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ミスターバイオレンスの遺言【前編】2
「な……に、それ…」
「マンションの下にいたの!!!」
「は…?」
「かな!この子……いつ産んだの!!!?」
「はぁ!?」
「もちろん俺との子だよね!!!?俺マジで見た瞬間呼吸止まるかと…」
「ちょっと待てよお前何言ってんの…!?」
恭介の意味不明な言動に俺が焦って駆け寄ると、腕の中で小さくなっていたその"子"がゆっくりこちらを向いた。
「………さま…」
「…?」
「………かな、め……おにぃさま……」
「…………え、」
「え!!!?お兄様!!!?かなが!?」
ふわふわの金髪に澄んだ緑の瞳が愛らしい、顔のパーツ全てが俺そっくりの女の子。もう1年以上会っていなかったのだからすぐにピンとこないのも無理はない。だって、こんなに成長しているなんて……
「菫(すみれ)…?菫だよな?」
「……はい」
「お前、なんで……日本に来てたのか?」
「はい…今回のママのお仕事…日本だって言うから、菫も来ました…」
「……そっか」
さらに近付いて手を伸ばすと、お人形のようにかわいい女の子が恭介から俺の腕の中へ移動する。俺が抱きしめるより先に、ぎゅっと首に腕を回された。
重度の女性恐怖症である俺が、唯一触っても抱きしめても全く平気な存在。ちょっと見ないうちに…本当に大きくなった。
「えっと……もしかして…かなの……妹?」
「うん、そう……ってか俺が産んでるわけねーんだからどう考えたってそうだろ」
「だ…だってあまりにも顔がそっくりすぎたし!!!!妹がいるなんて初耳だし!!!!」
「だからってなんでお前と俺の子だと思うんだよアホか」
「ごめんそれは希望も入ってた!!!!既成事実最高とか思っちゃってた!!!!」
「正直かよお前は!!!だいたい俺たちまだセッ……」
言いかけて、咄嗟に唇を噛む。
あっぶねぇ………ヒートアップして妹の前でとんでもねーこと口走るところだった。
つーか最後までしてたところで子供出来るかっての。男同士だっつの。
相変わらず恭介といると全然ツッコミが追いつかねぇ。
「そもそもそっくり具合ならお前の家も全然負けてねーだろ」
「……ああ!確かに!!でもうちは見分けはつくし…どっちかというと妹の方がイケメンだからなぁ…」
「……それは一理……いや百理あるな」
「ひゃ…ひゃく!!!?」
「うん百倍」
「あははははははっ辛辣で草!!」
いつもの調子でケラケラ笑い出す恭介から菫に視線を戻すと、目をパチパチさせながら俺たちを見ていた。おおかた意味がよくわからないのだろう。久しぶりの日本でこんなマシンガンアホトークを聞かされれば誰だってこうなるよな。ごめん菫。
「……で?菫、お前おふくろは?なんで1人なんだよ」
「……ママ、おしごと……菫は…お兄様に会いたくて来ました」
「じゃあ1人で…ここまで?」
菫はブンブンと横に首を振り、窓を指差す。促されるように窓から下を覗くと無駄に長ーいベンツが一台。あれは…おふくろ専用の送迎車の中のひとつだ。
「……なるほどな」
そりゃそうか。おふくろが菫を1人でうろつかせておく訳がない。だってあの人にとって大事なのは……、
「でもな、菫」
「…はい」
「俺のとこに来るのはいいけど…知らない人について行くのはダメだぞ?いくら日本は治安がいいって言ってもお前…かわいいんだから」
「……?」
「この人はたまたま俺の知り合いだったからいいけど、他の人にはついていかないって約束できるか?」
「……!」
しばらく不思議そうな顔をしていた菫は、数回俺と恭介の顔を交互に見た後ようやく合点がいったようでニコリと微笑んだ。
「いいえ、お兄様…知らない人じゃないです」
「え?」
「菫…ママの部屋で何度もこの人の写真見ました!だから菫から話しかけたんです」
「……は?」
「要お兄様のお友達だってママ言ってました」
なんで……?
菫の顔を見ながら硬直する。
母に恭介の話など一度もしたことがない。親戚である爽のことは別として、"友達"として話していたのは暁人のことだけでそれ以外に仲のいい人間がいることすら黙っていた。
理由は簡単。単純に探られるのが面倒だったし、同性との交際を簡単に理解してもらえるはずがないこともわかっていたからだ。
なのに……なぜ?
「……菫……えっと……おふくろ……、他になんか言ってた…か?」
「ええっと…はい!"いずれ…お友達では無くなるだろうけど"って……」
「……」
それって………
菫に向けていた視線を、ゆっくり目の前の男に戻すと…俺以上に青くなっている。
「かな……これってつまり……反対、されてるってこと……?」
「………たぶん」
顔を見合わせて苦笑い。
有り余るほどの財力の使い道が…これか?一体いつの間に調べたんだ。てっきり息子の交際相手になんて興味もないと思っていたのに。
これは……もしかしなくても、かなり厄介そうだ。
「ママ……お兄様にお話があるみたいです」
「え…」
「今回はどうしても会いたいんだって言ってました」
「……」
「……だから、菫がここに来るの許してくれたんだと思います」
菫は再び俺の首に腕を回してギュッとしがみつく。
この子は想像していたよりずっと聡明で優しい子に育ったようだ。菫はちゃんとわかってる。俺が家族に会うことに躊躇いがあることも、会うことを快諾するであろう唯一の理由が…妹である自分だということも。
あの母親の側にずっといるのだから俺みたいに多少捻くれてたっておかしくないのに…
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