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ミスターバイオレンスの遺言【前編】1
「ん……?あれ?」
カーテンが半分だけ開かれた窓の外を眺めながらそっと身体を起こす。…が、隣にいたはずの恋人が消えていた。アイツ最近はいつもそう。朝起きると寝室のカーテンを半分だけ開けるんだ。絶対半分だけ。一度、なんで全開にしないのか聞いたら…とびっきり甘い笑顔で『かなの顔に直射日光が当たったら嫌だから』とのたまった。コイツは俺のUVケアまで気にして生きているのかとドン引きしつつ、それでもやっぱり愛しさが勝っちゃったんだから俺も大概だ。
「おーい恭介ーっ」
一応呼んではみたもののリビングからも返事はない。
クイーンサイズのベッドの上には俺の生っ白い足が2本転がっている。夜中に脱ぎ捨てたパジャマを右手で必死に探り出し、人様に到底見せられないような大きなあくびをかます。閉められたままの方のカーテンも開けて、日の光を存分に浴びた。
すげーいい天気。休日の朝イチってなんでこんな気持ちいいんだろ。
シルクのシーツを見下ろしながら、ぼんやりと昨夜のことを思い出す。
直接俺の性感帯に触れることが許されない恭介にとって、俺と一緒のベッドで眠ることはかなり地獄なのだろうとわかってはいる。それでも一緒に寝たいのは俺のわがままだから、アイツがうちに泊まる時は暴発を防ぐ意味でも必ず抜いてやるようにしてるんだけど、なんだか最近その行為も少しずつ変化してきた。恭介の腕は相変わらず拘束されたままだから、変化してるのは俺だけだけど。
昨日なんて俺、アイツの舐めながら自分も抜いちまったんだからもう相当理性飛んでたな。
『…っ、はっ……ッア…』
『んっ…かなっ…やばいっ、かなっ…』
『なん、だよっ…!邪魔すんなっ…』
『やばいっイっちゃうってば…!かなかわいすぎっ、めっちゃエロい…!はっ…、キスしたいっ…!』
『できねーって、わかってん…だろ…!ばかっ…ンッ…』
『んー…わかってるけど…もどかしいっ…!』
『ンッ、きもち…っ』
『むりっ…!むりむりっ…えっちすぎるっ…!触りたいっ…!』
『だーめっ……っ、我慢しろって…ゲロ吐かれてもいいのかよ…?』
『それは全然いいけどっ…!でもっ…かなが辛いのはやだから我慢っ…する…!』
『あはっ…!うん、いい子だね…恭介』
『うう~っ!!!マジで苦しいっ…!だいすきっ…かなっ…!ちんこ痛いぃっ』
『んっ…、すご…バカみたいに硬いな…口に出す…?』
…と、そこまで思い出してからギュッと目をつぶって叫び声をあげたいのをなんとか我慢した。グッと声を押し殺したけど、誰にも聞こえないような小声で本音を漏らす。
「もうやだ……っ、ほんとやだっ…!俺はなんつーことを…」
昨晩自分が口走っていた言葉のアホさ加減に死にたくなって、勢いに任せて髪をぐちゃぐちゃにかき回しながらさらに唸ってしまう。これ…美容師に髪が痛むからやめろって言われてるけど、やめられる気が全然しない。ただでさえ根本から全頭ブリーチしてこの色をキープしてるからダメージが蓄積してるらしい。そんなこと言われたって無理だろ。キューティクルがなんだ?俺について来れないならお前らなんか勝手に剥がれてろ。そんなことより俺の尊厳が脅かされてる。泣く子も黙るミスターバイオレンス結城 要様の尊厳が地に落ちてる。
ああ神様……何故人間は性欲に支配されるとIQがあんなにも下がるんですか?
昨日は本当に久しぶりに恭介とそういうことをした。だってお互い死ぬほど忙しかったんだから仕方ないじゃないか。そのせいで余計にタガが外れた…とも言えるけどそれにしても会話が馬鹿すぎた。そして多分、この後悔毎回してる気がする。いい加減学習しろよな恥ずかしすぎる。
しかも俺、シラフだったんだぜ?俺は自他共に認めるザルだけど飲酒後のことは心の中で酒のせいに出来るから精神衛生上まだマシなんだよ。なのに酒抜きであの醜態…マジで笑える。あんなの恭介以外に見られたら……俺は迷わず死を選ぶ。
一方的ではあるものの、暁人のアドバイスのおかげで恭介とある程度の性行為が出来るようになったのは本当に喜ばしいことだが、やっぱり最後まで出来ないからなのだろうか…結果的にお互い焦らしあう形になってしまってかえって悶々としてる気もする。…俺としては、恭介さえ気持ち良くなってくれたらそれでいいはずだったんだけど……人間って1個問題をクリアすると欲深くなっちまうもんだな。正直、以前にも増して恭介と最後までしたいと考えるようになってしまった。
…さて、あの男は一体どこに行ったのだろう。
なんて、予想はとっくについているのだけれど。大方俺の飯でも買いに行ったに違いない。コーヒーくらい…淹れといてやるか。
グッと伸びをしてから立ち上がり携帯に手を伸ばした瞬間、玄関のドアが勢いよく開かれる音がした。
なんだ、ちょうど帰ってきたのか。
そのままドカドカと普段じゃあり得ないくらいの爆音の足音が聞こえる。朝っぱらから近所迷惑にも程があるだろ…なんて思っていたら、恭介が寝室の扉を蹴って開けた。
「んだよ朝からうるっせぇなアホ恭介っ!ドア蹴んじゃねーよお前は俺か………よ……?」
「かなぁあああああああーーーー!!!!!」
「え……」
「大事件ーーーーっ!!!!」
「……は……?」
泣きそうなのかなんなのかよくわからない表情の恭介は、コンビニのレジ袋を腕にぶら下げたままもう片手に予想だにしなかったものを抱えていた。
え、人間?
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