の聞いてました!?」 困惑する旭くんに、俺はいつもあきちゃんにするように…悪戯っぽく笑う。 「だって……今は、俺が旭くんのこと好きだから………ね?それって…旭くん基準でもモテてるってことになるでしょ?」 「………」 「……違う?」 「………違いません」 「ふふっ…!でしょー?」 「……くっそ……、もうやだこの人…ほんと死ぬほどかわいい…!」 「あはっ…!心の声漏れてるー!」 「めっちゃ抱きしめたい…!!」 「あはははっ!無理じゃん!!あばらヒビ入ってるもん!!」 2人して大笑いを始めた俺たちに痺れを切らした女の子達は再び一斉に声をあげはじめる。 その瞬間、遠くからかわいらしい声が響く。 「旭ーーっ!!楓さーんっ!!お話終わったー?そっち行ってもいい~??」 あきちゃんの声を聞いて、俺たちはお互いを見合って1秒後…再び笑い合う。 「あきちゃーーん!今行くから待っててー!!」 旭くんはそう返事をした後、俺の手を取り首を傾げた。これは……なにかの企み顔……? 「…楓さん、僕…」 「ん?」 「今のこのややこしーい現状を一撃で打破出来て、みんながこれ以降僕たちの邪魔を絶対出来ない方法を思い付きました」 「え?」 むにっと、柔らかい感触が唇に広がって初めて……自分が何をされたか理解が追いついた。 もちろん俺は目を閉じる暇なんてなかったから、周りの女の子たちがあんぐりと口を開けて呆然としている姿も…あきちゃんが両手で口を押さえて喜びの絶叫をしてる姿も…バッチリ見えてしまった。 数秒後、唇を離した旭くんは…俺の手を握ったままあきちゃん達の方に向かって走り出す。 「ちょ、えっ!な…っ!旭くんっ!!いきなりそれはズルいっ!!!」 「…あはっ!!不意打ちせいこーう!!行きましょう楓さん!」 「ええっ!?」 「恋人として親に紹介します!!!」 「ええーーっ!!?展開早っ!!!付き合うこと言うの!!?」 「もちろん!!!」 楽しそうに俺の前を走る学ラン姿の旭くんは、今日一番楽しそうで、今まで見た中で一番幸せそうな顔をしていた。 そしてたぶん、それは俺も同じ。 「えっ、待って、今日俺がここに来ることにこだわったのってもしかして…」 「はい!流れで親に紹介するためです!!」 「ハァ!?ねぇ、旭くんっ!気早くない!?」 「早くないです!楓さん僕たちの年の差気にしすぎてる節があったから、親公認なら安心かなって思ったんで!ここまで全部計画通りです!」 「えええっ!!!?全部!!!?」 「はい!!!」 旭くんに手を引かれ、目を白黒させながら走っている間にあきちゃんたちとの距離はどんどんと詰まっていく。 大喜びでピョンピョン飛び跳ねている美少年は、ようやく自分の弟と俺が恋愛に発展したことに気が付いて…もはや興奮が抑えきれないのが丸わかり。こっちまで照れちゃいそう。 「ってわけで、晴れて付き合えたんで楓さんの提案に全力で乗っていいですか!?」 「……は?提案?俺提案なんて……」 「あれ……楓さん、忘れちゃいました?僕が初めてあなたに告白した日の言葉!」 「……え?」 初めて……って……確か…… 『つまり………僕、楓さんと…お付き合いしたいんですけど…それでも一緒に住んでくれますか?』 …………え? 旭くんはこっちに向かって勢いよく振り返ると、満面の笑みで叫んだ。 「楓さんのご提案通り、ルームシェアさせてください!!僕たち一緒に住みましょう!!」 「えっ……えええーーっ!!!?」 この瞬間の俺はまだ知らないことだけど…… やっと手に入れた俺だけの王子様が我が家に越してくるのは、ちょうど……1週間後のお話。 …To be continued.

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