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御前の話

「若。御前がお待ちです」 「あぁ」 『馨、待ってる......いってらっしゃい』 目尻に涙を浮かべて綺麗に笑った君 ――あの時、ひとりにするべきではなかった? 「御前、ただいま帰りました」 焦る感情をひた隠し、頭を下げて膝を突く 「お帰り、馨。その焦り様......気づいているのか?」 「気づいている、とは?」 「山の妖狐の血を引く一族のことだ」 妖狐...... 「いえ。正体までは......縁談があったと」 「あぁ、何百年か前からの習わしでな。この八雲家と婚姻を結んでおった」 「その、妖狐が?」 「それが......」 珍しく歯切れの悪い話し方だった

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