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バイプレイヤーズロマンス【後日談編】4

楓さんとあきちゃんと3人でいつも通り閉店作業を済ませ、爽くんとあきちゃんを見送り…そうして僕たちはようやく家路に着くことになった。 3月下旬、さすがに真冬よりは全然あったかくなったけれどまだまだ冬の名残を感じる気温だ。上着は必須。 楓さんはいつも車で通勤しているけれどなぜか今日は歩いてきたらしい。僕としてはそのおかげでしっかり道を覚えられてラッキーだった訳だけど、これってもしかしなくても僕のためだよね…?その辺あえて言及しないあたりに大人の余裕を感じてしまって、嬉しいけどちょっとだけ複雑。だって嫌でも年齢差を感じてしまうから。 なんにせよ楓さんはやっぱり優しい。 「この道…この時間だと結構暗いんですね」 「うん、そうなの!だから夜は気を付けてね?」 「大丈夫ですよ僕男なんで…楓さんこそ気を付けてくださいね」 「…俺も男だよ?」 「でも…楓さんはかわいいからなぁ」 「なぁにそれ!」 「揺るぎない事実です」 「えぇ~…?真顔で言わないでよぉ……」 盗み見た横顔から窺い知れたのは、頬の赤さだけ。それが寒さのせいなのか…それとも今の状況に対する昂りなのかは僕もあえて聞いたりしなかった。 帰りしな僕たちは当たり前のように手を繋いでいたけれど、会話自体はまばらで…それがなんだか逆にお互いの気持ちを煽っていたようにも思う。2人だけで歩く、初めての帰り道。これからこの道を何十回何百回と楓さんと一緒に通るんだと思うと、自然と胸が躍った。 お店から15分程歩いたところで、楓さんの住むマンションが見えて来た。外壁は真っ白で造りもとてもお洒落だし、ちゃんとオートロックでセキュリティ面も申し分無し。住人はファミリー層が多いみたいで、楓さんのお部屋も3LDKらしい。というのも、お家の中に入るのは、実は今日が初めて。以前デートした日に家まで迎えに来たことはあったけれど、中には入らなかったから正直かなり緊張している。今日からここが自分の家になるなんて……今でもまだ夢を見ているようだ。 エレベーターに乗って3階に到着すると、楓さんが素早く鍵を開けて僕を招き入れてくれた。 部屋からは、ふわりといつも楓さんの髪から香るいい匂いがして思わずドキッとした。 この匂い……ずっとシャンプーだと思っていたけれど、どうやらディフューザーの香りだったようだ。なんてこった…この家、丸ごと楓さんすぎる。 「……お邪魔します」 「あ、ちょっと待ってね!今スリッパ出すから!」 足下を見ると、シンプルだけどおしゃれなスリッパ。どうやら楓さんと色違いのようだ。僕がグリーンで、楓さんが黄色。 「はいどうぞ!入って!」 「あ…ありがとうございます!」 「うん!これ旭くん専用のスリッパだからね」 「え!?わざわざ買ってくれたんですか!?」 「もっちろん!」 まさかスリッパまで用意してくれているとは思わなかった。嬉しすぎる。 「あとね…旭くん」 「はい?」 「"お邪魔します"はもう違くない…?」 「え」 「だって今日からここ旭くんのお家でもあるんだよ?だから…"ただいま"って……言って欲しいな…?」 照れたように微笑まれた瞬間、頭の中でクラッカーが鳴り響く。もちろん錯覚なわけだけど、なんかもうそれくらいの破壊力。 「………た……、ただいま……」 「…ふふっ!はい…おかえりなさい!」 かっ………!!!! ……わいい……… 今度こそ頭の中で特大の花火が暴発しまくって、あやうく玄関の鏡に頭を打ち付けるところだった。 「じゃあ~まず旭くんのお部屋に案内するね!」 「あ、ありがとうございます」 「えーっとこっち!ここ!照明のスイッチはこれね!」 「……え……え!!!?」 「じゃじゃーん!!」 楓さんに促されるままたどり着いた部屋には、真新しい家電や家具がきっちり置かれていてセミダブルサイズのベッドには肌触りの良さそうな布団まで用意されていた。 荷物は明日実家から届くことなっているから、もちろんこれは僕の私物ではない。そもそも実家から持ってくる予定のものは本当に最低限で、他は全部引っ越してから買いに行こうと思っていた。 つまりこれ全部……楓さんが用意してくれたってこと。 「楓さんっ…やりすぎです!!!」 「全然!この部屋すっからかんだったからこれじゃあ旭くんに悪いなぁって思ってたし…」 「何が悪いんですか!!?僕居候の身ですよ!?」 「えー…嬉しく、ない?」 「そりゃめちゃくちゃ嬉しいですけど!!!でも…!」 「良かった!!俺インテリア大好きだからすっごく楽しかった!逆にありがとうだよ!旭くんシンプルなものが好きだからモノトーンで揃えたんだけど良かったかな?」 「いや、そりゃ好みど真ん中ですけど…そうじゃなくて!!」 「あ!じゃあ…卒業祝いだと思って?」 「え」 「俺、旭くんに高校の卒業祝いなんにも渡せてなかったし…それにやっぱ俺の方がずっと大人なんで、これくらいさせてください」 「………」 「だめ?」 楓さんって…実は結構ずるいと思う。 両手を合わせて首を傾げられて仕舞えば、こっちはもう何も言えないとこの人は知ってる。僕よりずっと大人で、頭良くて、優しくて、かわいくて、ずるい。つまり、僕は死ぬまで楓さんに勝てない。 僕はこの人のためにこれから何が出来るかな。 どうやったらたくさん幸せって思ってもらえるかな。多分僕は、死ぬまで毎日こうやってあなたのことばかり考えるんだろうな。 それがとても、とても幸せだと思う。

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