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バイプレイヤーズロマンス【後日談編】2
ゆっくりとバンドドリップを終え、要くんにカップを差し出す。言われなくても本日のデザート、楓さん特製のフルーツタルトを添えたらニッコニコで御礼を言われた。
正直、近距離でやられるとこの顔が見たくてたまらないと言う和倉さんの気持ちもちょっとわかる。甘いものを前にした要くんって…子供みたいに無邪気だから。和倉さんなんて、要くんのためにスイーツのレシピを楓さんにもあきちゃんにも聞きまくって今では相当上達したらしいしね。
元々尽くすタイプの和倉さんからしたら幸せで仕方ないんだろうな。
かく言う僕も存外尽くすタイプだから…これから楓さんを一生かけて甘やかせると思うと、正直ワクワクが止まらない。
辛い思いをしてきた分、何倍も何倍も甘やかして…それこそ砂糖漬けにでもしてあげたい気分。この先の未来、楓さんがずっと笑顔でいられるように…苦しいことや悲しいことは全部僕が引き受けて、ただただ幸せでいてくれたらいいな。
きっと楓さんは…『一緒に幸せにならなきゃ意味ないでしょ?』って言って笑うんだろうけど、僕は本気で思うんだ。
あなたの笑顔が見れるなら、僕はどんなことにも耐えられるって。
「お前……コーヒー淹れんのすげぇ上手くなったな」
「え、ほんと!?」
「うん、マジで美味い」
「やったー!嬉しい!」
「結構練習した?」
「そう!…だって恋人が超一流のバリスタなんだよ…?近付きたいなって…やっぱ思うでしょ?」
「ほーん……ラブラブでなによりですわ」
「うん!!僕今、世界一幸せ!!」
要くんはフルーツタルトをつつきながら、気まずそうな顔を浮かべる。
「……チッ…素直すぎてからかい甲斐ねーわお前」
「えー?だってあんな素敵な人とお付き合いしてるんだよ?幸せ以上に適切な言葉ある?無くない!?」
「…ま、それがお前だよなぁ……」
「へへ~毎日毎時間毎分毎秒楓さんがかわいくてかわいくて仕方ありません!!」
「本人の前よりデレデレ顔じゃねーか…」
「そりゃ楓さんの前じゃカッコつけたいじゃん!」
「一応締まりのない顔してる自覚はあんのな?」
「あるけど…仕方なくない!?楓さんかわいすぎるから!!」
「ハイハイ!!!大惚気ご馳走様でした!!!」
自分でも若干キャラ崩壊してる自覚はある。でもいいんだ。だって…やっと僕の物語の、唯一無二のヒロインを手に入れたんだ。本当に…やっと。だから、少しは浮かれさせて?なんせ僕は今日から……楓さんとルームシェア出来るんだから!!!
「……あ、爽じゃん」
「え」
要くんが指差す先には足のながーい美青年が立っていた。どうやらあきちゃんの帰りに合わせてここまで迎えに来たようだ。相変わらず大事にされてるみたいで…弟としてはとても安心。
爽くんを見つけたあきちゃんは幸せオーラ全開で、そんな2人を見つめる僕の恋人も同じようにニコニコ笑っている。以前よりもさらに、優しい目で。
ああ、よかった。
僕の愛は…きっと楓さんにちゃんと伝わってる。
だって、人間自分が幸せな時はいつも以上に他人の幸せを喜べるものでしょ?僕も同じだからわかる。
楓さんのあの顔は……心からの祝福。
本当に、よかった。
「……僕の脇役人生もようやく終幕か…」
「あ?脇役?」
「うん、そう……僕の人生には最初から…主役が2人もいたからね」
大好きな兄と、その兄を慕う完璧な王子様。
2人が惹かれ合うことは…きっと必然だったから。
そう……一目で恋に落ちた、ロミオとジュリエットのように。
「はぁ~あ…ジュリエットに恋焦がれる日々が終わって本当によかったよ……2人を心から祝福出来るし……結果僕も、僕だけのジュリエットに出会えたしね?」
「……は?…なーにが脇役だよ!こんな完璧な脇役がいてたまるかっつの!お前なんかスペックだけ見たってどこに出しても恥ずかしくない完全体の主人公属性だろーが!ふざけんな!ほんとの脇役に謝れ!」
「あははっ…!もー、要くんのツッコミ相変わらず最高~」
そんな風に言ってもらえて…嬉しいな。
要くんは、クスクス笑い出す僕を見上げて一度大きなため息をつくと…片手で頬杖をついた。
「つーかなんでロミジュリに例えんだよ……行き着く先は悲劇だろーが…爽と暁人がそんなことになったら誰が許してもオレが許さねーっつの!」
「あー確かに…でも僕シェイクスピアでロミオとジュリエットが一番好きだからなぁ」
確かに最後は悲劇だけど、でも…ロミオとジュリエットの互いを想う愛は本物だったから。
僕の人生の愛の象徴は爽くんとあきちゃんで、やっぱり2人は無条件でロミオとジュリエットなんだ。僕の中だけの話だけど。
「まぁ、いいけどさ……でもお前が恋焦がれてたってのはちょっと違くね?」
「ん…?なんで?」
「だって……お前が好きだったのはジュリエットじゃねーだろ?」
「………え?」
「旭が本当に好きだったのは、ジュリエットじゃなく……ロミオの方だろ」
要くんの言葉に、バクッと大袈裟に胸が跳ねた。心拍が止まるかと思うほど。
普段から…何を考えてるかわからないとか、ミステリアスだとか散々言われ慣れていて…自分の心の奥底を他人に言い当てられたことなんてほとんどなかったのに。……やられた。
だってこれは……本当に生まれてから一度も……バレたことがなかった秘密だったんだ。
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