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ミスターバイオレンスの遺言【後編】13
アイツは優しくしようと必死だったみたいだけど俺にはそれが焦らされてるように感じてしまって咄嗟に放った暴言だったんだ。それが見事に恭介の性癖に刺さってしまったようでそこからもう本当にめちゃくちゃにされた。痛いとか苦しいとか考える暇もなかったし、気持ちいいの限界を何度も超えてねちゃねちゃの下半身が俺の後ろに出入りしてるのをただひたすら眺めるような時間もあった。これって本当にセックスしてるだけ?って思うような卑猥すぎる水音を聞きながら、身体中を好きな男に好きなように支配されるのは心から満たされた。
恭介が俺の中で射精しながら、俺の口に指を突っ込んできて上顎を撫でた時なんか……いや、もうこれ以上はやめておこう。こんな生々しい話誰が聞きたいんだよ。恥ずかしい。
「てかお前仕事は?今日平日だぞ」
「そうなんだよぉ~!!!!俺そろそろシャワー浴びなきゃ…めちゃくちゃ仕事行きたくない…」
「働け」
「やだぁ~かなのそばにいたい~一日中お世話してたい~!!!」
「世話など必要ない…馬車馬の如く働け…そして立派な俺の奴隷になれ」
「…奴隷……それは有りだなぁ」
「あははっ…有りなんだ」
相変わらず俺の冗談は通じないようだ。俺が笑っていると恭介は「かわいっ…かわいすぎる…」とぶつぶつ呟きながらスウェットを履く。シャワーを浴びに行く気なのだろう。その前にやらなければいけないことがある。なぜなら昨日実家に行ってから今まであっという間に時が流れてしまって色んなことを聞きそびれていたからだ。中でも俺と恭介の今後の関係を左右する一番大切なことを切り出さなければならない。おふくろにも話すように言われたしな。
「恭介…あのさ」
「ん?」
「パリ……本当に来てくれんの?」
「もちろん」
太陽のような笑顔を向けられ、なんだか幸せすぎてくらりとした。ノータイムの返事にああ本気なんだなと、改めて実感して…俺の中でさらに覚悟が決まった気がした。聞くまでもなかったようだ。
俺は大きく深呼吸をして、ベットの横にあるアクセサリーケースの中から未開封のパッケージを取り出し恭介に手渡す。これは自分の中で昔から決めていたことだった。
「え…なに…?えっと…これって…」
「うん、ピアッサー」
「ん?……開けてほしいってこと?」
「そう」
「………あー………もしかして乳首に?」
「はぁ!?そんなわけねーだろ!」
半分本気だったのか恭介はホッとした顔をする。なんでいきなり乳首にピアスだよ!アブノーマルすぎるだろ!
言い合いがめんどくさいので恭介からパッケージを奪い返し、自ら中身を取り出す。さすがに使い方はわかるだろうと中身だけを恭介に手渡し、俺は右耳を差し出す。
「えっ、えっ…マジで俺にやらせんの!!?こんなんやったことないよ!?」
「お前にやってほしいんだよ」
「……なんで…?」
「願掛け…してたから」
俺は右耳の耳たぶを摩りながら、恭介を見る。このために左だけにしかピアスを開けていなかったんだ。きっとこれ以上のタイミングはもうないと…確信があった。
「もともと左耳は高校の時開けたんだけど、トラウマを克服した時に……右耳にも開けようと思ってたんだ」
きっと俺がトラウマを克服する時が来たらその時はトラウマに立ち向かう勇気をくれた人がそばにいるんだろうなと想像していた。だから、俺を人生のどん底から掬い上げてくれたその相手に全てを捧げる意味でピアスを開けてもらおうと自分の中で決めていたんだ。願掛けと、ケジメと、相手への忠誠の意味を込めて…。
そう恭介に伝えると、悲しいような嬉しいような複雑な感情が見て取れた。
「………そうだったんだ…いや、なんで左だけなのかなとは思ってたんだよね」
「鏡見ながら自分で開けるのは左の方がやりやすかったからな」
「ああ…そういう…」
「うん……だから右はお前が開けてくれ」
「……これってつまりあれだよね…」
「ん?」
「……だるま?」
「ブハッ…!!あはははっ…確かにそうだな!!すげー縁起いいじゃん」
単に開けやすいのが左だっただけで別にそんなつもりはなかったけど、言われてみれば確かにそうだ。なんて知的で美しいツッコミだろう。
爆笑する俺を見ながら恭介は困惑している。まぁ恭介はピアスの穴開いてないし初めてなら怖いのもわかるんだけどな。でもこれは…俺がずっと決めていたケジメだから。
「ごめんな、恋人としてケジメに付き合ってくれ」
「……ケジメって…」
「一緒にタトゥー入れようとか言わないだけマシだろ?」
「いやぁ…でもこれ痛いよね!!?俺かなに痛い思いさせたくないもん…」
「昨日もっと痛い思いさせたくせに」
「…………ぐっ………確かに……」
ギリギリと奥歯を噛み締めながら納得する恭介が面白くて、笑いが止まらない。
「てか伊吹なんてめちゃくちゃ開いてんだろアイツ」
「あれはアイツが勝手にボコボコ開けてきたの!!俺は全然賛成してないの!!」
「…お前なんか昭和の頑固ジジイみたいだな」
「ええっ!?」
「ピアスくらいで頭固すぎ…ファッションだろ」
まぁ俺の場合はそれ以上の意味合いもある訳だけど…これ以上ごねられたくないからわざと毒を吐く。
俺の言葉に渋々納得したのか、恭介は改めてピアッサーのパッケージを読む。ただ押し込むだけなんだけど…と言いたかったがそれは言わずに飲み込んだ。数秒後、恭介は大きなため息の後に俺の右耳を掴んだ。やっとやる気になったかなと思ったが、表情は険しい。
「……やっぱやめない?」
「やめねーよ。しつけーな」
「はぁ~!もうかなは言い出したら聞かないんだから!!」
「はいはいごめんな。なんでも言うこと聞くからさ…頼むよ恭介」
「……なんでも?」
チラッと恭介を見ると、数秒目が合った後…ふわりと優しく微笑まれた。その顔が…なんだかもう無条件に世界で一番好きだと感じた。
この人と出会うために俺の人生は呪われていたんだ。この人を好きになるために俺はトラウマと戦ったんだ。
この人を愛するために、俺はこの世界に生まれたんだ。
お前と抱き合えて、キスできて、俺は今世界で一番幸せだよ。
だから…お前の願いならなんでも叶えるよ。恭介。
「じゃあ……俺と結婚してよかなぴょん!」
サラッと飛び出したいつもの言葉。出会った時と同じ言葉。いつだってお前から言われていた求婚のセリフ。
それを俺は笑いながら聞いて、一言だけ返す。
「いいよ」
数秒経って俺の言葉を理解した恭介は出会ってから一番驚いた顔をした後、俺に真偽を尋ねて……それからそのまま大泣きした。
あ、もちろん会社には遅刻したよ。笑えるだろ?
…To be continued.
※恭介と要のお話はこれで終わりになります。ここまで読んでくださった全ての方に感謝申し上げます。本当にありがとうございました。シリーズ自体はまだ続くのでもう少しだけお付き合いください。
そして、後ほどXの方にこのお話の後日談を載せます。今後の投稿時期についてもXでお知らせさせていただきますので気になる方はそちらをご覧ください。
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