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ミスターバイオレンスの遺言【前編】5

「俺さ…家族にとって自分の存在は邪魔なんだろうなってずっと思ってた」 おふくろが再婚した時、漠然と自分はもういらないんだと感じた。俺は母にとって間違えた結婚で授かった、間違った子供。癒えないトラウマを抱えためんどくさくて厄介な存在。そりゃ、邪魔に決まってる。 今の父との間に菫が生まれたあとは、余計に居場所がなくなったと思った。妹が生まれたことは嬉しかったし、菫のことは好きだったけどだからって俺が家族として認められていいわけじゃないとわかってた。 「お義父さんと性格合わなかったの?というか…すごい嫌な人とか?」 「ううんむしろ逆…すんげーいい人」 「へぇ…フランスの方なんだっけ?」 「うん……でも、日本語も上手だし英語もペラペラだからフランス語が得意じゃない俺にも結構積極的にコミュニケーション取ろうとしてくれてた……でも、結局俺がダメだったんだよな」 「受け入れられなかった…?」 「向こうは受け入れようとしてくれてたんだけど……うん、そうだな……俺がどうしても殻を破れなかった」 「どうして…?」 「自分がいない方がみんなが幸せだってわかってたから」 卑屈になっていたわけじゃない。単純に事実として、俺はいらなかった。新しく家族になろうって人たちに過去の遺物など、どう考えたって不要だろ?それだけ。 ぶっちゃけおふくろに振り回されるのがしんどかったのもあるし、俺を忘れて新しい環境で幸せになってほしかったしな。あの人には菫さえいればきっと大丈夫だと確信があった。 「だから…かなはあんまり家族に会わないの?」 「そういうこと……おふくろはなんでか会いたがるけどな」 「そりゃ会いたいでしょ」 「えっそうか?」 「会いたいよ!俺だってかなが息子だったら毎日会いたいもん」 「………会うだけ?」 「ううんほんとは家から出したくない絶対出さない」 「……お前さぁ…冗談言う時はもうちょっと朗らかな表情できねーの?なにその目…お前そんな黒目でかかったっけ?瞳孔全開きじゃんシャレになんねーよ」 「そりゃシャレじゃないもん」 「マジでこえーよ」 母のことは同じ仕事をする人間として誰よりも尊敬している。そのセンスと才能が自分にも受け継がれていてほしいと心から思う。 だけど、親としては……どうかな。 家族として愛しているかと聞かれればもちろんYES。それは間違いない。でもあの人を母親として本当に信頼しているかと聞かれればおそらくNOだ。 ひどいと思われてもいい。これが本音。 あの人もきっと本心では俺のことなどどうでもいいんだと、本気で思っていた。 だからこそ、驚いた。 おふくろ……俺の交際相手に興味なんかあったのかって。 「会いに……いく?」 「……は?」 「お母さん会いたいって言ってるんでしょ?会いに行こうよかな」 「……反対されてるってわかってんのに?」 「うん」 「俺は…行きたくない」 「それでも行くべきだよ」 「………お前は…"結城"の家のめんどくささもおふくろ自身のめんどくささも全然わかってないよ」 「え?」 「あの人を本気にさせたら……結城の家の力も自らの力も…全部使うよ」 「……」 「そしたら俺たち………」 "別れるしかなくなる" …そう、言いかけてそのまま飲み込む。 だってたぶん言わなくても伝わった。真剣な瞳の恭介に何故かドキッとする。いつものふざけたニヤけ顔はどうした。おい。 やっぱ元気な時のお前は察しがいいね。 「……でも、俺は会いたいよ」 「いいよ会わなくて……」 「会いたいよ俺……かなのお母さんに」 「……やだ」 「会いに行こうよ」 「だめ会わせたくない」 「…なら送ってくからかなだけでも会っておいで」 「絶対やだ」 「お願い」 「しつこい」 「……お願い」 グッと手を握られて、思わず睨み返す。 恭介の分際でこの俺に意見するとはいい度胸じゃねーかよ。いつもは忠犬のくせにいざという時に飼い主に噛みつきやがって…かわいくねー。 「……会ったってどうにもならねーよ…」 「でもさ…1回ちゃんと話した方がいいよ会いたいって言われてるんだし」 「………なんなのお前…今回めっちゃしつこくね?なんで母親のことでそんな…」 「かなだって俺の母親勝手に呼んだじゃん」 「ゲッ…今それ持ち出すなよ鬼畜」 「はい~!?どのお口が言うんですか?その可愛くてセクシーなお口ですか?鬼畜お兄さん」 「……上等じゃねーか今からどえらい鬼畜お見舞いしてやろーか?」 「ひゃん!ごめんなしゃい!すき!」 「なんでだよ」 ……確かに、コイツの家族のことには散々首突っ込んだもんな俺。恭介が俺の方もなんとかしたいと思うのは自然なことなのかも。逆でもそう思うだろうしな。 …でも、それでもやっぱり…自分の一番大切な人を否定される可能性があるなら親にだって会いたくはないと思ってしまう。ましてや会わせるなんて…… 「はぁ……チッ……お前、俺と別れてーのかよ」 「ううん結婚したい」 「相変わらず即答かよ」 「うん、ずっと結婚したい初めて会った時から今も現在進行形で」 「………情熱ウザっ」 「アハハハッそれは諦めて」 なんだかいつもより大人っぽい笑い方の恭介を上目遣いで見つめる。忠犬なのか反抗期なのか、よくわからん。 でも一番わけわかんないのは、そんな恭介を見て何故かときめいてる自分。たまーにやってくる厄介な病気。 俺また恭介がかっこよく見えちゃってる…だめだそんなの。 コイツはもっとアホじゃなきゃ、だめ。 「ね、かな……お母さんに会おう」 「………」 「ね?お願い…」 「……ん……考えとく」 「……ブハッ…!ねぇかわいい…!折れてくれたの?」 「うるせーな!!!やっぱダメ!!!」 「いやーーんそれはそれでかならしくてかわいい~!!!」 恭介が俺と家族のことを真剣に考えてくれていることは嬉しい。それでも、やっぱり今はおふくろに会いたくない。 そう…思っていた。 俺は"あの人"を甘く見過ぎていた。 ………なぜなら、俺たちはこの翌日結城可憐に会うことになるのだから。

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