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「あれー??!! マキちゃんと藤田じゃないかー?」  冷汗が背中をツーっと伝った。手を繋いでたの、見られたか?  「マ、マキちゃん言うなって――」  振り返ると、自転車にのった柿本が、ニヤニヤしながら俺たちを見ていた。 「ふーん。お前ら、そーいう関係だったんだ?」 「あれー、柿本? なんだよ、見られちゃったのか。そう、俺たちラブラブなんだよねー。ね、マキちゃん」  おい、藤田……。 色々思うところはあるものの、俺は何も言えずにいた。 「何か、マキちゃんはすごく恐い顔してるぜ、藤田?」  柿本が、今にも吹き出しそうになりながら言った。 「だから、テメーがマキちゃんて呼ぶなって言ってんだろ!!」  藤田と手を繋いでいたところを見られたかも知れないという恥ずかしさと、からかわれた事に対する苛立ちで、モヤモヤしながら俺は柿本を睨んだ。 「そうそう、俺だけだぜ。牧野をマキちゃんて呼んでいいのは」  藤田は何を言われても動じないって感じでそう返した。 「あのな……」  俺は、ひとりで慌てている自分が情けなかった――。 「はいはい、わかりました。ま、どうぞお幸せに。俺、人の恋路を邪魔するつもりなんて、これっっぽっちもございませんから」  柿本はそう言い残すと、右手を振り「じゃな!」と言って去って行った。 「おー。俺たち、もっと幸せになったるでー」  藤田が無邪気に両手を振っていた。 「早く消えちまえ」  情けないことに、俺は悪態をつくのがやっとだった。  しばらくの間、俺は口を聞くことが出来なかった。精神的にも肉体的にもメチャメチャ疲れた。 「ごめん、やっぱ、俺、帰る」  やっと言えた言葉がそれだった。 「えー、マキちゃん帰っちゃうの?」  藤田がメチャメチャ残念そうに言った。 「なんかさ、すっげー疲れた」  俺ってもしかしたら、結構繊細なのかもしれない……。 「じゃ、やっぱり俺の家で休んでから帰ればいいじゃん」  って、それが疲れる原因になるんじゃないのか? 「ね、牧野ぉ、怒ってんの?」 「ちょっとね」 「ごめんな……。でも、俺、すっげー幸せだから、つい誰かに言いたくなっちゃってさ。大好きな牧野が俺のこと好きでいてくれたし、それから、お前のこと――」 「おい、それ以上言うなよ」  お前も俺のことが好きだっていうの聞いて、奇跡のように思えて心の中で浮かれてた。 でも、だからって……。俺の顔見て嬉しそうな顔している、可愛い可愛い藤田にこの俺が……。  やっぱり、もう、色々疲れすぎて、俺は家に帰りたい。 「藤田の気持ち分かったけど、やっぱ今日は帰るわ」  俺がそう言うと、藤田が俺の身体を、ガバッと抱きしめて、俺の目を覗き込みながら悲しげな顔をした。 「牧野ぉ……」 「お、おい。ここ外だし」 「嫌だ、帰らないでよ」  なんだよ、そんなウルウル攻撃すんのかよ……。きたねーぞ! 「ね、ホントにゲームするだけだって。少しだけで良いから、俺と一緒にいてよ」  うー。その顔、ダメだ。ずるいぜ藤田。何度も惑わされる俺も俺なんだけど――。 「もー! わかったよ、何もすんなよ」 「うん、うん、ゲームだけ。さ、行こうぜ、マキちゃん」  藤田の悲しそうな顔が、一瞬で晴れた。そして、嬉しそうに俺の肩に手をまわすと、颯爽と歩き出した。  俺、めっちゃエスコートされてる……  おいおい、やっぱり、何か違うんだけど――。 

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