194 / 203
ミスターバイオレンスの遺言【前編】4
「ねぇねぇねぇねぇやっばぁ~~い!!!俺初めてかなが王子様に見えた!!!!キラキラぁ~!!!なんちゅー美形兄妹…!」
「うるっさ………お前さぁ、もっと話し合うべきこと山ほどあんだろ今すぐに」
「だってもうなんか少女漫画の世界なんだもーん!作画がベルサイユの薔薇なんだもーん!!俺のハートが美しく散っちゃいそうなんだもーん!!!」
「クソキモ」
「キャーーーー今日も暴言に痺れるぅー!!」
ジタバタとはしゃぎながら歩く恭介のケツを優しく蹴り上げながらリビングに向かう。
…と言うかコイツいくつだよ。そのアニメは絶対世代違うだろ。おふくろが好きだったやつだぞ?
ああ、もう…考えなきゃいけないことが多すぎて頭いてぇ。
「えーっと、とりあえずコーヒーいっとく?」
「天才…朝からワインいくわけにはいかないし現状の特効薬はコーヒーだけ」
「だよねーーーー」
「あー………くっそ…楓さんのコーヒー飲みてぇ~!!!」
「お!出張バリスタ呼んじゃう!?」
「ダメダメ今日は楓さん旭とデート」
「そりゃ邪魔できないね」
「だろ?だからお前で我慢」
ひっで~!と叫びながらケラケラ笑う恭介を横目に俺はソファにダイブ。まぁ、実際にコーヒーを淹れるのはコイツじゃなくて機械なんですけどね。コーヒーメーカー様いつもありがとう。
「ふぅ……じゃ、何から聞きたい?」
出来立てのコーヒーを受け取った俺は恭介の目をじっと見つめる。
何を聞かれたって、コイツにはもうなんだって素直に話そうと決めていた。
「えっとじゃあ……改めて……あの子は、妹…なんだよね?」
「……うん、菫はおふくろが再婚した後に産んだ子だから俺とは種違いの兄妹」
「種違いってことは…父親が別ってことか……にしてはめちゃくちゃそっくりだね?」
「な?おふくろの産む子供はみーんな強烈におふくろ似なんだよな…あの人の遺伝子って主張強そうだからな…本人に似て」
なーんて…こんなこと本人に言ったら殺されそうだ。
機嫌を損ねるとクソめんどくさい女ナンバーワンだからなあの人は。こういう弄りはタブー中のタブーだな。
「なるほどね~ビジュアルから察するに菫ちゃんはどこかの国とのミックス?顔はかなそっくりだけど髪の色とか目の色とか…色々日本人離れしてるよね?」
「正解、おふくろの再婚相手フランス人なんだ」
なんだかんだと核心をうまく回避して聞いてくれてはいるが、恭介が本当に言いたいことはわかっている。俺だって逆の立場なら思うさ。
"なぜ、いままで話してくれなかったのか"
ってね。
別に妹のことも義父のことも秘密にしていたわけではない。…ただ、あえて自分から話題にしたくないと思っていたのは事実だ。現にこの話は暁人にすらしたことがない。
きっと暁人の家のように飛び抜けて仲が良かったり、逆に恭介の家のように爆裂に不仲だったりしたら話題にしなければならない場面もあっただろう。だけど、俺はどちらでもない。
俺は……誰がどう見たって今の家族に馴染めていない。正確に言えば、新しい父と全く親しくないんだ。誤解がないように言っておくが、義父はとてもいい人だ。俺には勿体無いくらい、いい父親。
でもだからこそ、俺はあの人の家族であることから逃げ出したかった。
「……俺、義理の父とあんま関係良くなくて…だから…家族の話も全然お前にしてなかったんだ…ごめんな?」
「ううん…!なんでかなが謝るの!」
「だって…あんだけお前の家庭には首突っ込んだくせに…自分は妹がいることすら言ってなかった訳だし…」
「まぁ…それに関しては寂しくないって言うと嘘になるけど…でも俺は…かなが話したくなった時に話してくれればそれでいいんだ」
「……え」
「別に最初から全部教えてくれなくたっていいんだよ」
「……なんで」
「だってかなが話したいって思った時が心の鍵を開けたいタイミングなわけでしょ?全然それでいいの!無理やり聞くよりかなが歩み寄ってきてくれたみたいで嬉しいし!ほら、なんて言うかさ…楽しくない?」
「は?」
「こう…1個ずつダンジョンクリアしていって…新しいエリアに進んでく快感っていうか…?ミッションはより険しくより困難な方が燃えるんだよね俺!!!」
またもやとびきりの笑顔を向けられて、ちょっぴり沈んでいた気持ちも急浮上。
……恭介ってほんとバカ。…バカで、気遣い屋で、あったかくて、優しさの化身。こういうとこがコイツの魅力なんだよな。
ぜってー言ってやらねーけど。
「ゲーム脳な上に……お前やっぱすんごいドMな……」
「的確ーっ!!!すっげー的確!!さすがかな!!」
「なんで褒められたのか全然わかんねぇ」
コーヒー片手にソファに沈む俺の隣に、恭介も腰掛けた。それをチラリと見守る。珍しく0距離で隣り合ったからか、はたまた菫の言葉から読み取った僅かな不安からか…理由はわからないけれどいつもならあまりしないことをしてみることにした。
フッと頭を横に傾けて恭介の肩に乗せてみれば、案の定わかりやすい動揺がかえってくる。
「ふわぉっ!!!?」
「るせーな…黙って肩貸せねーのかよ」
「ごごご、ごめんっ…めっちゃドキドキするーっ!!」
「ぶはっ…!相変わらず童貞丸出しな反応だなぁ」
「童貞じゃないしっ!!」
「なら早く慣れろよ俺の美しさに」
「ぜんっぜん無理!!!」
「なんでだよ」
「だってかなって常に新鮮に美人なんだもん!!美人は3日で飽きるとか言った奴今すぐ出てきてくんない!!?3日だよ3日!!?無理に決まってんじゃん!!たぶんそいつ本物の美人見たこと無いんだと思う!!だってこんな美の化身前にしてそんなこと言える!!?言えないよね!!?そう言うことだよ!!!」
「…どういうことだよ」
半分冗談で言ったのにこんな全力で返されたらこっちもツッコミきれねーよ。こえーな。
少々発汗しながら興奮する恭介に地味に肘鉄を食らわせ、仕方なく本題に入ることにする。
ともだちにシェアしよう!