26 / 62
御前の話
「若。御前がお待ちです」
「あぁ」
『馨、待ってる......いってらっしゃい』
目尻に涙を浮かべて綺麗に笑った君
――あの時、ひとりにするべきではなかった?
「御前、ただいま帰りました」
焦る感情をひた隠し、頭を下げて膝を突く
「お帰り、馨。その焦り様......気づいているのか?」
「気づいている、とは?」
「山の妖狐の血を引く一族のことだ」
妖狐......
「いえ。正体までは......縁談があったと」
「あぁ、何百年か前からの習わしでな。この八雲家と婚姻を結んでおった」
「その、妖狐が?」
「それが......」
珍しく歯切れの悪い話し方だった
ともだちにシェアしよう!