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バイプレイヤーズロマンス【後日談編】3
「いつから……知ってたの?」
「あー…最初からだなぁ」
「……うそっ…」
「俺初めて会った日に言っただろ?『俺お前のこと…すっげーかわいくなっちゃったから…守ってあげたい』って……あれは、お前が死にたいほどの悲恋をしてきたってわかったからだよ」
確かに…言われた。
だけど、まさかそこまで見抜かれているなんて想像もしていなかった。
「楓さんも…旭の長年の片想いの相手は暁人だって思い込んでたし…旭もそう思ってて欲しかったみたいだから黙ってたんだけど…まぁ、もうお前ガチ本命と結ばれたし時効かなって……あ、もちろん今後も誰にも言わねーけどな?楓さんにも」
あまりの衝撃に僕はしばらく押し黙り、ようやく口を開く。
「……どう、して……わかったの…?僕が好きだったのはあきちゃんじゃないって……僕正直、みんなを騙せてる自信あったのに…」
「…なんて言うか、旭が暁人の話をする時の目って……少しも曇りが無いんだよな」
「曇り…?」
「そう……、人間…愛に肉欲が混ざると多少なりとも邪な瞳になるんだよ、いい悪いは別としてな?その曇りが……暁人を見つめるお前からは一切感じなかった」
「……」
「だから、お前の暁人への愛は純粋で穢れのない兄弟としてのものだってわかってた最初から」
形のいい唇でパクっとタルトを頬張る目の前の美青年を見ながら静かに固まる。
要くんは…やっぱり不思議な人だ。
全部を知っていながら、決して口には出さず…全てがハッピーエンドを迎えた時にそっとネタバラシをしてくれる。いつだって、欲しいタイミングに欲しい言葉をくれる……不思議な人。
「まぁ…再従兄弟の俺からしたら……なーんでみんなアイツがいいのか全っ然わかんねーけど!」
「嘘ばっかり…本当は要くんも爽くんのこと大好きでしょ?」
「……うるせーよ」
「あははっ!」
誰よりも優しいのに、やっぱり全然素直じゃ無い。矛盾に満ちた美青年を見下ろして…、今まで誰にも言えなかった真実を口にする決意をした。要くんの言う通り、もうとっくに時効のはずだから。やっと、肩の荷を下ろせる。
僕は一度だけ深呼吸をして、要くんの目を見ながらゆっくり口を開いた。
「……僕はね、あきちゃんのことが好きな爽くんが……好きだったんだ」
「……そっか」
「うん……、だって小さい頃から目の前で本物の純愛を見せられてきたんだよ?1人の人を何年も一途に思い続ける爽くんは、素直に素敵だと思ったし…幸せになってほしいって思った」
今考えてみても、僕の恋はとても不安定で矛盾していたと思う。"好きだ"と確かに感じるのに、彼の隣に立ちたいとはなぜか思えなかった。
爽くんの隣にいるべきなのは自分じゃ無い。そんなことは最初から理解していたし、2人の魂の結びつきには絶対に勝てないとわかってたんだ。
「僕の気持ちの前提には、いつもあきちゃんがいたから」
結局、僕が好きだったのは爽くんであって爽くんじゃなかったのかもしれない。
言葉にするのはとても難しいけれど、きっとそう。
僕はゆっくり視線を下げて、自分の腕につけられた学生には不釣り合いな高級時計を見つめる。ちゃんと僕の好みのデザインで、最高に好みの色。自分の恋人の弟にここまでしちゃうのが……爽くんなんだよね。
思えばこれを受け取った時にはもう、気持ちの整理は済んでいた。
許嫁としてこの世に生を享けた、運命の2人。
僕はその2人の物語の脇役だったんだ。
僕もそれを望んでいたし、その証拠に2人が結ばれた時も心から祝福出来てしまった。
「だから、楓さんに会った時本当に驚いた」
「…なんで?」
「僕にも……こんな燃え上がるような感情があったんだって…驚いたんだ」
「……へぇ、そっか……」
「うん…心から"好き"って想える人がいるのって…無敵で最強なんだなってよくわかった……恋してる時の自分って理性じゃ全然コントロールできないんだなって!」
それにね、僕思うんだ。
同じ人に片想いしていた僕たちが出会って、恋に落ちるなんて……実は相当ロマンチックじゃない?
きっと僕も楓さんも、爽くんを好きになったことは絶対無駄じゃなかった。今は、そう思えるよ。
彼に恋してた時間があったからこそ、僕たちは今結ばれてるって。
「ふーん……じゃあそれはやっぱ…、運命じゃん」
「え……運命かな?」
「うん、旭と楓さんもちゃんと運命だよ…俺はそう思う」
視線を下に落として小さく微笑んだ要くんは、本当に綺麗で…優しい目をしていた。
運命か……
僕たちもそうなら、いいな。
楓さんは、生まれて初めて死んでも手に入れたいと思えた人だから。誰を蹴落としてでも、どんな手を使ってでも…必ず。
あなたの愛を勝ち取れるなら、他の全てを失ってもよかった。
こんな風に他人を愛せるなんて、僕は知らなかったんだ。
「旭くーん!かなちゃん!そろそろ閉店だよ~!……って、あれ?なんのお話?」
「…楓さん」
カフェスペースに顔を出した楓さんは僕と要くんの顔を交互に見た後、キョトンとして首を傾げた。
僕の恋人は、今日も最高に可憐だ。
「いえ、なんでも…」
「別に~?クッソ惚気られてたとこ!旭は楓さんが好き過ぎて死にそうだってさ!」
「え!?」
「は…ちょっと要く…!」
「んじゃ、俺帰るわ~」
「え!?もう!?」
「邪魔したくないんでね…!お幸せに~!NEWバカップル~」
手を振りながら颯爽と去っていく後ろ姿を見つめる。
要くんは僕の知る限り、最高にかっこいい人だ。追いつきたい憧れの背中を見つめながら、僕は真横に立つ大好きな人の手をそっと握る。そのまま頭を傾けて楓さんのつむじに自分の頬を押し当てると、隣からちょっぴり動揺を感じた。
「…あの、旭くん…?」
「ふふっ…すみませんちょうどいい高さに頭があったので」
「ええ~っなにそれぇ~」
「あはっ、重いですか?」
「それは全然…っていうかもしかして旭くんまた背伸びた?なんか、樋口よりかなり高くない…?」
「ああ……そう言われてみると確かに、伸びたかもです」
「うあ~やっぱりぃ~!」
「え、嫌ですか?」
「……嫌じゃ…無いけど……」
「ないけど…?」
「これ以上モテられたら困るもん……旭くんただでさえモテモテなのに…」
楓さんの頭から顔を離して、思わず片手で口を塞ぐ。
……この人はっ……!!
本当にもう……!!
必死に平静を装いながら楓さんに向き直ると、まん丸の瞳と目が合う。
「……?旭くん?」
「……じゃ、早く片付けて帰りましょうか」
「…うん!」
愛しい人のさくら色の頬を見つめて、僕はニコリと小さく笑った。
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